【農協】|狂騒曲《カプリッチョ》 急章の1:必殺‼ 農協戦隊ゴニンジャー
ここはとある最前線の町。どこかの中二病的な名称の冒険者グループ含む数グループが次回のアップデートでの攻略範囲の増加を待ちながら、自身のスキルアップや装備の最新鋭化を図っているところだ。
最近では、目撃数が少ないが頭部から背中にかけて深紅の毛皮を持つといわれる大熊が空竜に匹敵する上級装備の材料になると躍起になって探しているようだ。
「あぁ~~~~~くそっ。なんで今日はゴーレムやスライムしか出てこないんだよ。」
「確かに。生物が全くいないってのもおかしいな。」
「俺らが乱獲しすぎて、いなくなったのかもな。」
「それもあるか。なんたって俺ら最前線のトップクランなんだしな。」
「「「「違いない」」」」
「でもなぁ、あいつ等相手にすると装備の耐久値ばかり減って旨味が何にもないんだよなぁ…」
ガラの悪い4人組が森の中を大きな声で会話しながら無警戒に歩いている。いわずもがな【漆黒黄金の高貴な闇】の使い走り4人組である。
お目当ての大熊どころか、生き物系のモンスターが出現せず、無機物系モンスター…鉄の塊や酸性粘着生物ばかりを相手にしていた模様で、自慢の装備の耐久値が減るばかりで見返りがない状況で機嫌がすこぶる宜しくない。
「あぁ~~~どこかに生物いねぇかな。」
「じわじわ甚振って、ストレス発散できるのになぁ」
「こう…とり囲んで逃げられなくしたところを…へへっ」
「現実世界が糞なんだから、ゲーム世界くらいは好き勝手させてもらわないと割に合わんわ。」
「……それはよろしくないですねぇ。
「「「「?」」」」
突然、どこからともなく響く声。深い森の中のため、声の発信源を探そうと気配を探るがとても見当がつく状況ではない。
「現実世界もゲームも皆同じ。そこに生し生きるもの、己の欲で殺すべからず…ですよ。」
「だ…誰だ‼ 姿を見せやがれ‼」
「俺達が攻略組クランのメンバーってわかってやってんだろうなぁ‼」
4人組が周囲を見回す中、一番太い木の後ろからスッと姿を現したその声の主は…
「背中に背負うは“育”の文字。育てて仕込む、ゴニン・ホワイト。」
静かに、でも力強い言葉と供に出てきたその姿は…白い全身タイツで、ピンクのブーメランパンツが透けて見えるのがチャームポイントなおっさんだった。
「貴方達の素行の悪さ、今より改めるのならお今回の仕置きで済ませましょう。その気がないならば…お覚悟を。」
「誰だてめぇ‼」
「ふざけた格好しやがって、舐めてんじゃねぇぞ‼」
いきり立ちながらも、次々に戦闘準備を始める4人組。その様子を腕を組み黙ってみているゴニンホワイト。
「「「「死ねやぁ、変態‼」」」」
武器を振りかざし、4人いっぺんに襲い掛かってくるも微動だにしないゴニンホワイト。それぞれの武器が体に叩き込まれ、鈍い音が辺りに響くが、この変態は微動だにしない。
それどころか、相手のあまりにもの情けなさに辛酸をなめたような顔を浮かべている始末。
「温いです。温すぎます。その程度の攻撃でトップクランですか?最前線の攻略組ですか?逆に言わせていただきましょう。」
大きく息を吸って、変態は大きな声で叫ぶ。
「舐めてんじゃねぇぞ、道理も判ってないこの小童どもがっ‼。自分達より弱い、抵抗もしない動物に、しかも多対一でかかって勝ち誇って…何が男ぞっ、何が強者ぞっ。」
「「「「ヒィッ」」」」
その勢いと気迫だけで、4人を後ずさりさせる。
「しかしながら、やられたらやり返す何て事は致しません。今回は、あくまでも我が【農協】で起こした悪戯のお仕置きですからね。今までの甚振られた弱者たちと同じような状況でどこまで意気込めるか、試しましょう。」
そこまで言い切ると、ゴニンホワイトは大きな動作で空中に魔方陣を描いていく。魔方陣が書き終わると今度はその魔方陣に向けて手を翳しながら呪文のようなものを唱えはじめた。
「因果応報、信賞必罰、勧善懲悪、焼肉定食。おいでませっ〈猛獣大行進〉」
ゴニンホワイトの後ろの空間に大きな穴が開き、身の丈数メートルは有ろう大きな熊が飛び出してきた。しかも一匹じゃない、それこそ大行進できるくらい大量にだ。それらが一直線に4人組に襲い掛かる。
「「「「ヒエェェ」」」」
息次ぐ間もなく襲い掛かる、重さ500キロ以上の大きな熊。その巨大な腕を降り下ろせば、四肢が吹き飛び、噛みつかれればその場所がこそげ落ちる。最前線の攻略組と自慢するだけあって、耐久力はそれなりにあるようだ。だが今回はそれが仇になったようで、意識を手放したいほどの襲い来る猛獣の中、死に戻りするまで…
まさに蹂躙、熊たちの通り過ぎた跡にはペンペン草の一本も生えていない。勿論、肉の一片までだ。ヤルことヤッた熊たちは、その場で散り散りに森の奥へと消えていった。
「成敗っ‼」
そこにはゴニンホワイトただ一人、ドヤ顔で勝利のポーズを決めていた。
「…では、アカツキさん達に合流しましょうかね。」
農協での死に戻りを晴らすことができたのか、たっぷりと余韻に浸ったあと、街へ向けて歩き出した。




