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ep.009 ヴォルカヌス・ストーム

桜子は深呼吸すると、

《姿形は少女であれ、あれはリリーシャ。“情け”は無用》

雄叫びをあげ、リリーシャに切りつけた。

リリーシャは楽しそうに、

『ほぅ、神に抗うか。たかが人間風情が』

フワリフワリと桜子の剣先をかわす。

もう何度切りつけただろうか。

時には手応えを感じる事も有ったが、切った先からリリーシャは元に戻るのだ。

《ならば・・・、出来るか?》

瞬時に桜子は盾を背中に引っ掛け、剣の柄にキスし、

「力貸してね」

そう囁いた。

剣を鞘に納め、軽く腰を落とす。

呼吸を整えながら、仕掛けるタイミングを待つ。

少しの間の後、完全に元の姿に戻ったリリーシャは、クワっと目を剥くと口を開いて桜子に襲い掛かった。

《今!》

桜子は高速で駆け抜け、剣を振るった。

何度も何度も。

もう何百回振るっただろうか。

振り向いて剣を鞘に戻すと、リリーシャの身体が四散していくのが見えた。

首だけが宙に残り、ポトリと落ちる。

桜子が近付き、剣を引き抜き切っ先をリリーシャの顔に向ける。

「覚悟」

とどめを刺そうとした刹那、リリーシャが懇願する。

『助けて・・・』

その表情はリリーシャではなく、無垢な少女だ。

桜子は躊躇(ためら)う。

《子供は刺せな・・・》

隙が生まれた。

リリーシャは桜子の手に噛みつくと、力任せにどんどん桜子を引っ張っていく。

空間を越えて行った先に薄い壁が有った。

その壁ですら越えた先に、桜子は藍、ベス、そしてももせの顔を見る。


藍(晴明)とベスは桜子の身体の傍らで様子を見ていた。

二人とも桜子の身体を霊力や魔力を使って抑えるのに必死だ。

ももせはひたすらメロディを刻んでいる。

その時、桜子の身体が激しく振動して、胸の辺りから黒い玉と輝く白い玉が出てきた。

白い玉は細い糸で桜子の身体と繋がっている。

黒い玉だけ目掛けて藍(晴明)が作った四神が襲い掛かった。

黒い玉が白い玉を放す。

ベスが叫ぶ。

「今よ!ももせちゃん、白いのだけ捕まえて!」

直ぐ様、ももせはギターを床に置くと、丸椅子を踏み台にして白い玉目掛けて跳んだ。

抱き抱える様に掴むと、背中から床に落ちた。

「いてて・・・。これで良かったんですか?ベスさん」

ももせの問いに、ベスは頷いて応える。

糸は切れておらず、白い玉は暖かかった。

ももせは安心したのか、白い玉を覗き込む。

白い玉の中に桜子の顔があった。

角度をずらせば、まっ(ぱだか)の桜子も見える。

黒い玉は四神によって噛みつかれたり、吠えられたりしていた。

ベスが叫ぶ、

「ももせちゃん、それ絶対放さないで理解(わか)った?」

言い終わるや否や、ベスはブレスレットを触り、呪文を唱え出す。

勿論、古代ゲール語だ。

『・・・怒れる火蜥蜴の王“ヴォルカヌス”の激しき火炎をここに!“ヴォルカヌス・ストーーーーム”!』

構えると黒い玉目掛けて放った。

溶岩の如き火炎は黒い玉を直撃し、その先の窓ガラスを溶かして割ると彼方へ消える。

黒い玉は真っ赤に染まると弾け、床にペタンと落ちた。

もぞもぞ動くと人形(ひとがた)を成し、

『もうアンタ達、キラい。だいっきらい』

そう呟く少女に似た人形(ひとがた)は、焼け焦げた服を着たリリーシャだ。

口に手を突っ込み、

『こいつなんか食べるから、調子悪いの!』

口の中から干からびた干物の様なモノを取り出すと、床に叩きつけ思い切り踏みつける。

藍とベスを睨み付け、泣き顔で、

『妾をこんな目に逢わせたオマエら、絶対許さないんだからね!』

うわーんと泣き出すと桜子の病室から出て行ってしまった。


藍(晴明)が叫ぶ。

「ももせ殿、今こそその白い玉を桜子の身体に戻す時。胸に置いて、抑えるのじゃ」

ももせは慌てて桜子の横に立ち、白い玉を桜子の胸に置く。

「こうですか?藍さん?」

言われるがままにももせが白い玉を抑えると、ベスと藍(晴明)が手を重ね、

「3人の呼吸を併せ、押し込むの」

ベスが叫んだ。

「3・・・、2・・・、1・・・、今よ!」

3人が思い切り白い玉を、桜子に押し込む。


刹那、桜子の身体は大きくビクンと波打ち。


桜子はぱちくりと目を開けた。

()ぅ・・・」

頭を押さえ、漏らす。

さすがに疲労したのだろう。

ベスが慌てて、ナースコールを押す。

パタパタと靴の音が響き、担当看護師の永岡(ながおか)が飛び込んで来る。

目を覚ました桜子を見て、直ぐ様医療用PHSから担当医に掛け、

「水谷先生、鷲尾さんが目を覚まされました。至急、701号室迄お越し下さい」

そう告げると、窓枠が綺麗に無くなった部屋の壁を見て、非常に聞きづらそうに、

「あのぅ、何があったんですか・・・?ここ?」

ベスはひきつりながら、

「あー、それは藍が持ってきた差し入れが化学反応を起こして軽ーく爆発しただけですわ。気になさらないで。ね、ももせちゃん?」

ももせも併せて笑うしか無かった。

「ふはははは、そうですよね。まさかあんなモノが爆発するとは・・・」

犯人にされた藍は拗ね、

「しょうおへんなぁ、今回だけはウチの失敗にしといてあげましょ」

ギロリとベスとももせを睨み、

「次は無いおすえ」

ピシリと釘を刺した。


ももせは思う。

《藍さんて、普段はニコニコしてるけど、怒らせると一番怖いかも・・・》

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