料理人さん、敗北?
大分お待たせしました。
【始まりの街・春】の郊外にある【フードコート】では、一部熱狂的な客達による壮絶とも下らないともいえる血で血を洗うような争いが勃発している。
争いの元凶は無限世界の住人ではお馴染みの大神官さまなのはお約束。
その騒ぎの元凶が言い放った言葉・・・
「なぁ料理人さん、究極で至高なカツ丼を作ってくれ。」
その時【フードコート】に一筋の衝撃が走り抜けた。
ご存じだろうか、世の中には絶対ネタにしてはいけない話題の料理ネタがあることを。
一度口にしてしまうと取り返しがつく前に、とんでもないことに発展してしまう禁断な料理の話題が存在することを・・・
有名なところでは≪目玉焼き≫だったり≪おでん≫がある。
たとえば自分のやり方がどマイナー中のどマイナーでも、自分にしてみれば当たり前でそれが正道な食べ方と思い込んでいるため、指摘・拒否されたりするとガチでキレたりする。そんな食べ物だ。
逆に、ラーメンやカレーなどはなぜかそこら辺が認められている傾向が強い。
さて、そこで話題のカツ丼だが、これが前者に当たる。
なぜか?
その地域地域でメジャーなカツ丼が、ほんとにその地域でしかメジャーになっていないってのがあり、その自称メジャーなカツ丼の種類が結構豊富にあったりするもんだからたちが悪い。
そして初めてよその地域で食べた違う、自称メジャーなカツ丼が認められず、地元民との意見の交換がすれ違いハッスルしすぎるとナックルトーキングに発展してしまうのだ・・・リアルで。
そしてもう一つ、要因が実はあったりする。
これは【フードコート】というか、料理人さんが原因だったりする。【フードコート】のスペシャリティが親子丼である事と、カツ丼が原因で上記のようにハッスルするプレイヤーが出るからと、メニューに載せていなかったのだ。
今や日本中の飢えた狼が集まる仮想現実世界の食のメッカでもある無限世界の住人の【フードコート】で、究極かつ至高のカツ丼
などと宣ったら最後。
料理人さんが狼達の胃袋を満たしきるまで、この騒動は収まりつかないだろう。そう思っても可笑しくない状況まで事態は発展したのだが、これがおかしな方向に話がすっ飛んで行ってしまったのだ。
『究極とか至高とかの評価は、お客が決めればいいさ。』
料理人さんが、これが私の答えだ…と出してきたカツ丼は・・・湯気が上がるご飯の上に一口大のカツが4枚、その中心に温泉卵が乗ったものだった。
よく見れば、カツは2枚づつ別のタレ― 少し甘めの味噌ダレと出汁の効いたソースダレ ―をくぐらせ、ゴマと青のりを軽く振ってあり香り高い。
カツの下には、極薄のスライスをした玉ねぎが敷き詰めており、カツとご飯の熱と油でしっとりしている。
カツは各々1づつはそのまま噛り付き、残りは潰した温泉卵を絡めて食べることができる。しかも、玉ねぎの鼻から抜ける香りがカツ・カツ・カツと自然と鼻についた油のにおいを吹き飛ばし、新しい気持ちでカツを口にすることができる。
味噌カツ・ソースカツ、そして卵とじカツと3種類のカツ丼を同時に味わうことができる、一石三鳥の美味しいとこどりしたようなカツ丼だ。
元国王様含めNPCのお客さん達にはかなり手応えを感じる一品となった料理人さん特製カツ丼・・・なのだが、プレイヤー達が求めていたのは全く別の方向だったのだ。
「違うんだよ料理人さん。ウチのソースカツ丼こそが、究極にて至高のカツ丼だっての!!」
と、何処かのプレイヤーがヤジを飛ばしてくると。
「いやいや、何を云っとるんだね。オレの地元の味噌カツ丼こそが究極さね。」
と、そのヤジに対しヤジを飛ばす。
「田舎もんは黙ってな!!カツ丼って言ったら卵とじが一番のメジャーなんだから、卵とじこそが究極・至高だっての。」
【フードコート】内が騒然とし、今にもナックルでのトーキングが始まりそうな気配が漂い始めるその時。
バァァン!!と調理台を平手で叩いた様な大きな音が響き渡り、【フードコート】が静寂に支配される。
全員が音の発生源へ振り向くと、一人調理場の中で仁王立ちしている料理人さんが額に青筋を浮かべながら・・・
『此処はメシを喰う処だ、殴り合いは外でやってくんな。』
静かにそれでも迫力十分な声で、親指で外を指差す。
その迫力に負けたプレイヤーたちは、いそいそと外へ出て行くのだった。
料理人さんは、プレイヤー全員が出ていったところで元国王様をよびよせ。
『他のお客に迷惑をかけなければ、拳での会話は大いに結構だ。ただ自分の意思を通すだけじゃ面白くなかろうから、勝者にはその日のメニューに載せるカツ丼を決める権利を贈呈しよう(勿論、私が調理場にいる日限定でだが)』
と、妥協案を出したのだが・・・
また、元国王とその一派が良い意味で暴走してしまった。
ゲーム時間での翌日、【フードコート】の道路を挟んで隣の空き地には観客席付きのプロレスリングが設置され、その日のうちに、元国王様主催・提供クラン【農協】でのカツ丼をかけたデスマッチが開催されたのだった。
~ ある日の昼時前のひとコマ ~
既に本日の挑戦者8人のうち5人がマットに沈んだ本日のカツ丼デスマッチ。
沈んだ5人のには、ソロのプレイヤーで名を馳せるシザンケツガや、休みを利用して【フ―ドコート】に訪れた王国の騎士。その屍(死んでない)を踏み越えて、死力を尽くす男が3人。
「カツ丼と言ったら卵とじじゃろうがぁぁぁぁぁ!!」
紫電一閃、アカツキさんのラリアットがオオガキさんの首を刈り取り、マットに叩きつける。しかし、むくりと立ち上がったオオガキさんは、負けじとロープの反動を利用し・・・
「なんのぉぉぉ!!ソースカツ丼こそ本物のカツ丼じゃぁぁぁぁぁ!!」
ジャンプ一番、フライングクロスチョップをアカツキさんの胸板に叩きつけた。
そしてオオガキさんの背後から、ササキさんが飛び込み・・・
「デミソカツ丼をわすれないでくださぁぁぁぁぁぁぁい!!」
見事な連携でアカツキさんの顔面にドロップキックが炸裂する。
しかし、アカツキさんがノックアウトされた後は、ササキさんとオオガキさんの一騎打ちに移行される。
開始32分34秒、ササキさんのコーナーポスト最上段から場外へ叩きつける雪崩式ノーザンライトボム(鬼嫁バージョン)でオオガキさんから20カウントをもぎ取り、ササキさんのデミソカツ丼が本日のカツ丼に決定した。
というような行いが、ほぼ毎日、お昼時になると【フードコート】脇に特設された白いマットのジャングルで繰り広げられることになるのだった。
注)この小説はプロレス小説ではございませんのでガチに取らないでくださいますよう切にお願いいたします。
今回はプロレ・・・カツ丼回です。




