クラン【農協】 空を往く
「ブモォォォォォォォォォォォォ‼」
今私たちは、クロベェが全速力で引く牛車に乗っている。その遥か後方を巨大化したシロが猛スピードで飛んでくる。
「コケェェェェェエェェェェ!」
そのシロが牛車に追いつき、速度を合わせると、牛車に新しく取り付けられたギミックを掴み大きく羽ばたく。
「パイ○ダァァァァァァァ‼オンッッッッッヌ‼」(ササキさん)
ふわりと牛車が浮いたタイミングで、クロベェと牛車の接続部分を外せば、牛車はシロに運ばれる形で離陸する。
『クロベェ行ってくるぞ。【魔王領】に着いたら召喚するからな。』
「ブモォォォォォォォォォォォォ‼」
哀愁を漂わせ、鳴くクロベェが見えなくなるまで手を振り、クラン【農協】のおっさん達と魔王様(仮)、ついでに元国王様は一路【魔王領】へ向かうわけだが、先ほどのやり取りに至るまでが長かった。
あぁ、元国王様は【魔王領】に着いたら、速攻テントを建てて、転移用の魔法陣を設置する予定での同行だ。
シロが巨大鶏になり、いざ空へと思ったのだが、ちょっと待て。
シロは飛べるのか?なぜって?見た目鶏だぞ。
ってことで、戻ってきたオオガキさんに協力してもらい、シロの飛行訓練の開始だ。
革職人のミソカツさんと、鍛冶師のサカキさん、大工のササキさんに、某最後の幻想なゲームを基に急ぎシロ用の手綱と鞍を作っていただく。全員スキルが100レベルを超えているため、〈高速作成〉であっという間だ。
もちろん、手綱をにぎるのは私。オオガキさんが乗ろうとしたら、踏みつぶしやがったからだ。シロの首元に鞍をかけて体を固定し、いざ空へ…とはならなく、いきなりの疾走。胃袋どころか体全部がシェイクされて、視界がブラックアウト。
気が付けば【神殿】に居た…死に戻りってやつだな。そりゃ全長15メートルの鶏が全速力で走れば、体の上下の振れ幅は2メートル以上。生身でそんなにシェイクされれば、そりゃ死ぬわな。
急ぎ【農場】まで戻れば、シロが申し訳なさそうな表情で、嘴を擦り付けてくる。気にするなと首元を撫でてやるが、気が済まないようだ。
アカツキさんの話では、その後スピードが十分に乗ったところでジャンプ一番大空に飛び発ち、気持よく飛んでいたそうな。で、戻ってきたら、私が乗っていないので何処かで落としたのではないかと落ち込んでいたのでは…との事。
まったく可愛いやつだ。これでもかってくらいに撫でてやろう。もちろんクロベェもハクもだ。
しかし、飛ぶのに助走が必要ってか、一定のスピードが確保できないと飛べないってフラミンゴかいな。まぁ、それならそれで、飛んでいる状態で掻っ攫ってもらえば良いだろうってことになったのだが、さすがに静止状態の重量物を掴んで飛び上がるのは負担が大きいだろうってことで。まず負担の軽減のため相対速度を合わせるため、牛車をクロベェに牽かせたわけだが、なんとなく上手くいった。
もちろん牛車のほうも、シロが掴みやすいような把手をつけたり、風の抵抗を少なくさせるようなギミックを追加搭載している。
道路も、できるだけ人の通りが少ない【始まりの町・春】と【海のある町・アル】を結ぶ街道の直線部分をチョイス。秘密裏に行うので広報はしないが、神官さん方の協力で通行者を減らしてもらっている。
ぶっちゃけ、こんなお祭り騒ぎを元国王様方が見逃すはずもなく、一部始終を余すことなく密着取材してくれましたわ。某N○Kのドキュメンタリー番組風に…どこからどこまでが動画として編集されるのだろうかが疑問だが、そこは諦めよう。
もちろん旅立った後の農場も御座なりにできないので、できるところを〈雇われ妖精〉達にお願いしておく。
