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【フードコート】超・試食会 準備①

前回は、前振りです。



まず、出汁の特性を考えてみよう。


海竜(リヴァイアサン)出汁…元が白身の鰻ってこともあり、色はほぼ無色に近いあめ色。

高級な乾貨(干し鮑や干し海鼠)でとった出汁とは違い、ガツンと旨味が溢れてくることはないが。スッと鼻腔を咽喉奥まで一気に駆け抜ける凝縮された脂とほのかな潮の香り。磨き抜かれた上質な旨味は、雑味なく舌の上に一瞬で広がり快感の余韻を咽喉の奥に残すように胃の腑に落ちていく。


陸竜(ベヒーモス)出汁…野生肉(ジビエ)特有の獣臭は有るものの、ムワッとなる嫌な臭いではなく太陽の恵みを存分に一身に受けたようなココロを擽るような芳香。ひと嗅ぎすれば、嗅覚・味覚問わず、蠱惑的な誘惑が本能に直接響き、口腔内を唾液であふれさせる。

その味は、一般的な豚骨スープのようなガツンとパンチが効いていながらも、骨髄から取ったスープのようなくどさ(・・・)は全くなく、枯節として濃縮・熟成された、肉本来の旨味だけが口内に広がり、脳髄を刺激する。


そう、海竜(リヴァイアサン)出汁の特性が、心に静かに広がり浸透していく“静謐”と表現するならば。陸竜(ベヒーモス)出汁の特性は激しく、幾度となく自信を飲み込んでいく“激流”と表現できるくらい真逆の特性をもつ出汁だ。勿論どちらも極上品だってことはわかっていただけるだろうか。


でだ。最後の空竜(ドラゴン)出汁…これが一番表現に困る。海竜と陸竜の特性を併せ持っているのだが、こう凝縮した旨味を持ちながらもスッキリとした後味。単品では何処か物足りなさがある。むしろ、ほかの出汁と合わせて使ってこそ真価を発揮するような、そんな期待を抱かせるような味わいだ。勿論、海竜や陸竜の出汁と比べればッてことで、そんじょそこらの一級品なんて比べるまでもなく極上の一品なのは確かなのだ。



さて、そんな極上の出汁をメインに献立を考えると、まず出てくるのは汁物だろうか。そりゃ汁をそのまま啜るのだから出汁の味がダイレクトに判りやすい。

確かに日本料理の神髄は、汁物(椀物)にあるが、【フードコート】に来るお客様がそれだけで納得するはずがない。


では、存分に味わっていただこうではないか、この料理人さん(ワタシ)の今までの人生(修行の成果)を‼



勢い込んで、自分の調理場に踏み込んだ私を待っていたのは、大きなしゃもじ(宮島)を持った神官さんだった。その大きなしゃもじ(宮島)には…


『料理人さんの…お料理、食えるもんならぁ喰ってみろ!!』


…と書いてあった。思わず読み上げてしまったが、元国王様め先行して準備してやがったなコンチクショウっ。かなり興を削がれてしまったが、もう調理場(此処)は私の戦場だ。多少は目を瞑るが、大人しく見ていただこうではないか。


さて、出汁がメインの料理とて出汁をすするだけが能ではない。付け合わせや具になる食材だって存在する。まずはその下拵えから始めよう。


まずはアカツキさんにお願いし、畑から必要な野菜を採ってきていただく。茄子・さやいんげん・蚕豆・玉葱・長葱・冬瓜・パプリカ・オクラ・その他諸々。

米を少な目に研いだら水に浸し、後は炊くだけにしておく。

片やしっかり空気を含ませた小麦粉に、塩・水を加え、一生懸命練り上げる。アカツキさん謹製の小麦粉はグルテン質を作りやすいため、カンスイで無理矢理グルテンに変質させる必要がないために、ほぼうどんと同じような作り方でラーメンの麺ができてしまう。勿論、コシだってしっかりしている。これも一旦寝かしておこう。


次に七輪に火を起こし、半分量の茄子・パプリカに刷毛で油を塗り表面をがっつり焼く。氷水に落とし粗熱をとり、焼け焦げた表皮を剥いたら水を切っておく。また残った茄子は皮付きのまま、飾り包丁を入れ油で揚げる。中まで火が通ったら油をしっかり切っておく。


さやいんげんはスジを取り下茹で。蚕豆は茹でてから薄皮を剥く。長葱も一皮むいたら下茹でし水を切っておく。オクラは塩で擦って表面の産毛を取り除いた後、下茹でしておく。冬瓜は必要な量だけ切り分けたら、中の種の部分を除き、表面の堅い皮を剥く。薄く切ったら下茹でにして氷水にとっておく。



焼いた茄子には、海竜出汁に醤油・みりんで味付けした調味液につけて。揚げた茄子は陸竜出汁の調味液につけて冷蔵庫に入れておく。


また、長方形の流し缶に形よく切った、オクラ・パプリカ・蚕豆・長葱・冬瓜を奇麗に重ね並べたら、ゼラチンを溶かし込んだ空竜と海竜のあわせ出汁を静かに注ぎ込む。いわゆる野菜のゼリー寄せってことだ。ゼリーを固めるために冷蔵庫に突っ込んでおく。


大きめの卵一個に対し出汁が金がい(おたま)2杯がよくある卵豆腐のレシピなのだが、できた卵豆腐にさらに餡をかける前提で、少し硬めに出汁を少なくする。そのため使う出汁は陸竜出汁。しかしそれだけでは卵の香り出汁の香りが喧嘩してしまうので、空竜出汁をクッションに割り入れる。羽二重でしっかりと濾したら、流し缶に入れ、表面の泡を弾かせ蒸し器に突っ込む。弱火でじっくり中まで火を通し固めるが、火をやりすぎると通しすぎると気泡のような隙間()ができるので、そのぎりぎりを見定めるのが難しい。

この卵豆腐も蒸しあがったら粗熱を取って冷蔵庫で冷やしておく。あわせて、卵豆腐にかける出汁も味を付けたら一緒にしまっておこう。


まだ夕食時間には余裕があるので、温かいものを作るには些か早いので、細かいものを作ってしまおう。

まずは、出しガラを使った佃煮や炒り煮だな。普段なら【農協】のマスコット的シロやクロベェ、新しく生まれたミドリやチャイの餌に混ぜ込むんだが。空竜のミドリや陸竜のチャイに対して、なんかこう大丈夫かなって思い始めたらまずいかなって思ったんで、自分達で処理してしまおうってことです。いやマジで。


水分が残る枯節を鍋で炒ってゆき、醤油・みりん・酒・砂糖で適当に味付けし、海竜枯節はそのまま佃煮に。陸竜枯節と空竜枯節は、カラッカラに水分が飛ぶまで炒っていけば、元は獣肉だけあってボロボロほぐれ、ふりかけ状になってくる。

少し強めの味付けで、おにぎりの具材から、ご飯のお供まで幅広い活躍を見せてくれることだろう。


時計を見てみるとそろそろ夕食時が近づいてきた。試食会までもうすぐなので残りの調理を始めようか。


結構長くなりましたので、今回はこれでいったん切ります。ナンバリングしていますので近日中に更新しますのでよろしくお願いします。


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