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転生

時既に遅し。俺は歩道橋の階段で、不覚にも足を滑らせてしまった。

その時に見た、長い短い走馬灯の中で俺は思い出す。幼き日の思い出を、少年だった時の楽しさを、思春期に感じたトキメキを。そして最後に思い出したことは、不思議にも妖怪のことだった。小さい頃好きで、しかし新たな趣味に塗り潰されたはずなのに。

思えば短い人生だったと思う。


享年十八


頭の打ち所が悪かったのだろう。まだ生きたいと強く思いながら、俺は死んだ。――筈だった。



気が付けば俺は布団で寝ていた。事実死んだのだから、布団に死装束で寝かされていても何等不思議は無い。しかし俺はこんな部屋は知らないし、そもそも意識がハッキリとしている。

そして何よりもおかしいのは、覚えの無い記憶があること。矛盾しているが、これ以外に表現方法が思い付かない。強いて言うなら謎の知識記憶が、例えば林檎という木の実を知らないで、リンゴという単語だけ覚えたような状態で存在している。具体例を挙げると、

・俺はこの国で四番目の地位である『武士』と云う位だ

・俺の職業は妖怪を操る『妖怪使い』である

・この国は『大和神王国(やまとしんおうこく)』という

・俺の名は『(あかつき)龍督(りょうすけ)』という

訳がわからない。まず、俺はそんな名前では無い。武士は職業でもある筈だし、妖怪使いなんて職業は聞いたことも無い。大和神王国なんて論外だ。最初は自分がかなり遅めの中二病にかかっただけかと思ったが、それにしてはやたら内容が線密だし、死後の世界ならば悪くないとも思えた。

「ご主人様、朝ですよ、起きてますか?」

突然少女の声が聞こえ、俺の体はビクビクビクゥッ!! と、震えてしまう。突然のこととはいえビビりすぎだ、と自分を牽制しつつ、俺はスルーを決め込むことにした。勘違いだった時が恥ずかしすぎる。

「起きてないなら起こしますよー」

音を殆どたてずに扉をあけ、(声からの)推定年齢10歳前後の少女が侵入してくる。俺は妬けになって無視を極め込んだ。直後、素晴らしいまでのボディープレスが、俺の鳩尾と下腹部の間にある、一番柔らかい部分に炸裂した。

「おぐぉえッ!? ウゲぃぇおうぁ!?」

訳のわからない悲鳴を上げ、俺は徹底的に悶える。その苦しみは数秒だったのかも知れないし、数十分だったのかもしれない。しかしそれが終わればやることは一つである。

「……おい、クソガキ。テメェはいったい誰だ?」

「え? ご主人様、寝ぼけてるんですか? 貴方のパートナー、座敷童ですよ」

「テメェにご主人様なんて言われる筋合いは無い」

死んで、目覚めて、ボディープレス。不機嫌にならない訳が無いこの状態で苛立っていた為、かなり低い声で言い放ってしまった。直後、自称座敷童の少女の目が潤む。

「そんな……、私を捨てるんですか? 確かに戦闘は向かないし、できることといったら小さな幸運を呼ぶくらいです。でも、そんな私の面倒を見てくれるのなんて、ご主人様しかいないんですよぅ……。お願いです。捨てないで下さいぃ……」

わからない。座敷童ならどこぞの商店にでも住み着けば良いだろうし、生憎俺は今の状況を理解できていない。しかし少女の涙は心が痛むものがあるので、適当に弁解することにした。とりあえず、できるだけ自然に少女の頭に手を置き、撫でながら適当に繕った言葉を並べる。

「あーあー。わかった、わかったから泣き止めって。捨てないから」

すると少女は「ご主人様~」とか言いながら、俺の服に顔を擦り付けてくる。それだけなら、まあ、許容内だ。しかし現実は――ここが現実であるという確証は無いが――甘くない、いや苦いし辛いだろう。ドタドタと大きな足音が聞こえたと思ったら、突然扉が開かれた。

「兄貴、座敷童の姐さんがそっちに行ったと思うんですけど、起きてま……すか?………………すいません」

どこに誤解要素があったのか知らないが、突然現れた全体的に茶色いイケメンに誤解された。即座に扉を閉めて立ち去ったイケメン@バカを追いかける。

「おい、テメェふざけんな。人の話を聞け。とりあえずは止まるんだ」

「え? いやいや、あっしなんかに構わず」

「黙って止まれーい!!!!」

つい感傷的になっていた俺は、何故か立て掛けてある木刀を手に持ち、一閃。木刀で更に峰打ちだった鋭い斬激によりホームラン。ふぉグわァ!? と情けない悲鳴をあげて、壁にぶつかったイケメンは狸になった。

「ほう、人間じゃねぇのか? 美味しい狸汁にしてやるよ!!」

「ひいぃ!? すみません、やめて下さい。営みを邪魔したのは謝ります!! 長い仲じゃないですか? やめて下さいお願いします!!」

「人の話を聞け。変な誤解をしてんじゃねぇぞ!! そんなに食材になりたいか!?」

「照れ隠ししなくてもわかってますって――――――」

「ああん??」

なんだか相手が狸だとわかった瞬間、緊張感がほぐれ、完全にダークサイドに堕ちてしまった。しかし一度入ったスイッチはそう簡単には抜けない。

「私はだーれ?」

「我らがご主人、暁様ですぅっ」

「貴方はだーれ?」

「極々普通の化け狸ですぅつ」

「どっちが偉い?」

「貴方様ですぅっ」

木刀で化け狸をグリグリやりつつ質問攻めにする。テンパった狸は関係無い質問にもドンドン答えてくれた為、この世界のことが段々わかってきた。

この世界は現実でいう江戸時代、しかし鎖国はしていない状態。なによりも大きく違うのは、魔法があり、妖怪がいること。それらは才能で全てが決まり、俺は『妖怪使い』という妖怪と深く心を通わせる力を有しているらしい。

「ご主人様ぁー、私を忘れないで下さいぃ」

突然抱きついてきた座敷童を抱き上げ、真っ白になっている狸の首根っこをつまんで持ち上げる。

中々面白い世界に来たと思い、思わず失笑してしまう。もといた世界に未練が無いと言えば嘘になるが、死んでしまったのだからしょうがない。どういった経緯でこの世界に転生したのかはわからない、けど、

「まあ、せいぜい楽しませて貰うとするか」

全力でやりたいことをやらせてもらおう。俺はこの異世界で夢を叶える。

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