で、現在私たちは茹でたトウモロコシを齧っている…いやぁ陸の上を飛んでいるときは景色が綺麗だったんだが。こう、あたり一面海と空とで蒼一色では、見るものが無くてね。
今朝早くアカツキさんの畑から収穫して茹でておいたのを皆に配った訳だ。
新鮮なトウモロコシは生でもいけるが、やっぱり茹でたほうが私は好きだ。さらに醤油ダレをつけながら焼き上げてバターをちょっと絡めた焼きトウモロコシも大好きだ。だが、シロの腹の下で火を使うわけにはいかないので、茹でたトウモロコシだけで我慢していただく。
時折襲ってくるモンスターは、シロの頭の上に陣取っているハクが、ブレスでコンガリ焼いてくれているので心配無用。そもそも、大型の飛行モンスターはシロの速度に追いつくことはないし、追いつけるスピードの小型モンスターは、ハクのブレスで一発だ。
で、魔王様(仮)曰く、現在のシロの速度なら2時間ないし3時間で【魔王領】が見えてくるそうなので、プレイヤーは、交代でログアウトを挟みながら、トウモロコシを齧っているわけだ。
そんなこんなで【魔王領】の陸地が見えてきた。広く白い砂浜、その奥に緑の大地。街道が走り、その先に街が在る。遥か上空から見下ろす【魔王領】は、【王国】と遜色はないように見える。2000年も先を行くどんな都会かと思ったが、そんなことは無いようだ。鎖国して、国外からの文化が入らなかった影響かもしれないな。
さて、流れる景色の先に一際大きな城が見える。魔王様(仮)曰く、あれが【魔王領】の中心に建つ【魔王城】で、その城を含み幾万の住人が暮らす城下町を【王都・グランドクロス】と云うそうな。
で、問題の着陸地点だが、【王都・グランドクロス】の入り口から中心の【魔王城】へ続く目抜き通りを使用する。これは弟が外線で、AI開発部門に連絡をつけて、問答無用に使えるようにした…ってより。抱き込んで、魔王様(仮)の凱旋イベントにしやがった感がハンパない。
だって、その目抜き通りの両脇どころか、付近の屋根上などに【魔王領】の住人さんが野次馬よろしく集まっているんですもの。しかも着陸地点には、なぜか弟が待っているし…っていうか手ぇ振ってる。お前いったい何者だよ‼(八洲医療機器開発の理事です。権力者ですがなにか?)
それはさておき、休憩中にネットで調べて知ったのだが、飛行機事故で一番死傷者が多いのが着陸時だって話だ。プレイヤーであるおっさん達は死に戻りで、【神殿】に帰ることができるが、NPCの元国王様や魔王様(仮)はそうはならない。
っていうか、よく考えなくてもこの浪漫飛行に無限世界の住人のVIPが二人も乗ってる事がおかしい事だって。なんかそう考えると着陸するのが怖くなってきたぞ。
「グンジくん、もうすぐ着陸だ。ベルトで体を固定しろ。」
ササキさんに怒鳴られ、慌てて座席についているベルトで体を固定する。シロが【魔王城】の周りを旋回しながら飛行速度と高度を調整して着陸態勢に入る。
【魔王城】上空から街の入り口へ方面と滑空していく。シロが掴んでいる牛車の車輪が地面に触れる寸前、シロが大きく羽ばたき速度をゼロにする。
ズシンっと重い衝撃が体に来るが、無事に着陸できたようだ。シロも牛車のすぐ横で羽を休めている。ここまでお疲れさまだ。あとで、好物を作って労ってやろう。
いち早く体の固定を外した魔王様(仮)が、牛車から乗り出し気味に…
「皆の者、大儀であった。これより【魔王領】は鎖国を解禁し、【王国】への渡航を許可するものとする。
詳細は後々決めていくが、今はこの目出度い報告だけで勘弁してくれ。今宵は宴ぞ騒ぐがいい。」
魔王領の大航海時代が始まります。




