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【フードコート】超・試食会 実食① 卵豆腐:コウチョー


夕食時より少し早い時間の【フ―ドコート】はPC・NPCを問わず人でごった返している。目当ては本日の【農協】と【神殿】(運営)共催の料理人さんの試作料理の試食会だ。どこから話が漏れて、何処にどう広がったのか全く判らないが、旨いもの食いたさに集まった面々が座席の半分以上を占めている。


『本日の試食会にお集まりいただき、誠にありがとうございます。今回は、ゲームならではの空竜(ドラゴン)海竜(リヴァイアサン)陸竜(ベヒーモス)で作った本枯節(ほんかれぶし)でとった出汁をメインにしております。ガッツリしたものはありませんが、満足いただけるモノに仕上げていると自負しております…


料理人さんの、死に戻りをした失敗談を含む挨拶もソコソコに、元国王様の指示で【フードコート】の給仕のお姉さま方が運んできた料理は、とても試作品とは云えないような、完成された逸品ばかりだ。一部最後の仕上げが残っている料理もあるが、




①卵豆腐 コウチョー

料理人さんが試食会を開くということを、知り合いから連絡を受け親友二人シャチョーとキョクチョーを無理やり誘ってログインした次第なのですが、これは大当たりだったようです。職員会議(仕事)?何ですかそれは。そんなことより、料理人さんの作った料理です。

聞けば、ドラゴン・シーサーペント・ベヒーモス達で作った本枯節の出汁を使った料理って話じゃないですか。そんな料理イベントにこの料理学校の校長として、一料理人として味の勉強をする機会を逃してなるものですか。


「で、校長。本音は?」


「仕事嫌。旨いもの食べたい。」


教頭の質問に、うっかり本音で答えてしまった私立料理学校校長64歳。いい加減、仕事を後継者に任せて楽隠居をしたい今日この頃。とりあえず、残った仕事は翌日キッチリ片付けるってことで、会議をガッツリ抜け出しログイン中。


そして今、私の目の前には一見何の変哲もない只の卵豆腐にしか見えない一品が置かれている。もうね、雰囲気だけで判るんですよ、こいつは只の卵豆腐じゃないって。

料理人さん曰く、ベヒーモス出汁をドラゴン出汁で少し伸ばしているので、卵の風味を邪魔せず、のど越し滑らかに仕上がったとの事ですが、冗談じゃない。

金色に輝かんばかりに溢れ出すオーラが、この卵豆腐(一品)が料理の一つの到達点だと雄弁に語っているじゃないですか。卵豆腐だけじゃなく、薄くかけてある薄口醤油の八方出汁に生姜の搾り汁をほんの少し入れることで、平坦になってしましそうな出汁の香りに辛味の一本筋が通って素晴らしい。


「…いただきます」


竹を削って作られた匙で、卵豆腐を一掬い。プルンとした感触と供に、ほんの僅かの反発。出汁が絡まったその一匙は、ちゅるりと唇の隙間から口の中に吸い込まれる。

舌と上顎との僅かな圧力で、ホロホロに崩れ。舌の上にスゥーっと広がる出汁と卵の絡まる芳醇な味と薫り。


「むほっ」


何の抵抗もなく、舌の上を滑り勢いよく喉の奥をノックする。嚥下せずとも食道を流れ胃の腑に落ち着くこの衝撃のない衝撃に奇声を上げてしまった。昔から卵豆腐はのど越しが命と思っていたが、まさにその通り。


豚骨や牛骨のような骨髄から出てくる濃厚な癖のある臭いではなく、肉汁などに含まれる良質の脂がしみだしてきた旨味が白湯に溶け出してきた力強い味。しかも、単一の獣色の強い出汁を、別の出汁で割っている…つまり合わせ出汁として、互いの主張を出しながらも他の素材の味も生かせるよう工夫しているわけだ。

それを受け止めて離さない卵。互いが混ざり合い、熱を通したことで固まり卵豆腐(一つの形)になるべくしてなった。冷やして固まり、さらに出汁をかけたそれは、そんな事さえ思わせる存在感がある。確かにこのプルン・ちゅるり・ホロホロ・スゥーにはある。確かに料理の名前は卵豆腐だけど、この味・この触感は、出汁の旨味が濃くないと出せないところにある。

間違いない‼。間違いないったら間違いない。

ひと口、もう一口と匙を夢中で動かし、最後は小鉢を持ち上げ、崩れた卵豆腐のかけらを出汁と伴に啜り上げる。行儀は悪いのは十分に承知しているが、最後の一滴までを味わい尽くしたい。できるなら小鉢まで舐め廻したいと。


筆舌に尽くしがたし…出汁の引き方、味つけ・卵豆腐の蒸し時間どれをとっても私の理解の範疇を超えた最上級の出来栄えです。

天井の・極上の・究極の・至高のなどの言葉が当てはまらない、いや、それ以上の語彙を私は持っていない。まさに舌で感じた衝撃を表現する言葉が出てきません。

でも、これだけは言わせてほしいい。


「ナニコレ、すっげぇ美味いんだけど。」


現実世界(リアル)では絶対に作れない料理に執着するのはどうだと思うが、この永いようで短かった料理に携わったこの人生。料理学校の校長として、美食・技術の追求をしてきても未だ到達できない道の先を感じたいと思うのは悪くないはずだ。


もったいないけど、清酒で舌をリセットしてほかの料理にも手を伸ばしてみましょうか。


何?参加希望者が多すぎて全員に料理が行き渡らないから我慢してほしい?


仕方ありません。では、そこのお兄さん。その料理食べるの待ってもらえませんか?

いや、外のリングで少しお話合いしましょうよ。その料理を掛けてね。それもダメ?

ではしょうがないですね。女将さん、たっぷりタルタルソースのチキンカツ丼をお願いします。えっ、それは昼間料理人さんに相談(バトルロワイヤル)してくれ?

ご迷惑おかけして申し訳ありません。


卵豆腐だけで約2000字使ってしまいました。

次回更新もできるだけ早くできるよう頑張ります。

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