表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/98

料理人 死闘する

たいへん申し訳ありませんが、人によってはグロテスクな表現がありますので、お気をつけてください。

おっさん達が【魔王領】ですごしてそろそろ2週間が過ぎ、いい加減【フードコート】に帰ろうとしたころにその知らせはやってきた。


「大変です魔王様‼、陸竜(ベヒーモス)が【王都・グランドクロス】近郊の山中に出現しました‼」


「んなぁぁにぃぃぃぃぃ‼」


【魔王城】のテラスではなく、料理人さんが厄介になっている【食堂】元国王様と優雅にお茶をしている魔王様の元に、息せき切って伝令兵が駆け報告をする。

その知らせを聞き、周りの客に動揺の色が見えるが、それ以上に魔王様の顔色がヤバい。っていうか、真っ白に燃え尽きたようにピクリとも動かない。お前さんホントに【魔王領】(この国)を治める王様かよ…。


仕方ないので伝令兵さんに水を出し、先ほどの陸竜(ベヒーモス)について聞いた。


【魔王領】には古くからの言い伝えがあり、いわゆるレアエネミーっていうか【王国領】(むこう)で云う処のレイドボス的な強力な個体を、神が創った生物として崇め奉ったりしているところがある。もちろん、人的な被害があるものは、害獣としてキッチリ退治しているのだが、其処はそれである。

その中でも厄介なのが、【王国領】(むこう)でも相手をした()が付くモンスターだ。


〖世に、神の創りし三竜あり

空を統べるもの、神の創りし芸術…空竜(ドラゴン)

海を往くもの、神の創りし最強の生物…海竜(シーサーペント)

大地を割るもの、神の創りし最高傑作…陸竜(ベヒーモス)。〗


【魔王領】2000年の歴史で、崇拝される程とは恐ろしいことですが、そんなに厄介なんですかねぇ三竜(こいつら)

声には出さないが、うち空竜(ドラゴン)海竜(でっかい鰻)ソロ(一人)屠殺でき(イケ)たぞ?

疑問に思い元国王様の方を見やるが、蒼白な顔色で私の方を見て必死に首を振り、手をパタパタさせている。パクパク動く口が何かを私に訴えているようだ・・・(ナニナニ)


「お・ま・え・と・いっ・しょ・に・す・る・な」


…さいですか。




気を取り戻した魔王様と伴に、クロが牽く牛車に乗り陸竜(ベヒーモス)が居る山へと向かう。道中のモンスターは、先行して出発した魔王様配下の騎士団が片づけてくれている。【魔王領】での陸竜(ベヒーモス)退治には伝統がある。それは、陸竜(ベヒーモス)と魔王様の単独勝負(ガチンコバトル)

別に単独で勝負を挑む意味はないのだが、突出した実力を持つ魔王様の戦闘力に追いつけるだけの戦闘力を持つ住人がいないのだと。要は陸竜(ベヒーモス)戦では、足手まといになって邪魔するくらいなら参加しないほうが良い。

そんなこと言っても、魔王様だって無事ってこともないらしく。ほぼ毎回瀕死になるくらいには怪我を負うそうな。だったらって事で、少しでも怪我が少なくなればと前哨戦よろしく私が先発し陸竜(ベヒーモス)戦っ(ヤッ)てみることにした。

最悪、死んだとしても死に戻りするだけなので気に病むこともない。すでに【魔王城】の近くに仮設の【神殿】が完成しているため、すぐに戻ってくることもできる。


さて、賢明な読者の方なら予想していたかもしれないが。無限世界の住人(このゲーム)陸竜(ベヒーモス)が、そこら辺の神話のベヒーモスな理由(ワケ)がない。


『なぁ魔王様よ…』


「なんだい?」


陸竜(ベヒーモス)ってアレかい?』


「あぁ、そうだが?」


『…どう見ても(いのしし)なのだが…』


陸竜(ベヒーモス)が居る山中の小高い崖から見下ろしたそれは、牙がめちゃくちゃ長いところを除けば、15mくらいの巨大な猪だった。


その強靭で長い牙を振り回し、木を、岩を、そして大地を叩き割る(掘り起こす)様が言い伝えの元になったようだ。だが猪だ。

その強靭な四本足での突進は、阻めるものなく、その軌跡には蹂躙された屍が残るのみ。だが猪だ。

陸竜(ベヒーモス)が生き物である限り、呼吸もするし血も流れている。ならば、弱点(急所)は必ずあるし、それは生き物として共通しているはずだ。


ってことで早速ヤっちゃいましょう、レッツクッキング(笑)


『グンジの喰えるもんならぁ…喰ってみろ(ボソッと)』


猪は、独特の獣臭さと筋張っている硬い肉が特徴だ。だが外見に似合わず綺麗好きだし、基本草食なので、肉の味が良い。そして牡丹と比喩されるくらいに綺麗な赤身と白い脂身があり、味噌との相性は抜群だ。

