ep.006 死神チェルノボグと古代神リリーシャ
天地左右も判らない。
只、時が過ぎるのは理解出来た。
桜子は意識だけとなり、無限の闇の中を彷徨ってた。
微かだが、恐らく前の方で小さく燃える炎が見えた気がした。
《ん?あれは・・・?》
イメージで手足を創造し、バタつかせ炎に近付く。
少し炎は大きくなった。
《だったら!・・・》
更に桜子はイメージを強め、闇の海の中を漕ぐ。
闇のコールタールは重くはあったが、今の桜子には簡単に抗えた。
《あら、思ったよりは簡単に泳げるわ》
桜子は気を良くしてスピードをあげる。
炎は更に大きくなった。
自身を照らす程に炎が近付いた時、炎の中から邪悪な声がした。
『お前か?私を呼ぶのは?』
桜子は首を横に振り、
「アタシじゃないです」
否定した刹那、聞いた事のある冷たい声がした。
『その女は妾の物。触れるでない、下郎』
桜子はハッとして、
《この声は、リリー・・・》
ももせが色々を質問をし、藍(晴明)とベスが噛み砕いて説明をしていた時である。
桜子の身体に異変が起こった。
一度大きく痙攣すると、ぐったりとした表情を浮かべている。
藍(晴明)はババっと印を結び、
「これ、異国の女、結界が弱っておる。お前も手助けせぬか!」
ベスは頷き、
「これは神戸での借りた分ね。晴明さん」
左手にしているブレスレットを右の人差し指と中指でクリスタル、トパーズ、そして、エメラルドの順で触れ、古代ゲール語で呪文を唱えながら魔方陣を描く。
『汝らと契約せし大魔女ソーニャ・スノウィオウロードの孫にして、代理人であるエリザベス・スノウィオウロードが求む。この女に命の盾を“ヴァルキューレ・シールド”!』
いい終わるや否や、右手を桜子の胸に当てた。
刹那、ベスの手のひらから若々しい蔦が生え桜子を包む。
蔦は桜子の悪いオーラを吸うと、直ぐに朽ち果てる。
しかし、朽ち果てる前にどんどん新芽が吹き出し、既に朽ち果てた蔦を覆う。
ももせも状況を見て、これではイケナイと思ったのか、ギターを手に取り奏で様とした時だった。
ももせの居る空間が振動する。
ベスが思わず洩らす。
「この感じ、まさか、リリーシャ!」
病室の中に黒い光が何処からともなく出現し、人形を成す。
ももせが気付いた時には、目の前に真紅のドレスを身に纏った蝋よりも青白き肌を持つ金髪の女が立っていた。
女に睨まれた藍(晴明)とベスは動く事さえ出来ない。
ロシア語と思える言葉で、
『何だこの女死にかけておる、つまらん。かといって、わざわざ死神“チェルノボグ”の餌にするのもな・・・。ならば・・・』
リリーシャと呼ばれた女は、桜子に近付くとニィと笑い、唇を重ねた。
瞬間、リリーシャは桜子の口の中に吸い込まれて行った。