番外編 料理人 竜討伐? 試食会その2
お待たせいたして申し訳ございません。
⑨コウチョー(□□料理専門学校 校長)
いつもの三人で【フードコート】に食事をしに来たら、運良くこの番組にあたってしまった。しかもコネ枠で試食に参加できるとは誠に運がいい。後で他のクランメンバーに自慢させていただきましょう。
ここ最近の現実世界では体調の関係(主にストレスによる胃炎ですが・・・)で滅多に食べることのない、かつアップデートから何かと話題でもある竜の、ステーキをいただきましょう。
温められた白い皿の上に付け合せの馬鈴薯・人参と伴に乗っている分厚いステーキ肉。味付けはシンプルに塩・胡椒のみで、仄かに薫るウイスキーの香り以外にソースらしいものは無し。これは、肉の本来の旨みだけで勝負をしてくるって事ですね。
竜の肉の味と、自身の腕前に絶大な自身を持っている料理人さんから、私達への挑戦です。この勝負謹んで受けさせていただきます。
さっそくステーキの左端にフォークを突き刺し、ナイフでステーキを切ります。表面は焼き目がしっかり付いて、程よい弾力がフォーク・ナイフに抵抗を与えますが、内部は柔らかくスッとナイフが入っていきます。
爬虫類特有の白みがかった肉ですが、鰐や蛙とは違い、その香りは鶏肉や牛肉にも負けないような上品な芳醇さを持ちながらも、野性味もある不思議な香りを漂わせ。その香りを打ち消さず、微かに燻らすウイスキーの香りが鼻腔くすぐり、口の中が唾液で溢れかえりそうです。
肉を口に入れ、ゆっくり咀嚼していくと、肉の中に閉じ込められていた肉汁が旨みとともに溢れ出てきます。僅かな塩・胡椒でしか味を付けられていないため、肉本来の旨みをしっかりと味わうことができますが。
「うわっ、ナニコレマジ旨ぇ!!。そこらのブランド牛何か目じゃねぇよ!!」
ををっと失礼、思わず素が出てしまいました。いや、この筆舌に尽くしがたいこの状況が、自分を見失ってしまう事につながってしまうほどドラゴン・ステーキは究極にして至高の逸品ということでしょうね。全く以て完敗です、気が付けば皿の上のステーキは付け合せごとなくなってしまいました。
しかし、こう極限まで竜の旨みを引き出す料理人さんの腕は、本当に大したものですが。このような事を電子の世界で行えるようにした《無限世界の住人》の製作者は、大変素晴らしい方なのでしょうね。
⑩キョクチョー(○○テレビ、放送局局長)
さっきまで俺の目の前にはひと皿の唐揚げがあった。そう、過去形なんだ。
何を言っているのか判らないって?
大丈夫、俺も何を言っているのか微妙に判っていないんだ。
ただ一つ、これだけは言える。唐揚げ(内容量5個)が乗った皿が俺の目の前に置かれた次の瞬間には、皿の唐揚げが無くなっており、吐く息は火傷を負ったかのごとく熱く、口の周りは油でテカテカしていたんだ。
まぁ、簡潔に言い表せば、「すごく美味かった。」これに尽きるんだ。
なにぶん一瞬で唐揚げが消えてしまったと錯覚する位に無我夢中で貪ってたんだろうな・・・、細かい味の感想が全く出てこない。くそっ、一つでも残しておけば良かったか・・・いや、恐らく無理だろうな。だって、自制が効く効かない以前に、あの揚げたての唐揚げの独特の臭いを嗅いだ時点で意識を持っていかれた位だ、これに抵抗できるのは、よっぽどの味音痴か嗅覚がイカれている奴位なモンだろうよ。
一人ひと皿の為、おかわりが無いので、他の方から一つだけでも分けていただこうかと思い周りを見渡すが、ものの見事に唐揚げが残っている皿が無い。他の皆さんも私と同じような感覚に見舞われたんだろう。って言うか、その後の行動まで一緒で、周りをキョロキョロしている。
目を合せた方々は、自分の所業に気付き照れくさそうに俯いてしまったが、その気持ちよく解ります。だって、私も年甲斐もなく同じ行動をしてしまいましたからね。もっと食べたいと言う気持ちを、心の中で押さえ込み、次の機会を虎視眈々と狙うことにしましょう。次こそは腹が破裂するまで食べさせていただきますよ。
⑪シャチョーサン(××プロダクション 社長)
さて、私の目の前にあるのは一杯のカルビ丼。いつもの三人で【フードコート】に食事に来たら、このお料理特番に巻き込まれてしまった訳で、試食として出されたのが、この竜のカルビ丼だってんだから驚きだ。
厚くもないが、其処まで薄くもない、タレの染み込んだ肉を焼いたことによる独特の香りが鼻腔をくすぐる。浮き出るように滲み出てくる肉汁がタレと共にご飯に染み出すその様は、間違いなくこのカルビ丼が美味いと私に語りかけてくるようだ。
先ずは、カルビをひと口。強火の遠火で焼いた肉の表面は、タレのコーティングが焦げたかのような少し固めの食感だが、決して消し炭になったような感じではなく、あくまでもカラメリーゼに近い感じで程よい食感を醸し出している。火も然っりと中まで通っているが、肉が硬くならないギリギリのラインをキープして、噛むたびに肉汁・タレ・肉の味の三つが渾然一体となり、まるで口の中で味覚の花火が大輪の花を咲かせたようなイメージがほとばしる。
続いて飯だ、タレがかかっていないような所を一口。銀シャリと言えるほどにキリキリに研ぎ上げ・・・いや違うな、一粒一粒を磨き上げた米を、少し固めに炊き上げた正に日本人の心を物語るような素晴らしいご飯だ。しかし、あくまでもこの飯が主役ではないので、米の等級を一つ下げた古米を使っているみたいだ。
ってか、この世界に古米の概念があるのに吃驚だ。
最後に・・・って言うか丼物ならやっぱり、アタマと飯を一緒に食ってナンボでしょうって事で、肉と飯を一緒に口に入れて咀嚼する。
目の奥に弾ける閃光、一瞬にして心を宇宙空間・・・しかも天地開闢の瞬間にまで連れ去られた感覚だ。カルビとそのタレ・肉汁を程良く吸い込んだ飯との組み合わせは、正に神の所業とも言えるような、正に奇跡のような出会いだった。
何時だか、コウチョーが言っていたが、基本的に新米だと保有水分量が多くタレや肉汁を弾いてしまうため、丼物には不向きだと。そして、古米ならば、程良く水分が抜けており、タレや肉汁が程良く絡みやすいのだと。
知識としては知っていたのだが、ここまで爆発力を持つ組み合わせになろうとは思わなかった。いや、もうここまで来てしまったのなら、後は簡単だ・・・そう、箸を動かせば良い。
まるでバフでもかかったかの如く、箸が・それを持つ手が・腕が・そして口が加速していく。最後の米の一粒までを口に入れるまでその動きは止まらなかった。
付け合せの漬物・生野菜迄を平らげ、お茶を啜ってやっと意識を取り戻し一息を付くことができた。
「「「「「ごちそうさまでした!!!」」」」」