味噌に付け込んだ肉は、味噌に含まれる成分・アミノ酸で柔らかくなり、野性味を残したまま獣臭さを除くことができ、そのまま炙っても、煮込んでも旨いのだ。


生肉で行くのなら、おすすめはもちろん鍋だ。春菊・白菜・長ネギ・えのき茸・椎茸・豆腐…たっぷりの具材と一緒に薄く切った猪肉。鰹と昆布の出汁に砂糖と酒と生姜、たっぷりの味噌を溶かし込む。野菜たちと肉を煮込んだ味噌ベースの出汁の香りは、脳味噌の奥底にまで浸透し、文字通りに心を溶かしていく。

雪降る寒い日に食べる、牡丹鍋は暴力的な旨さだ。生姜の香りと具材の旨味の溶けだした味噌スープに、野菜と肉の剛柔織りなす歯ごたえのハーモニー。汗をかきながら鍋をつつき、冷たい日本酒・ビール()で喉を潤す。

あぁ…ダメだ、こりゃ涎が止まらん。手早く仕留めて、【始まりの街・冬】で鍋パーティーだ。


「なんかグンジくん、キャラ変わったなぁ…」(ササキさん)


「そうですねぇ、出会った頃は仏頂面がデフォルトのような感じでしたからねぇ。」(オオガキさん)


「まぁ、いい傾向じゃて。」(アカツキさん)


外野が喧しいが、今回は大目に見てやろう。そんな事より、今は目の前の陸竜(牡丹鍋の材料)をどう調理するのかで一杯だ。


最大戦速(高速調理100倍速)陸竜(ベヒーモス)に近づく…いや、頭の下に潜り込む。イベントリィ(道具袋)から取り出した[特大の鯨包丁]を振り上げる。狙いは顎と首のつなぎ目あたり…簡単に言えば(タン)の付け根辺りだ。

骨がなく、筋肉も付いてない。しかも気管があるので、ここを切り飛ばすと呼吸ができなくなる。眉間を打てない時はここを切るとスムーズに屠殺できる。さらに動脈・静脈がすぐ脇にあるから切ってしまえば血抜きも早い。

しかし、筋肉が少ないといっても皮や毛が固いし、脂だってある。


この時点で陸竜(牡丹鍋の材料)が事切れたら、さっそく血抜きだ。両後ろ脚の付け根、内側に走っている太い血管を切り、首元の太い血管も切る。ここまで行ったら、〈高速調理〉(スキル)を一旦解除し、後ろでポカンと口を開けている魔王様(笑)や魔王軍の皆様に声をかける。


『すまんが、これから血抜きをするんだが、手伝ってくれんかね。』


陸竜(ベヒーモス)を見下ろしていた崖からロープをたらし、両後ろ脚の足首を縛り、クロベェと一緒に魔王軍の皆さんで陸竜(ベヒーモス)を吊し上げる。

流れた血液は、魔法薬の原料になるとのことで、魔王軍の手の空いている方々で回収しているので、〈高速調理〉(スキル)を使い、時間を加速させて血抜きを早める。

血が抜けきったら、肛門から喉元までを一刀両断。腹の皮を切ったら、脂肪の層・内膜・腹膜と切り開き内臓(モツ)までたどり着く。

鯨包丁から牛刀に持ち替えて、内臓(モツ)のひとつひとつを傷つけないように切り分けていく。直腸(テッポウ)大腸(ダイチョウ)小腸(ヒモ)横隔膜(ハラミ)腎臓(マメ)肝臓(レバー)胃袋(ガツ)…あぁ特大内臓(モツ)の宝石箱やぁ。


でだ、次の工程。肉を部位ごとに解体をする前に、魔王様(笑)より待ったが入った。陸竜(ベヒーモス)を討伐した証明として頭部がほしいとのことだ。


(タン)をくれるんなら問題ないよ、ついでに皮も剥ごうか?


各足首にぐるりと皮一枚分深さで切り込みを入れたら、脚の内側に足首から脚の付け根まで同じように切り込みを入れる。皮剥ぎ(こればっかり)は、猟師(ほんしょく)には勝てないが、それでもそれなりに綺麗に剥いでいく。

難しい腹部は除き、尻尾付近から始まって、後頭部までたどり着いたら、胴体の皮がついた頭と身肉を分けるため、首を切り落とす。頸椎に包丁が当たると刃が欠けてしまうので、うまく骨と骨の間に刃をとおす。最後に(タン)を根元から切り落とせば、頭に用はないので魔王様(笑)に持ってっていいと合図する。


あとは、身肉を部位分けしてとっとと帰ろう。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