クラン【農協】 VS ○○○ その2?
この小説は、間違いなく料理がメインの、料理がメインの小説です。
大事なので二回言いました。
さて、結果から言おうか…
…(海竜は)無事で、〖ロマン武器〗は何事もなく全滅した。
そもそも光線銃を海の上で打てば、空気の上に水蒸気も合わさり光そのものが減衰・乱反射してまともに光線が飛ぶはずもなく、イライラした装着者が出力を上げ過ぎて負荷に耐えられなくなり爆発。巻き込まれて装着者が死に戻りしてしまった。
ロケットパンチも同等に〈爆発魔法〉の出力を上げ過ぎて、爆発の負荷に|ユニット《ロケットパンチ型の義手》が耐えられずその場で爆散。巻き添えを喰らった装着者も一緒に死に戻り…しました。
最後の漢の浪漫であるドリルも装着者が死に戻り…ました。いや…海竜に何とかドリルを突き立てた処まではよかったのだが、回転したのがドリルではなく装着者の方だったものだから海竜にしてみればチクッと刺さったようなもんだ。で、海竜の電撃であえなく電装部がナミヘーさん諸共爆散したって訳だ。
いやぁ~、本当にお疲れ様でした。
で、私はっていうと…まぁ順当に【特大の鯨庖丁】でもって海竜の頸椎を切断し活〆にして船で曳いている。
えっ、今までのは何だって?
だって、この小説はトンデモバトル小説ではございませんので(キッパリ)前フリに決まっているでしょう。
操舵手のナミヘーさんが不在の為、〈召喚魔法〉で最近活躍の無かったシロを呼び出し、海竜ごと船を曳いてもらっている。さぁ、港に帰ったら鰻祭りの開催だ。
港に付いたら早速〈召喚魔法〉で死に戻りしたササキさんとサカキさんを無理矢理呼び寄せ、急ぎ海竜を調理するにあたって必要なものを製作してもらう。
まずは、鰻を裂くのに必要な目打ち釘…この場合は杭だな。拘りって訳ではないが、根が関東の住人だけあって、鰻を裂くなら慣れた背開きで行いたい。
その次は串だ、一番太い所では直径が2mある海竜だ、開いても身の厚みは1m・幅はそれこそ6m位はあると考えれば、大分頑丈かつ大分長めの串を用意しなければいけない。まぁ、片身で調理すれば良いだけなので、そこはササキさんに任せておくとしよう。
この大きさのモノを串に刺して蒲焼にするのは現実世界ではまず無理だが、無限世界の住人ならではの〈料理魔法〉を駆使してやってやろうじゃないか。って事で、蒸し器や焼き台も造っていただこう。ここら辺は【海のある街・アル】の皆さんにもしっかりご協力をお願いする…ただで鰻を食べられるなんて思うなよwwwwww
いの一番で造っていただいた特大の目打ち杭を、海竜の調理の為に綺麗にしていただいた漁港の床に海竜の目を通してしっかり打ち付ける。普通サイズの鰻なら一瞬で終わる作業も、大きさが大きさだけに4人がかりでの大仕事だ。でだ、この作業は私が指示を出しながら行うので、勉強がてら旅館の板前さんを筆頭に付近の〈調理〉スキル持ちに手伝っていただいている。
次はこの海竜を背中から裂くのだが、これもサイズ的な問題で、2人で尾鰭を引っ張り躰を真っ直ぐにして、もう1人が腹側の包丁が当たる付近を抱えた丸太でおさえる、って感じで【特大の鯨庖丁】を中骨の上を滑らせていく。次同じようなことがあるなら、事前に特大の【鰻包丁】を用意しておこう。
尻尾まで包丁が到着したら、身を開き今度は中骨の下に包丁を入れ、身から骨を剥がしていく。肝は吸物用に取って置き、不要な部分と血合いは処分。〈水魔法〉の流水で鰻の身に付いた血液を洗い流し、最後に包丁や床に飛び散ったウナギの血液を熱湯で洗い流して、鰻裂きは無事終了だ。
