少年は、狂気の先を垣間見る
死んだと知った時、僕は日ごろから人の役に立って死んだ偉人の名言について語っていた彼の口癖を思い浮かべた。
「人の役に立って死ねたら最高だよな」
僕は毎回、縁起でもない事言うなよ。と
田舎のおばあちゃんのような事を言っていた。今回ばかりはお前が居ないとダメじゃんか。とツッコミたかったが、その思いが届かない事は想像に難くなかったのでそれ以上は考えたくなかった。
彼は信号が点滅している時に中央分離帯から大きく離れているお爺さんを突き放すようにして迫っていたトラックから守ったらしい。
やはり僕は言いたかった。
お前、縁起でもない事言うなよ。と
その時僕は絶望という物を感じていた。
が、それすらも拒絶する様な大きなものを後に知る事をまだ知らない。
その夜にお通夜が行われた。
クラスの奴らは一人として来なかった。
全員が友達ではないから、話したこともないから、と断ったらしい。
優斗は友達が少なかった。
お通夜では、優斗の母親が弔辞でそれらしいことを言った様だったが、頭に入って来なかった。それから、僕の家族は狂って行った。
翌日優斗の母親は離婚協議を終わらせて家に来た。元々住んでいたマンションは父親の物になった様で、住む場所が見つかるまで、従兄弟である僕の母親が住居を提供した様だった。
それからは悪夢だった。
朝五時になると優斗の母親は泣いて喚き散らかし、暴れ、皿を割り、本棚を倒し家の中に秩序と平和という概念が存在しない空間に様変わりさせた。
僕が自殺しようと思ったのはこの辺りの時期だったと思う。
もう正気の沙汰ではなかった。