white-haired boy
はっくしゅん。
勢いで眼鏡が落ちる。最近ネジが緩んでいたんだ。
超絶ド近眼の私は雑踏で落ちた眼鏡を探して、そして見事に踏んづけた。
「あーあ」
割れた眼鏡を拾ってくれたのは真っ白い頭の男性 (多分)。お年寄りにしては背が高めだなあ、なんて思いながら
「有難うございます、おじいさん」
そう言うと、男性は一瞬間を置いて「どういたしまして」と答えた。
あら、結構イイ声。
後日。
眼鏡を落としたその街中付近で「やあ」といきなり若者に話しかけられた。彼は髪を白く染めている。学生かフリーターか? 何にせよ傷みそうだ。
「その眼鏡、似合ってるね」
「…………どうも」
明らかに訝しげな顔をしていたのだろう、私を見て彼は笑顔で
「踏んづけた眼鏡は捨てちゃったの?」
「え? え……、……!!」
そこで私は過日の自分の失態に真っ青になる。
「やっぱりマジで間違えたんだ…!」
彼は堪えきれずにブブーッと噴き出した。
「し、白なんて紛らわしいのよ。いっそピンクにすればいいのに!」
「ぴんく……」
白も飽きたしいいかも、と笑いながら彼は去った。
後々、ピンクの頭になった彼が有名なロックバンドのベースと知って私はさらに真っ青になったけれど、それはまた別の話。