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料理人 爆発散々

それは、昼食のラッシュが過ぎた後の休憩時間に起こった。

【フードコート】内の貸し調理場のひとつ…料理人さんのブースから突然の爆発音がした。

ここ、ギルド【農協】の敷地内でなら爆発音・爆裂音・地震・落雷・断末魔などなんともない。なぜならば、ギルド所属の生産職のおっさんが何かしら実験失敗(やらかした物)PCもNPCも(みんな)理解しているからだ。


しかし今回はちょっと違った。普段、何もなければおとなしいはずの料理人さんのブースからの爆発音だ。リアル(現実)なら調理中の爆発=漏れ出たガスにでも引火したんじゃね?と思うのだが、ここは〈魔法〉や〈スキル〉が蔓延るゲーム世界。


リアルの常識なんて通用しな…以前やらかした事があったので割愛するが、非常識極まりないこの【農協】であって、比較的一般的な常識人であろう料理人さんが爆発オチをするなんて…

給仕のお姉さん達がアフロ姿(怖いもの)見たさで、覗き込んだ調理場の中は…


「なんともなって無いわねぇ…」


調理場自体には傷一つない。掃除が行き届いた調理台・手入れのされた調理器具たち。馥郁とした出汁の薫りをさせる複数の寸胴鍋は火から降ろされている。足元に転がる小皿と一本のおたま(レードル)を除けばいつもの調理場の風景だ。


これだけ見ると本当に原因は何処に在るかわからない。爆発音を聞きつけた【農協】の生産職(おっさん達)も休憩がてら【フードコート】に入ってきては状況を見てはなんやかんや囃し立てる。一体全体原因は何だと野次馬一同で頭を抱えていると、玄関から当の料理人さんが元国王様を連れて入ってきた。


『みんな済まない、死に戻っていた。』


「いや、状況は分かっています。問題はなぜ爆発音を(あんな音)を出して死に戻ったかなんです。びっくりしました」


一番近くで爆発音を聞いたであろう、隣の調理場をレンタルしているナナセさんが虚空に裏手突っ込みを入れる。


『まぁ、説明するんで集まってもらっていいかな?』


【フードコート】内、料理人さんの調理場近くのテーブルに集められた一同の前に出された三つの皿。それに乗っていたものは何処か見たことありそうな、カラッカラに乾燥したどことなく神々しい固形物(ブロック状のモノ)


空竜(ドラゴン)海竜(リヴァイアサン)陸竜(ベヒーモス)で作った本枯節(ほんかれぶし)です。』


一般的なカツオの本枯節とは…卸したカツオの身を煮て、骨を除き、燻し乾燥させたものを荒節(あらぶし)と言い、表面は黒く焦げたような色をしている。これを削ったのが一般的にカツオ節や花かつおって名前で売っているもので、製造は大体一か月位でできる。

でだ。その荒節を枯節にする工程だが、荒節にカビが付きやすいよう表面を綺麗に削り、形を整える。この状態でカビ付け・乾燥を最低2回繰り返してやっと枯節になる。表面は、薄茶色の粉に覆われたような料理番組などで見る塊のカツオ節状態になる。

そしてこの枯節に対し、カビ付け・乾燥の工程をさらに繰り返し、さらに熟成させたものを本枯節と言い、製造に半年以上もの期間を要したモノをさす。


そのような手のかかる工程を終えたものが目の前にある。出汁の味的にも荒節より枯節のほうが澄んだ上質の出汁がでる。もちろん枯節よりも本枯節の方が、より澄み渡った濃縮された出汁が出る。


『でだ…恥ずかしい話なんだが。各々の出汁を合わせたものを味見したら…』


「あまりにもの美味さに、味覚の数値を感覚に表現できなくてゲームが誤作動(バグ)を起こしたので、強制的にリセット(運営側で強制停止)させてもらったってことだ。」


言いにくそうな料理人さんの後を引き継ぐように本国王様が続ける。

要は自画自賛ではなく、ガチで極上すぎる出汁を作って味を見たら、美味すぎて昇天してしまった。

そういう事のようだ。


「いやぁ…有り得なくないですか?そもそも出汁でしょ、そこまでのモノなんですか?」


挑発的な言葉で料理人さんに迫ってきたのは、自称卵かけご飯(TKG)の為なら命も投げ出す【農協】の鍛冶師(リアクション芸人)サカキさんだ。

間違いなくこの言葉の裏には、美味いTKGを喰わせろとの執念が入り混じっている。


料理人さんは、元国王様に目配せし、元国王様もそれに頷く。何やらOKが出たみたいで料理人さんが自身の調理場に入っていく。

何やらお盆に乗せて持ってきたものは、白いご飯を盛った茶碗と小鉢に入った生卵、そして醤油さしの3点。それをサカキさんの前に置く。


『その醤油さしには、件の出汁で割った醤油が入っている。試してみなさい。』


周りの人の唾液を飲み込む音が聞こえる中、小鉢の生卵をご飯にかけ軽くかきまぜた後に、割醤油を上から一回しかける。


「では、いただきます。」


茶碗を左手でしっかり持ち、飯・卵・醤油がかかったところを箸でかきこむように口に運んでいく。口を閉じ、ご飯を咀嚼しようとしたその時。口の中に、舌に広がった割醤油の出汁の香り・味が、味覚として電気信号となり脳…正確には延髄が受信するのだが、そのまま物理的に突き抜けた(・・・・・)のだった。


もちろんこの時点で、サカキさんのヘッドギアの安全装置が働くように神殿(運営)側から強制的なアクセスを行い、本人(プレイヤー)の安全を十分確保できるようにしてあるのは言うまでもない。


そうは言うものの、実際にゲーム内の様子を見れば。卵かけご飯を口に入れた途端に、目や後頭部が爆散し、ポンッって感じで死に戻るのだが。最初の爆散の仕方が、某世紀末バトル(あ●しや)漫画の断末魔(た●ば)にそっくりでグロテスクなものなのだが。

リアクション芸人ポジションのサカキさんにとってはこれくらい通常営業(いつものこと)と思われるかもしれないな。


しかし、プレイヤーだからこその死に戻りだが、ゲーム世界(こっちの世界)で生きているNPCの方たちは如何なってしまうのだろうか?謎だが、元国王様から対策ができるまではNPCへの供給禁止令がでたので、この件は一旦凍結された。


まぁ、竜三種類の本枯節を作って出汁を引いて、さらに出汁を合わせるなんて芸当は【無限世界の住人】数万人のプレイヤーの中で、料理人さん位しか発想しないだろう。


さて、余った出汁を捨ててしまうのももったいない。三種類の出汁を決まった分量で混ぜ合わせなければ、プレイヤーも爆散しないのは、料理人さん自身で体験しているから大丈夫だろう。とりあえず本日の夕飯はこの出汁を使った料理三昧で決定だ。






動物系の枯節の話をどこかで見たのと、味覚の…料理の美味さの向こう側が書きたかったんです。


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