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最終話

「楽しかったよ。高校生の君と一緒に居て、すごくエネルギーをもらった感じがする」

 未花さんは、ぎこちない笑顔で言った。

「……それじゃ」

 未花さんは、静かに玄関に向かう。

 僕は、未花さんに何か言わなければならない気がした。

 けれど、それが中々出てこない。

 未花さんが玄関のドアを開けたとき、ようやくその言葉が捻り出された。

「……まだ終りじゃないですよ」

「……?」

「……だったら会社をもういちど一から作って、今度は人を辞めさせないような、働いていて楽しくなるような会社を作ればいいじゃないですか。小さくたって、バカにされたって構わない。理想の会社を……。あんなに面白いことを語ってた未花さんが早々にあきらめちゃうなんて、何だからしくないですよ」

 未花さんはキョトン、としていた。

「理想……?」

「そうですよ。世の中には表向き綺麗なことを言って、内心では違うことを考えている人も中には居ると思います。それに比べたら、未花さんは表面も内面も清廉さを貫こうとしていて、立派すぎる……そう思うんです」

 僕はさっき未花さんからもらった一億円の小切手を取り出して、

「これで、新しい会社を作ってください。未花さんが納得いく会社を」

 僕は力を振り絞って言うと、未花さんはしばらく無言のあと、

「まさか、そうくるとは思わなかったなあ……」

 未花さんはそういって頭をかいた。頬が微かに赤く染まっている。

 そして、未花さんは唐突に両手を広げて、僕に向かって「おいで」と言った。

「……え?」

「いいから来なさい。お姉さんが呼んでるんだから」

 僕は、未花さんに導かれるがままに、近づく。

 すると、未花さんは僕をぎゅっと抱きしめた。

 さらさらした髪の毛、体の柔らかな感触……。

 それはまるで、彼女の誠実な心をそのまま具体化したかのようだった。

 彼女は、言葉を出す。

「いま君の考えを聞いていて思った。……やっぱり私は、前の会社とは距離を置く。あれはもう、私の理想とはかけ離れてしまった『別の何か』だから」

「そのあとはどうするんですか?」

「それから就職のお世話をしてくれた谷垣先生に、私から事情を説明して死ぬほど謝りに行く。そのあと、世界中の面白そうなものを見に行く。そしたらまた社会を違った角度から見られて、新しいことが出来そうな気がするんだ。今度は細々と、ちっちゃな会社を存続させ続けてみようかな。とびきり面白いことができそうな、さ」

「……よかったですね。」

「人ごとみたいに言ってもらっちゃ困るよ」

「どういうことですか?」

「キミも私の新しい会社に来るんだよ。私と一緒に」

「そうなんですか?」

「うん。君は私の新しい会社の従業員第一号だから、いきなり役職だ。いきなり幹部なんて、そうそうあるもんじゃないよ。ヨカッタネ☆」

「まあ、従業員2人だけですけどね……」

 僕は苦笑した。

 そして、彼女と僕はキスをし、抱きしめ合った。

 彼女の瞳には、うっすらと涙が光っていた。



 数年後、アフレカ大陸。

 チュイーン。パン、パン!

「ウオッフゥ。アフレカ現地人め、なかなか手ごわいわね」

「ちょ、銃弾飛んできましたよ、未花さん!?」

「さすがにダイヤが眠ってる鉱山は手厳しいね……でも、輝かしいジュエリーを待ちわびている人たちのためにも、負けるわけにはいかない」

 僕たちは、いつのまにかプライベート・ジェットでアフレカ大陸に飛んでいた。

 アフレカ奥地に眠ると言われている幻のイエロー・ダイヤモンドという貴重な鉱石の情報を掴んだ未花さんと僕は、それを手に入れて国内宝石メーカーに転売し、多額の利益が見込めるはずだった。が、未花さんが現地のガイドに払う案内料をケチってなぜか現地人総勢80人と対立。果てには銃弾が飛び交うトンデモ状態になった。

「ごめんね、ほんとこんなインディージョーンズみたいなことになって!」

「はは……」

 僕は苦笑いした。

 僕は彼女の横顔を見た。

 彼女の表情は、輝いている。

 僕は、その表情を見ているだけで、なぜか生きててよかったと思えるのだった。

「ちょっと、危ない!」

 チュィィィーーーーーン

 僕の頬のすぐそばを、もう一発銃弾がかすめて消えた。

 ……幸せの余韻に浸るのは、もう少し早そうだ。

 僕はそんなことを思いながら、未花さんが荒々しく運転するジープの物陰に急いで隠れた。

「イエローダイヤモンドで一儲けしたら、ジャングル奥地の秘湯で温泉でもあびようね!」

 未花さんが、僕に向かって声をかけた。

 アフレカ大陸の旅は、まだまだ続く。


<終わり>

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