クラン【農協】 VS ○○○
ある日【冒険者ギルド】からプレイヤー全員に対し一斉にメールが発信された。内容は、【海のある街・アル】の沖合にて海竜が暴れており、【海のある街・アル】の漁が滞って、交易にも支障が発生しているため、至急この海竜を退治してほしい…との事だ。
コウタロウ君一向やシザンケツガ君曰く、竜と双璧をなす海のレイドボスとしてアップデートの時に登場したのだが、いまだに発見報告がなかった一種の幻のような存在だったらしい。
その躰は全長約30メートル、一番太い所直径は約2mとそこまでの巨体が、なぜ今まで発見報告がなかったのか【冒険者ギルド】で聞いてみたところ、操船から始まって海上・海中で満足に動くための〈スキル〉を持っているプイレイヤー少なく、〈スキル〉を持っていたとしてもその大半が片手間で習得しているため〈スキル〉のレベルが低いのが原因だったようだ。
その中であって、クラン【農協】が誇る漁師のナミヘーさん(推定〈漁業〉レベル130以上)が【海のある街・アル】の沖合で夜釣りと洒落込んでいるとき、たまたま引っかかったのがその海竜で、それを切掛けに沖合で暴れているんだそうだ。
ここ数日【神殿】で100レベル越えのキャラクターが死に戻りしてきたと噂になっていたが、ナミヘーさんアンタだったのか。いくら、かm…ゲフン。影が薄いからって自己主張するに当たって眠っていた子を叩き起してまで目立とうとしなくても良いと思うのだが。ワザとって訳でもなかろうし、クラン【農協】のメンバーが起こした不始末なのだから、同じクラン【農協】のメンバーが尻拭いをするしかないかもな…と、毎度の事ながらここまでが昨日までの事。
本日、クラン【農協】の生産職チームはクロベェの牽く牛車に乗り、【海のある街・アル】に来ています。今回は海竜を退治する為とはお題目で、生産職チームの開発した通称〖ロマン武器〗の実験である。
これは、先の私が行ったドラゴンの退治で作られた〖特大の鯨包丁〗に感化された…っていうか。ゲームならこんなのバカも有りじゃねぇ?っていう感じのノリで、現実世界での知識と経験と漢の浪漫を盛大に盛り込んで勢い任せで創った武器たちだ。
さて、その〖ロマン武器〗の開発に携わったのが…鍛冶師のサカキさん・木工職人のマスラオさん・革職人のミソカツさん・なぜか大工のササキさんの4名だ。さらにその武器を扱うために私・アカツキさん・オオガキさんまで駆り出され、道案内と船の操舵の為にナミヘーさんとほぼオッサンが合計8名とむさ苦しい事この上ない。そんな集団達が、一艘の漁船に乗り一路海竜のもとへ。
港から小一時間船に揺られながら海竜の目撃ポイントに到着したところ、そこでは先に到着していた団体が海竜と激闘を繰り広げていた…いや、途中から気が付いていたけど急いでもしょうがないのと、海竜の実力を観てみようと船のスピードそのままで来たんだが…実は、海竜の姿をみて一気にヤル気が亡くなってしまったのだ。
「…なぁグンジさん、あの姿って…」
『あぁ…どう見ても、鰻だよな、あれ。』
「…だよなぁ。」
そう、見た目がウナギその物だったのだ。竜が大分強面だったので、海竜もそれなりに恐ろしい顔をしているのかと想像をしていたのに……
海竜のイメージが今までは某ファンタジーのリ○ァイアサンだったのになぁ、もう巨大なウナギで固定してしまった。
せめて…せめて、ウツボくらいに凶悪な見た目なら多少は頑張ろうかなって思えるのに。もうね、ブレス吐こうが、電撃飛ばそうが、どんなに大きかろうが見た目がウナギなら私にはウナギにしか見えません。
そして、大きすぎるウナギは大味すぎて好きじゃない。もっとこう、50㎝~60㎝位の身の締まった産卵前の冬場の鰻が……あぁ、どっかに居ないかなぁ。白焼き・蒲焼・櫃まぶし…現実世界に帰ったら鰻屋行こう、よし決めた。
閑話休題。
あぁ、運営に騙された気分だ。本来真っ先に騒ぎ立てるはずの立場の人間が今回のこの騒動で何も騒がなかったのも頷ける。
元国王のこれ見よがしなドヤ顔がセリフ付きで目に浮かぶわい。
「…なぁ、料理人さん。アイツどうする?」
『あぁ…気分的には放っておきたいが、港の皆さんがお困りだろうから倒さにゃアカンでしょう。』
目の前で戦っていたレイドパーティー御一行様が敗走を始めたため、自信なさげにナミヘーさんが一応のリーダーである私に話を振ってきた。私も自信なさげに答えるのだが、一気にヤル気は削がれてしまったこの状況で何をしろと…
一応〖ロマン武器〗の試し斬りをしに来たのが目的なので、気を取直して一丁頑張りましょう。
ちなみに〖ロマン武器〗と言っても人によってピンからキリまで色々出てくるだろうが、クラン【農協】のオッサン共で行った会議で決定した中で、ファンタジー世界で〖ロマン武器〗といえば、お約束のロケットパンチ・レーザー砲・ドリルという事になった。これは製作に今回の参加者全員が携わったが、一部の生産職はさらに個人で〖ロマン武器〗を創り出したみたいだが、詳細は不明だ。
魔法が存在する《無限世界の住人》では〈光魔法〉のスキルがあるため、理論上光を収束するらしいレーザー砲は簡単に再現できたらしい。まぁ、腕にはめる望遠鏡みたいな形になったのはご愛嬌で、パッと見てレンズが付いた空○砲的な感じだ。
次にロケットパンチだが、これも手甲の上にロケットパンチ型の義手のようなものを重ねる事でそれっぽくした。普段は〈操作魔法〉で義手のようなものを動かし、いざ射出の際は〈火魔法〉の上位スキルの〈爆発魔法〉の反動で義手のようなものを打ち出す…のだが、〈爆発魔法〉の威力を上げ過ぎると、反動で射出した腕どころか自分自身が爆散する自殺仕様になってしまったのだ。
まぁプレイヤーなら死んでも【神殿】で復活できるからできる芸当だ。
最後のドリルに関しては、魔法で無理矢理って事が難しかった。なので、邪道ではあるが現実世界の力を利用してガチでモーターを作成、これを〈雷魔法〉で動かす事になった。細い銅線を輪っか状に何回も巻いて複数のコイルを作ったりしたのだが、一番苦労したのはこの細い銅線を造る事だった。
だって、お手製で銅線を造るってどんな気○いの所業だって話だって。おそらくこの作業中は、全員頭の中でプロ○ェクトXの曲がナレーション付きで流れていたはずだ。
そして、ロケットパンチのように手甲の上に、先端にドリルを付けたモーターを無理矢理ジョイントさせてドリルを完成させた。
因みに電流や電圧・抵抗やら整流だの何だかんだの難しい話は、全く理解できなかったので覚えていないがとにかく手甲に高威力の〈雷魔法〉を持続的に流していれば先端のドリルが高速回転する仕組みって話だ。ドリルが本体で、使う人間はほぼバッテリー的な扱いだ。
が、これって凄く重いんだよね、ぶっちゃけると片手で持てないほど(笑)…両手でどうにか持てる位の重さの物体をどうやって攻撃するんだか疑問に思ったので、サカキさんに聞いたのだが…
「古来より、ドリルは螺旋力でブチ当てるものです!!」
話にならなかったので、筋力を大幅に上昇させる料理をアイテム袋に入れておいたのは言うまでもない。




