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color of world

作者: Hiro

休日はベッドの上で過ごす。

これが最近の習慣になりつつある。撮りためたテレビドラマを流してはいるが、聞いているようで聞いていない。視界にはカーテンレールに引っかけられた洗濯物。頭がぼーっとしているわけではない。ただただ日が昇り、暮れていく様を部屋に差し込む光で時間を推測して過ごす。

ーーー猫を飼おうかなぁ。いや、飼われた猫が可哀想か。

朝起きてから寝るまで、こういうことを繰り返し繰り返し考える。

なぜこんな風にしか過ごせないのか。外に出れば体力的疲労が、人に会えば精神的疲労が、想像すればするほど家から出られなくなり、ベッドから出られなくなる。SNSでは、綺麗な景色に癒される者や美味しい食べ物に舌鼓をうつ者、結婚式を挙げる者それぞれが休日を色鮮やかに染めている。部屋の小さな窓から青とオレンジ二色展開の景色とはまるで違う2色以上の色鮮やかな世界。思えばわたしの人生はずっとこうだ。世界にいる人を側から見る人生。途中まではわたしの世界にも色はある。なんたって2色展開だから。でもそこまでなのだ。3色目そしてそれ以降は手に入らない。わたしの人生は、よくある中学生までは成績上位だが進学校に行って平凡さを悟るとかそういうありきたりな人生だ。だか、そこまで落ちこぼれていたわけでもなく、就職も第1希望には通らないが、就職は一応できると行った具合に救いようがないというほどの悲愴感あふれるものではないことが余計につまらない。なにもかもが中途半端だ。いっそのこと無色なら諦めもついただろうに。というのは強がりだ。無色ならきっと24年も息をしてはいないだろう。わたしは24年間、この青とオレンジの2色に命を繋ぎとめられてきたのだ。

青がオレンジに変わりかけるころ、睡魔に襲われ瞼を閉じる。いつものようにたわいもないことを考えながら。夢は見ない。いつもなら。目の前にはレンゲの花が一面に咲いた野にオレンジ色の髪がサラサラと風に遊ばれている青年が背を向けて立っていた。誰かがSNSにアップしていた場所だ。そんなにインパクトあったっけなと片隅に思いながら、わたしは彼の遊ばれる髪に見とれていた。

気がつくとすっかり夜になっていた。

久しぶりに夢を見たなぁ。とひとりごちりながら何かお腹を満たすものはないかとキッチンへ向かう。くじで当たったカップ麺があったので、これでいいかとお湯を沸かす。鍋から少しずつ湯気が立ち上るのを見て、風に揺られるオレンジの髪を思い出す。考えているうちにお湯が沸いた。お湯を入れて蓋の上に箸を置く。3分なんてあっという間だ。蓋を開ければまた湯気。だが今度は頭の中から鼻腔からしょうゆラーメンで一杯だった。明日は仕事だ。そのことの方がわたしの中では夢で見た青年よりも思考を侵し、気だるさを感じながら眠りについた。

1週間、バタバタと仕事に駆け回り、毎日帰ってきては気絶したようにベッドに倒れこんで眠った。ただ一日、木曜あたりだったか、レンゲの花の野を夢に見たような気がしたが、そこまで気にもとめていなかった。金曜の夜は職場の飲み会だった。人と関わるのは疲れるが、アルコールを欲する体のために参加した。ビールと枝豆で干からびた体を潤していると、同じ部署の3つ上の先輩がわたしの隣に腰を下ろした。元気で顔も悪くない短髪の、職業当てゲームをしたらスポーツインストラクターと予想されそうな人だ。普段はあまり人と話さないから緊張する。なに言われるんだろう。

「片山さんってさ、休みの日何してんの?想像つかないんだけど。」

うわ、1番聞かれたくないかつ広げられない話題だ…

と内心思いながらも取り繕って、

「え、映画とかですかねぇー!」

と言う。

「へぇ!どんなの観るの?俺もよく行くんだよ!」

頭をフル回転させ、垂れ流していたテレビで聞いたような邦画のタイトルを口にした。

「うわー、それ俺観たいやつ!もう観ちゃったかぁ、誘おうと思ってたのに。」

「あはは〜…。」

「那月さーん!こっちで話そー!」

ご指名を受けた那月先輩は

「げ。わり、また今度な。」

と席を離れていった。誰か女子社員のおかげでなんとか切り抜けられた。ありがたや。恋愛をすれば、もう少し色のついた世界を歩めるのではないかと思ったこともある。生まれてこのかた付き合ったことがないとか言うわけではない。ただ、彼氏という関係性の人と会うのも疲れるのだ。相手が話をしてくれていても、結局そろそろ青がオレンジに変わるなぁ。と思った記憶しか残らない。わたしには向いてない。

