こんどこそ、初めての…料理だ。
そして、今、俺の目の前にいるのは…
「コケェェェェェエッ!!」
いきり立った巨嘴鶏だ。今回も同じような格好…と云うよりも、身に着けるものなんて何も買っていないから当たり前だが。
しかし、一つだけ違う処がある。この右手に持つ包丁(ATK+20)だ。どうやら、食堂で野菜を切った後に砥石で刃を研いでいたらATKが上がった事と、食材になる生き物限定だが〈料理〉の〈スキル〉で戦闘ができる事だ。
まぁ、人間相手に包丁で戦いたいとは思わんし、調理なんて以ての外だ。前回の復讐も兼ねるが、やっぱりあそこまで膨らんだ妄想を其の儘になんてできないだろう。ってことで、この巨嘴鶏が、食堂の看板メニューになるべく俺が求めるメインの食材だ。
その他の野菜なんか必要な食材はもう揃えてある。あとは鶏肉を持って食堂に向かうだけだ。
今回も戦い方は同じで、突っ込んできた鶏の首を捕まえて、包丁で一気に喉元を掻っ切る。短剣とは違い、食材を切る事に特化した包丁の切れ味は素晴らしい。レベルの上がった〈料理〉の〈スキル〉と合わさり、一撃の元に鶏の首を切り飛ばす。
絶命した鶏の内腿の付け根付近に切込を入れ、逆さに吊るし上げる。簡単に血抜きを行う。これを怠ると、肉が血生臭くなる。
完全に血が抜けた処で、鶏を道具袋に仕舞い込み、一路食堂へと向う。
午後も3時になれば、昼食時も過ぎ食堂に客はいなくなる。基本、飲食店の従業員はこの客の居なくなった時間を使い休憩をし、夕方からの仕事に控えるものだ。しかし、この食堂の調理場では料理人が、この食堂の看板メニューを作るため、一生懸命仕込みをしていた。
まず、大きめの鍋三つに水をはり湯を沸かす。湯が沸くまでの時間で料理人は、米を研ぐ。この食堂も、主食としてご飯を出しているが、料理人が作る料理に使うには飯が柔らかいからだ。水加減を少し少なめにし、米を炊き始める。
湯が沸き始めたら、流しに締めた鶏を置き、一つ目の鍋のお湯をぶっ掛ける。これは、鶏の毛穴を開き羽を抜きやすくするためで、お湯が掛かった処から一気に羽を毟り取る。
次に、鶏を解体するために俎板の上に仰向けに置く。喉元から肛門まで一直線に切込を入れ、バットに内蔵をパーツごとに分けていく。次に別のバットに解体した鶏肉を、パーツごとに分けていく。
余った骨…鶏がらと足は、今回スープを取るために二つ目の鍋に突っ込んで、そのまま煮込む。煮込むことによって出てきた灰汁は丁寧に掬い取ることを忘れない。
鶏肉だが、メインで使うのは腿肉の為、余った部位はご主人にお願いし、保管していただく。次、何か作るときに使わしていただこう。
でだ、もも肉は一口サイズに切っておき、最後の鍋のお湯を使い湯通しをする。これをする事で、鶏肉の灰汁や余計な油等の雑味が無くなるだけでなく、お客に出すまでの時間が早くなると、良い事尽くめである。
ここまでくれば、判る人は判るだろう。俺が作っているのは“親子丼”だ。