料理人さん 敗北その後
恐らく、大概の人がこんな妄想をするのでは?
と妄想して書きました。
因みに、今回は料理人さんが出てきません。
「ふぃぃ、たまの息抜きにゲームをやるが、コッチでも肉体労働たァ休んだ気がしねぇ。」
「何を言っていますか、先程まで嬉々として雄叫びをあげてモンスターを叩き斬っていたでしょうに。」
「うっせっ!!日頃のストレスの賜物だってぇの。」
騒がしく扉を開けて入ってきた冒険者。もう【フードコート】ではおなじみなシャチョー・コウチョー・キョクチョーの仲良し3人組だ。
3人が3人とも組織のトップという事で、溜まりに溜まったストレスを発散するために、時間を合わせ無限世界の住人をプレイしている。リアルの年齢もそれなりに高い様で、体調を気にすることのないこのゲーム世界で、(日頃のストレスを発散するための)かなりのはっちゃけたプレイをすることで、一部プレイヤーからの知名度は結構高かったりする。
そんな3人が【フードコート】たどり着いたのはお昼前。ウェイトレスのNPCに冷たい飲み物を注文しようとしたとき、それが目に入った。
【フードコート】の隅、壁に貼り付けられた紙に書かれた文言・・・
《本日のカツ丼決定権争奪 バトルロワイヤル》
「なぁネェちゃん、あれはなんだい?」
訝しげにその張り紙を指差しながら、ウェイトレスに尋ねるキョクチョー。
ウェイトレスはその質問に対し、明確な答えを示す。
「最近、運営さんで始めたサービスで、【フードコート】のメニューに載ってないカツ丼。そのカツ丼を自分の希望したカツ丼にする事が出来る権利を勝利者に与えるバトルロワイヤルです。勿論、料理人さんが調理場にいるとき限定ですがね。」
他にも、相手のカツ丼にダメだしをしてはいけない。武器・魔法・スキルの使用は禁止、急所攻撃は禁止などのちょっとしたルールはあるものの、最大10人で行うバトルロワイヤルなプロレスみたいなものと考えていればOKの様だ。
「いまのところ、参加枠は9人ってところみたいですね。お客様も参加されます?」
ウェイトレスの問いかけに一人の耳がピクリと動いた。
「因みにですね、今の処どんなカツ丼が書き込まれていますか。」
物静かに訪ねたのはコウチョー・・・某料理学校の校長をしているプレイヤーだ。
その問いにウェイトレスは張り紙に駆け寄り内容を確認して戻ってくる。その内容は・・・
・卵とじカツ丼 2人
・ソースカツ丼 1人
・ヒレカツ丼 1人
・味噌カツ丼 2人
・ミラノ風チーズカツ丼 1人
・カツカレー丼 1人
・ミルフィーユカツ丼 1人
となっていた。
「そうですか・・・チキンカツ丼が無いとはいただけませんね。」
テーブルに両手を付き、勢いよく立ち上がる。
「おっ、おい。本気か?」
キョクチョーがコウチョーの手首を握り静止をかけるが、それを振りほどく。
「皆さんに、たっぷりタルタルソースのチキンカツ丼の素晴らしさを教えなければなりませんね・・・」
張り紙に向かい受付を済ますその後ろ姿は、風もないのにマントがたなびき、何とも哀愁を漂わせていたという。
リングの中央には、10人の飢えた狼が仁王立ちでお互いを牽制している。中には顔見知りもいるが、今は同じカツ丼を戴かずの敵どうし。気合は十分、後はゴングを待つばかり。
観客席にも人が集まり、会場が暖まってきたところでゴングが鳴り響く。
「どぅぅぉぉぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!」
会場にコウチョーの雄叫びが響き渡る・・・
5分後
「あqwsdrftgyふじこlp;・・・・・・」
リングの片隅に、屍のように転がるコウチョーがいた。
開始早々、雄叫びをあげて目立つもんだから全員から集中的に攻撃を喰らい、最初にダウンして戦線離脱してしまったのだった。(チャンチャン)
結局、今回のカツ丼バトルロワイヤルの勝者は、【王都ジパング】から初参戦の女騎士(NPC)さんご注文のミルフィーユカツ丼になったのだが。
「えぇ~~~、ミルフィーユってお菓子のミルフィーユじゃなかったのぉぉぉぉぉ?」
と、希望と出されたカツ丼との余りにもの違いに、卒倒しそっと幕を閉じたのだった。
因みにミルフィーユとは洋菓子の製法・名称であって、この場合のミルフィーユは薄い肉を重ね合わせた、俗に言うミルフィーユ製法(風)をさす言葉です。
まぁ料理人さんは、食事後にコッソリ女騎士さんにミルフィーユをサービスしてあげることになりますが、それはそれ。
もう一方の、仲良し3人組のテーブルは・・・
「ハッハッハッ!! 豪快に負けおったのう。」
「いやいや、残念でしたねぇ・・・また、次がありますよ。」
「おう、頑張れ頑張れ。」
バトルロワイヤルに参加していた【農協】の面子や、観客達と一緒に残念会という名の酒盛りをしていたのだった。
目の前のミルフィーユカツ丼をネタに、ツマミと酒をテーブルに並べ、午後の仕事そっちのけで騒ぎ出したので、女将さんに追い出され、外の青空食堂スペースで宴会へと突入してしまったのだった。
もちろん後日、二日酔いのバッドステータスを運営からいただいたのは云う迄もない。
勢いで書いてしまいました。
反省はしていない、後悔もしていません。




