ep.009.5 ヴォルカヌス・ストームの裏で
救急救命センターの駐車場で、一台の真っ黒のフルスモークのベンツ・E300が停まっている。
番犬警備保障の特別隊、要人警護専門“ケルベロス”の一員“タケ”の愛車だ。
シートは運転席助手席共に倒されており、黒ずくめのスーツを着た恐いオーラを纏った二人が何かをイヤフォンでモニターしながら雑談している。
「だからよぉ、俺は円蔵をケルベロス入れたい訳でよぉ」
そう話すのは、顔に大きな傷を持つ強面の男だ。
タケの相棒、“ジョージ”である。
二人はある事件が元で本来の“ケルベロス”の職務を離れ、二人のボス“JJ”の特命により桜子の警備を担当していた。
「いいんじゃないか?鬼のジョージさんの推薦なら、ボスも厚待遇でその円蔵さん。だっけか?をスカウトすると俺は思うぜ」
タケはジャケットの内ポケットからマルボロ・メンソールを取り出すと、火を付け深く吸い込む。
車内はマルボロの匂いで満たされる。
外に出て煙草を吸いたい処であったが、敷地内禁煙なので仕方なく車中で吸っているのだ。
「円蔵も、貧乏な探偵なんか辞めて、ウチに転職してくればいいのによぉ、ガキ抱えてんだから」
ジョージの吐いた毒に、タケはククっと笑い。
「しょうがないだろ?人には人の事情があるってもんだ。おそらく“円蔵”にも転職出来ない訳があるんじゃないか?」
刹那、タケのスマホがけたたましく鳴る。
着メロがセックス・ピストルズの“アナーキー・イン・ザ・UK”なので、番犬警備保障本部からだと判明った。
タケは直ぐに出て、
「ケルベロス“タケ”だ。本部どうした?」
直ぐスピーカー・フォンに切り替える。
情報をジョージと共有する為だ。
『あっ、タケさんお疲れ様です。本部ミカです。先程、今、東名の道路警備をしているパトラッシュ隊から報告が有りまして』
「道路警備のパトラッシュが何言ってんだよ?ミカちゃん」
ジョージが吠えた。
『その声はジョージさんですね。お疲れ様です。この前のロールケーキ美味しくって、センターでも評判でしたよ。ご馳走さまでした。みんな喜んでました』
冗談を言う余裕がある事から、この一件が然程重要性が高くない事は予想出来た。
「で、どうしたのかな、ミカちゃん?」
タケの問い掛けにミカは冷静さを取り戻し、
『はい。すいません・・・。そのパトラッシュからの報告ってのが、赤いdb1を筆頭に女暴走族の集団が、どうもそちらを目指しているとこ事です。その数およそ300』
ジョージが叫ぶ、
「もしかして、db1運転してんのは、こころかっ!?」
『“02”と肩に刺繍がされてるライダージャケット着ているので、おそらく・・・。後、静岡県警からの情報によると、集団走行をしているが法定速度を守っている為、手出し出来ないとの事です。最後に、聖クリからアパッチが桜子さんをウチの系列の病院に転院させる為、発進したとも報告が入ってます』
ジョージとタケはお互いに顔を見合せ、苦笑いすると、
「理解った。また、何か在ったら報告くれないかな。ありがとう」
タケはスマホを切る。
刹那、壁が砕け飛ぶ音がして・・・。
「行くぜ!タケ!!」
驚いたジョージがベンツから飛び出して行く。
タケもジョージの後を追った。
《ったくよぉ、一体何なんだよ・・・、厄日か?今日?》
ジョージの悩みは尽きない。