身の尻尾側3分の1は、【フードコート】で留守番中のみんなへのお土産用に確保。で、残りの3分の2を今回の鰻祭りで調理することになる。
さて、まずは鰻を調理する前に蒲焼のタレを造りから。中骨はしっかり洗ったらカラッカラになるまで火で焙ってハンマーで砕く。頭は細かく切り落とし、熱湯をくぐらせ掃除した後、醤油・みりん・酒・砂糖等を合わせた調味液に骨と一緒に煮込んでいく。〈加速調理〉を使い骨も頭もドロドロになる位まで煮込めば、鰻の脂と旨味がたっぷり溶けだした蒲焼のタレが出来上がる。
海竜…鰻を使った料理はそれなりにあるのだが…ほとんどは蒲焼を前提にした料理がほとんどだ。うな重(丼)・ひつまぶしはもちろん、鰻玉に鰻ざくなどがパッと出てくる。蒲焼以外では白焼きがメジャーだろう。他にもイギリスの鰻のゼリー寄せなんか別な意味で有名な料理の為、今回は却下する。
通常の鰻とは違い、海竜を調理するにあたり問題が二つ。蒲焼にした際、結構気になる人は気になる鰻の小骨の存在、そして分厚い皮だ。なんせ30mはある巨大鰻だ、小骨だってかなり大きいし皮もぶ厚い。そこで考え付いたのが小骨対策は骨切りする事。皮は焼き上げた後剥がしてしまう事だ。
どうせ、このまま串を刺して焼き上げれば提供するさい、小分けにしなければいけないので、丁度いいのでは無いのだろうか。皮を剥いてから焼いてしまうと皮ぎしの脂の旨味が損なわれてしまうので、焼くときは皮を付けたままが良いのだ。勿論、皮は別な料理に使うから問題なし。
よし、この作戦で勝負だ。
ササキさんから特製の串が届いたら、早速海竜に串を刺すわけだが…さすがに開いた身そのままに串を打つのは難しいので片身にしてから串を打つ。それだって3m近くある訳で、大変な仕事だ。
鰻の焼き方には関西風の焼き→タレ付け→焼きと、関東風の焼き→蒸し→タレ付け→焼きの二通りあるが、今回は両方行う。
パリッ・カリッとした触感で脂が濃厚な関西風。脂を落として、ふんわりとした触感の関東風。唐揚げ等と一緒で好みが出てくるので両方用意してしまおうって感じだ。
……同時進行なら間違いなく関西風の方が早く出来るからって理由じゃないんだからね。
串打ちが終わった順に次々と火が点った焼き台の上に載せていく。実に用意した海竜の7割は串打ちして次々と焼き上げていく。〈均等化〉の料理魔法で中心まで火が入り生焼けって事は無いので、手伝いに来ている3人に任せて、別の料理に取り掛かることにする。
海竜を焼いている間、手が空いている人は会場の設営を行っている傍ら、ご飯を大量に炊いてもらっている。炊きたてのご飯に焼き立ての鰻、粉山椒を振って広がる香りは、まさに味覚の暴力と言っても差支えないだろう。考えるだけで口の中に唾液が溢れてくる、焼き上がりが待ち遠しいなぁ。
最初に焼き上げた海竜はそのまま蒸し器に突っ込み、蒸し上げる。この後関西風の鰻が焼きあがったら、再度焼いてタレを付けもう一度焼く。
次に焼き上げた鰻は塩を振っただけの白焼きとして、一発目の料理として提供する。醤油とワサビで召し上がっていただく。
3番目に焼き上げた鰻は、タレを付けて再度焼き関西風の蒲焼として提供。タレを付けてもう一度火にかけた辺りで、火に落ちた脂とタレの混ざり合った匂いが周囲に漂い参加者の顔色が変わっていく。丁度よく炊き上がったご飯を丼によそい、蒲焼を切り分け載せていくと、我先にとうな丼に群がってくる様は、腹を空かせたひな鳥の如く。
