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11話 溝

 バッカス達に生徒たちが襲われたことで、残り後二日を残して実習は中止された。

自校の生徒たちが人さらいにあったのだから、当然の処置だろう。


 仮面の女によって壊滅させられた人さらい集団の名前は、C級賞金首バッカス率いるバッカス盗賊団という名前だ。

 このネーミングセンスの欠片もない名前は、あの自己顕示欲が強そうなバッカス本人が付けたものらしい。

 

 幸いなことに、今回の事件でクラスメイト達の中で再起不能になるような心の傷を負った人はいなかった。

 しかし、バッカスから貴族が関わっていると発言したことから、元々平民を見下してくることもあって貴族に対して不信感を持つ人も少なくないらしい。


 事件の後のある日、Aクラスの貴族達が自分たちのクラスであるCクラスを挑発してきた。

 今までもそういうことがあったが、挑発に乗るメリットがなかったのでクラス全員無視をしていた。

 だけど、バッカスの発言から貴族に敵意を抱いていた人達がその挑発に乗ってしまった。

 勝負の結果は英才教育を受けている貴族達に勝てるわけもなく、挑発に乗ったうちのクラスの人たちは負けてしまった。

 他のクラスとは元々あまりいい関係性じゃなかったけど、今回のことでなかなか埋まりそうもない溝が出来たような気がした。





 ここは生徒会室。

 あまり広い部屋ではないが、椅子や机などの家具はすべて値打ち物だ。そんな高級品に合う美しい少女二人と野性的な顔つきをした男が話し合っていた。

 男は野性的な顔つきをしている割には背筋をピンと伸びていた。


「ミルフィー君、今回の件をどう思う?」


「それは、昨日あった決闘のことですか。それとも、バッカス盗賊団の事件のお話ですか」


 生徒会長であるミルフィーはだれもが見惚れてしまうような笑みを浮かべる。

 しかし、主幹教諭であるバルトはそれに見惚れることもなく、顔に似合わず神妙な顔つきをする。


「決闘の方も頭は痛いが、バッカス盗賊団の方だ」


「そうですねー……。貴族の方々が関わっている可能性はかなり高いと思います」


「何故そう思う?」


「貴族の方々には、援助をもらって通っている生徒達にあまり良い印象を持っていない者は少なくありません。それは、援助をもらってやっとな生徒達が我が校に通うことなど不遜も甚だしいという思いと、自分たちまたは自分たちの息子がここレミナードに通えないのは、援助をもらって通っている生徒達に枠をとられたせいだと考えておられるからです。それに、バッカスの発言とバッカス盗賊団が平民クラスのレミナードの生徒をピンポイントに狙っていたのもありますし」


 貴族には実力主義という考えの者と、選民主義の者に分かれる。 

 実力主義思考の貴族は、平民であろうと実力を伴っていればいいと考えているというものだ。しか し、選民主義思考の貴族はそうではない。

 平民達は自分たちに搾取される存在としか思ってないのだ。

 そのため、そんな平民達が自分たちを差し置いて誉れ高きレミナードに通うことを許せるものではないと考えるものが多い。


「……そうか」

 

 バルトは額に手を当てはぁーと深いため息をつく。


「それともう一つ聞きたいことがある。バッカス盗賊団を壊滅させた者のことだ」


「……何者なのか、と言うことですか?」


「そうだ。バッカス達を叩きのめしただけでなく、無傷で生徒達の解放も成し遂げたことから確かな手腕を持っている。生徒達を助けてくれたことから、悪意を持つ者ではないと考えているのだが、何者かは知っておきたいからな。何か分かっていることがあったら教えてほしい」


「……いえ、わかりません。それを成し遂げられる者は考えつくのですが、仮面をつけて顔を隠す理由ある方はいませんからね」


「メルト君は、心当たりあるかな」


 バルトは今まで口を一回も開かず、2人と離れた所で置物のように立っていた副会長のメルトにも質問した。


「いえ……。お力になれず申し訳ありません」


「いや、気にしなくていい。それでは、この後も用事があるから失礼するよ」


 そう言って、バルトは生徒会室を去っていった。





「今回誰がやったか知っているんじゃないの、ミルフィー」


メルトはミルフィーにバルトがいたときとは違う砕けた態度を取る。


「いいえ、本当に知らないですよ。バルト先生にはお世話になっていますから、知っていたら先ほどにお教えしますよ」


「……あなたはすぐ嘘をつくから信用ならないのよ」


「私は嘘をつきませんよ」


 ミルフィーは笑顔でそう答える。

 ミルフィーの返答を聞いたメルトは何か言いたげな目をしていた。


「ちなみに、私も今回バッカス盗賊団を壊滅させた方に興味がありますよ。無詠唱の魔法を一瞬でいくつも展開しながら同時に設置型の爆裂魔法を唱え、剣を一瞬で握っていたことから空間魔法で剣を取り出したか、土魔法で鉄を生成して錬金術で剣を作り出しだしたと思われます。きれいに腕を切り落としていることから剣の腕も立つ。そして、それらすべての技能を効果的に使用していることが推測できます。……ぜひ、会ってみたいですね」


 これだけ話している内容が詳細なのは、収容所にいるバッカスに話を聞き、ミルフィー自らが推測をしたからだ。


「もし一人でそれだけのことを出来たんだったらすごいとは思うわ。でも、今回の事件の解決なんてこの学校で好成績な生徒ならできると思うけど」


 メルトは何故こんなことを言ったかと言うと、ミルフィーが興味を持つには力不足なのではないかと感じたからだ。


「侮っていけませんよ、メルト」


「どうしてよ?」


「そのような生徒なら今回の事件の解決は可能でしょう。ですが、仮面をした者はこれだけとは思ってないからです」


「なんでよ?」


「それは……」


「それは?」


「私の勘です」


「……なによそれ」


 メルトはミルフィーに侮ってはいけないとまで言われたのに理由が勘だというのは納得いかなかったのか不満そうだ。


「そろそろ時間ですね。今から、事件のこととバッカス盗賊団を打ち倒した方を少しでも知るためにお呼びした一年生がいらっしゃるのでここでこの話は終わりです」


「……分かったわよ」


 メルトは一切納得しているようには見えなかったが、これから人が来るということもあってか、素直に引き下がった。

 


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