まだ他の人との分岐点を迎える前つまりわたしの世界にも鮮やかさがあったころと何が違うのか。考えながら汗をかきはじめたビールを見つめる。昔を思い返せば、色がある。黄色や赤、緑。ぐるぐる考えているうちに喉が渇いた。ビールをぐっと飲み、おかわりを頼む。気付けば周りはみんな出来上がってきていて、二次会はどこにするかの話で盛り上がっていた。もちろん二次会はパスさせてもらい、自宅への道を急ぐ。青いラインが入った電車に乗り、外を見る。空いていて座れた。周りはみんな酒くさくて、外を見ていることで、澄んだ空気が吸えているような気がした。そしてまた昔の自分に意識を飛ばしていた。

気がつくと青。

帰宅してそのままベッドに倒れこんだようで、服が昨日のままだった。とりあえずシャワー浴びよう。スッキリして、濡れた髪のままリビングへ行くと、スマホがテーブルで震えている。誰だろう。画面を見ると、お母さんの文字。その文字を見て思い出した。お見合いがどうとか言ってたっけ…。出たくないと思いながらも無視はできず、通話ボタンを押し、スピーカーにする。

「もしもし」

「あ!ゆか?やっと出た〜、もう今日忘れてないわよね?」

「…今日?」

「まさか…あんた…忘れたの?!お見合いよ!お母さんの知り合いの息子さんと!銀行員の!」

「あー、うん、行くよ。」

ご飯食べて少し話して帰ってこよう。そう思いながら電話を切った。一応それなりの格好をして、待ち合わせ場所へ向かう。今日もいい青だ。待ち合わせ場所に着くと、噴水の前に男性が立っている。あの人だろうか。近寄っていくと、

「片山ゆかさん…ですか?」

と問われたので頷く。その男性はにこっと笑い、

「行きましょうか。」

と歩き出す。

「洋食屋さんなんですけどいいですか?僕が昔から通っている店で…」

と言われ、

「大丈夫です。」

といいつつ、かしこまったコース料理とかではなさそうな雰囲気にホッとする。彼はサラサラの黒髪で、黒縁の眼鏡を掛けていた。職業当てゲームなら書店の店員さんといったところだ。背も高くスラッとしていて優しげな人、そんな印象だった。店に入り席に着くと、

「ここ、オムライスと煮込みハンバーグがおすすめなんですよー!」

というので

「じゃあオムライスで。」

と返した。結局彼が煮込みハンバーグ、わたしがオムライスを注文した。注文した後、

「あ、僕まだ自己紹介してませんでしたね。僕は、椎名弥生と言います。」

「あ、片山ゆかです。」

なんか普通の人だ。

「お見合い、初めてなので緊張していて…。会った時に普通名乗りますよね。すみません…」

「いえ…わたしも名乗りませんでしたし。」

そんな拙い自己紹介を終えたころ、注文した料理が運ばれてきた。フワトロの卵にケチャップライスがきれいに包まれ、見るからに美味しそうだ。わたしは早速オムライスに手をつけ始めた。

「こっちも食べてみてください。」

とお皿の端の方に一口分の煮込みハンバーグをくれる。

「ありがとうございます。」

これがまた絶品だった。料理の美味しさに感動していると、

「あの、ご趣味は」

と、如何にもな問いを投げかけられた。趣味かぁと考えたけれど何も出てこなくて、当たり障りのない

「映画を観に行くことです。」

と答えた。

「そうなんですねぇ。僕あまり映画館行かなくて…。映像より本で読みたいタイプなんですよ」

とあえて広がらない方へいくことに驚きながらも

「へぇ。そうなんですか。」

とだけ言った。

「えーと、じゃあお仕事は何をされてるんですか?」

おお、次はそうきたか。

「事務です。貿易会社の。」

「事務!じゃあずっと座ってパソコンとにらめっこですか?」

「まぁ、そうですね。」

「飽きないんですか?」

飽きるか飽きないかと言われたらそりゃあ…

「飽きますね。」

「すごいですね。それを続けられてるなんて。」

「いやぁ、まぁ仕事ですから。」

飽きるから辞めるとか言えないよ普通。

「椎名さんは銀行員されてるんですよね?」

「はい!そうです。僕は営業なので、毎日外を歩き回ってます!」

そういう彼の日中を想像したら、綺麗な青空が見えた。

「営業ですか。大変そうですよね、ノルマとか…」

「あーまぁ確かに大変なこともありますけど、自分がやりたい仕事なので、頑張れます。」

やりたい仕事…やりたい仕事って子供の頃からの夢…とか?

「子供の頃からの夢…だったんですか?銀行員。」

「さすがに小学生の頃とかは、ヒーローになる!とか言ってましたけど、中学生ぐらいからはもう親父の背中しか見てなかったですね。」

「へぇ…。」

そう言いながら、わたしは自分の昔を振り返った。わたしは子供の頃、何になりたかったんだろう。パン屋さんとかお花屋さんとか色々なりたいもの、やりたいことがあったような気がする。中学生の頃からは、教員になりたくて大学も教育学部に入ったのだ。1年生で現実を突きつけられ、教員に憧れなくなってしまったけれど。この人は夢を叶えたんだなぁと思うと急に自分とは違う色の、鮮やかな世界にいる人だと感じた。わたしとは違う。

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