しかし、まだ…まだ終わらんよ。
関西風の蒲焼が終わったら、満を持しての関東風の蒲焼の登場だ。蒸し上げることで脂が大分落ちたため、香りのインパクトは大分劣るかもしれない。だがこのふんわりとした触感は、関西風とは違いタレと鰻、そしてご飯との一体感を高めることもあり味わいが深くなる。
箸で食べるのが普通の食べ方だが。皮を剥がしてあるので、行儀は悪いが匙を使い、鰻をほぐし飯と混ぜそのまま掻き込めば、櫃まぶしをも超える鰻と飯とタレのハーモニーが味わえるだろう。お約束は一口・二口分を取って置き、アツアツの出汁をかけてうな茶風にして締めくくる。
関西風にしろ関東風にしろ鰻だけだと飽きるので、アカツキさん特製の野菜で作った漬物と肝吸いを一緒に出す訳だ。
まぁ、始めは脂の量でかなり味が重くなるかと思ったが、骨切りすることにより、余計な脂がしっかりと抜け、かつタレがしっかり身の奥まで染み渡る事になった。で、分厚い皮を外せば純粋に鰻の身の旨味を味わえる至高の逸品に相成った。
そこに温泉卵を落として食べた、某鍛冶職人プレイヤーが周囲の目も顧みず絶叫し、周囲のNPCさん方にボコボコにされたのは此処だけの話だ。
鰻玉は、蒲焼を芯にして玉子を巻いて作る玉子焼きだ。出汁の風味は強めだが味付けは薄い玉子焼きの芯に、タレがこってり濃厚な蒲焼を入れれば、玉子焼きはタレの旨味をがっちり封じ込め、蒲焼は玉子で味わいがマイルドになり互いを補完しあい更なる味の高みへと駆け上がっていく。
鰻ざくは少し趣向を変えて、先ほど身から剥がした皮を使う。鱗が気にならないほど細く切った蒲焼の皮と、小口切りにして昆布を利かせた塩水でしんなりさせた胡瓜を出汁で和えれば。皮のクニクニっとした食感と小口切り胡瓜のシャキシャキっとした食感が合わさり、蠱惑的な歯応えになる。噛めば噛むほど皮からタレの旨味と脂の旨味が染み出すが、鼻から抜けるような胡瓜の鮮烈な香りがその都度口内をリフレッシュさせる為、嚥下するまでこの幸せが終わらない。
他にも蒲焼に衣を付けて揚げる天ぷら風や、焼かずに骨切りして蒸し上げて甘辛のタレで食べる中華風。果ては椰子の葉に包んで蒸し焼きにする東南アジア風等色々作ってみたが、軒並み好評で鰻の食べ方を伝える事に成功したと表現しても良いだろう。
鰻祭り大成功!!
港の漁師さん達もレイドボスが居なくなり、漁が再開できるし。美味い鰻が食べられたしと言う事なし。
私も結果的に見れば、竜に次いで海竜と浪漫食材の調達に成功しホクホクだ。ただ海竜がでっかいだけの鰻ってのに運営の悪意を感じずにはいられないのが難点だ。この後【始まりの町・春】に帰れば。【フードコート】で第二次鰻祭りが開催されるのは目に見えているので、今日はこのまま【海のある街・アル】で一泊してしまおう。
海竜討伐に参加した面子で話を合わせ、旅館へしけこみ宴会を行う料理人さん御一行様でした。この時の呑めや歌えやの乱痴気騒ぎで、全員が二日酔いのバッドステータスを頂いたのはネタとしか言いようがない。
が、モニター監視していた運営の妬みが原因と、もっとらしい噂が後に流布されることになる。みなさん、ゲーム世界でも羽目を外すのはやめましょう。
なぜかシーサーペント退治が、鰻料理になってしまったのはこの小説だからです。
そして、お酒の飲み過ぎ・羽目の外し過ぎには注意しましょう。
あとからとんでもないことになります。




