表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/29

第七話 聖杯

「大変だぁー! ものすげえミッションが始まるらしいぜ!」


「まじか! どんなミッションなんだよ?」


 ごつごつとした鎧を身にまとった戦士や、清らかな衣を着た魔法使いが、押し合いへし合いながら掲示板に殺到してる。

 俺はそれを横目に、ノリーナが待つテーブルへと戻った。


「……長かったじゃない……。またいやらしいことしてたんじゃないでしょうね……」


「そんな時間はない」


「どうだか」


 つん、とそっぽを向いたノリーナの視線の先に、件の人だかりが入った。


「あれ? なんかすごい人だかりだね。何か、新しいミッションがでたのかな?」


「どうやらそのようだな」


 ノリーナは立ち上がり、小さな体を人込みにねじ込んでいった。

 やれやれ、俺は背嚢に隠してあった酒瓶を取り出し、二三口喉に流し込んだ。

 喉が、胃が焼けるようだ。


「ミコガミーッ!」


 やれやれ、相変わらず騒がしい奴だ。


「すごいよ! すごいすごいすごい! ……って、全然反応がないね」


 まあ、シャーリーンから大体話は聞いているから、などというのはやめておこう。


「一体、どんなミッションなんだ?」


「“聖杯”! 聖杯探索のミッションだよ! って、またミコガミ、お酒飲んでたでしょ! だめだよ! 朝っぱらから!」


「わかったわかった」


 まったく、やかましい奴だ。


「それより、その任務、俺たちもエントリーするぞ」   


「え? ミコガミは自分のミッションを遂行中だったんじゃないの?」


「気が変わったんだ。とにかく、そのなんとか、っていうコップを探しに行くぞ」


「コップ!? もしかしてミコガミ、聖杯がどんなものかも知らないのに、探索をしようっていうの?」


「なんだかよくわからんが、それをただ探すってことなんじゃないのか」


「君って本当にわけわかんない……」


 はあ、ノリーナは深いため息をついた。


「聖杯ってのはね、伝説の杯なの。大昔の聖者が、この杯に注がれたワインを自分の血だと思って飲め、っていって振舞ったもので、最高の聖性を備えた、聖遺物と呼ばれる代物なの」


 聖遺物、また仰々しい名前もあったもんだ。


「そんなもんを手に入れて、一体何になるんだ」


「はあ? 自分で探そうといってたくせに、何で探すのかって? 君、自分の言葉の矛盾に気づいてないの?」


 言われてみればまあ、そうだな。


「あのね、聖杯って言うのは、それを手に入れた人間は、この世の支配者になれる、って言う代物なの!」


 こらこら、興奮しすぎだ。

 顔が近すぎるぞ。


「そこに聖者の血を注げば、あらゆることがかなうって言われているの! だからこれだけ皆大騒ぎしているの!」


「そうか。まあ何でもいい。とにかく、その探索者として、登録しに行くぞ」


「え? ちょ、ちょっと待ってよ」


―――――


 たっぷり一時間待たされた俺らの後ろにすら、まだまだ終わりが見えないほどの冒険者たちが列をなす。


「大盛況のようだな」


「おかげさまで、ね」


 小さなウィンクを、シャーリンは俺に対して向けた。


「一応規則だから、三百ダールの登録料をいただくことになってるんだけど、この間の話を聞く限りは問題なさそうね」


 俺はノリーナから金貨を受け取ると、それをシャーリーンに渡した。


「毎度。じゃあ、ここにサインをしてね」


 サインをした俺たちに


「これを巻いておいて」


 シャーリーンはひとつのバンドのようなものを差し出した。


「聖杯探索登録者の証明書よ。探索者として、色々便宜を図ってもらえるはずだから」


「いろいろすまないな」


「いいえ。それより」


 ちらり、シャーリーンは俺の後ろに視線を移した。


「そちらのお嬢ちゃんに、しっかり守ってもらいなさい。こっちの世界での冒険には、ああいうお嬢ちゃんの力も必要だから」


「だれがお嬢ちゃんだ!」


 ふふん、シャーリーンは鼻で笑い


「――これ、あなたにだけは教えておくわ」


 俺の耳元に顔を近づけた。


「ちょっと! 何いやらしいことしてんだよ!」


「上層部からの指令よ。まずは南東の方向を目指せ、とのことよ。このミッション、きっとあなたを本当の目的に導いてくれるらしいわ。せいぜい頑張ることね――」


―――――


「で、これからどうするの?」


 城壁の門の前で、ノリーナは言った。


「とりあえず、探す当てはあるのかい?」


「何とも言い様がないがな」


 俺は背嚢を背負い直し、そして門番に左手のバンドを見せる。

 すると門番は敬礼をして下がり、大きな城門を開け放った。


「とりあえず、南、南東の方向へ行く」


「南東と言うと……」 


 ノリーナは両手を、何かを掬うようにして掲げる。


マポウ(地図)!」


 すると、立体映像のように地図が浮かんだ。


「それも魔法か」


「自分が行ったことがあるところしか、表示されないんだけどね」


 ノリーナは、東南の方向に光る点を指で指示す。


「ラ・ミアの街を目指した方がよさそうだね。一度、別の冒険者とパーティーを組んだとき、行ったことがあるんだ」


 どうやら、こいつを仲間にしたのは、あながち間違いだったとも言えないな。


「早速いこう。そこに行けば、何か手がかりがつかめるかもしれないからな」


「けど、気をつけてね」


 ノリーナが真面目な表情で言った。


「君は腕に自信があるみたいだけど、ここはゲームの世界だから。ここでの戦い方というものに、しっかりと慣れておいた方がいいよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