それから…
それから数日が経過した。俺はと云うと…
昼間は草原で野菜の採取を行い、夕方になったらあの食堂に赴き、店頭にて野菜を切り刻むパフォーマンスを暗くなるまで行なっている。
夕食時が近づくと、晩飯にありつこうとしている通行人が、店の前で野菜を切る俺の、まるで芸事の様な包丁捌きに歩みを止め、覗き込んでくる。其の、刻んだり細工を施した野菜を食べられるとの事で、店に客が入るって事で。食堂は売上が上がり、俺は〈料理〉の〈スキル〉がガッツリ上がり路銀も稼げるって事で、互いに利のある関係築いている。
まぁ、今の処は目先の新しいパフォーマンスで客を呼んでいるが、どう頑張っても野菜を切っているだけなんだよなぁ。実際、ただ野菜を喰うっても味がなきゃ飽きるだろうし、メインの料理だってうまくなけりゃあ、客が逃げる。そして、〈料理〉の〈スキル〉がレベル15になった時点で成長しなくなった(これが一番キツイ)。
弟曰く、〈スキル〉ってのは、現実世界での自身の技量に左右されるとの事で。例えば現実世界で弓の名手が、《無限世界の住人》で〈弓〉の〈スキル〉を取ったとすれば、たとえ〈スキル〉のレベルが低くとも身体の感覚や勘みたいなもので、同じ〈弓〉の〈スキル〉を持つ素人より上手く使えてしまう。なので、《無限世界の住人》では、プレイヤーの現実世界での技量が高い〈スキル〉に関しては、プレイヤーの技量と対応する〈スキル〉のレベル差をなくすため、その〈スキル〉レベルが上がりやすくなる。
要は、現実世界の経験に、〈スキル〉が追いつこうとする補正がかかるため、プレイヤーが得意としている分野の〈スキル〉はレベルが上がりやすい。逆に、適性が無い〈スキル〉に関してはレベルが上がりにくくなるって事だ。
なのに、現実世界ではこの道ゥン十年の俺の〈料理〉の〈スキル〉は15で打ち止めだ。まぁ野菜を切ることしかしてないからだと思うが…
いい加減料理もしてみたいし、明日はいっちょ森で食材を確保してみようか。特に、あの鶏を…
野菜切りのパフォーマンスも終わり、砥石を借りて包丁を研ぎながら女将にお伺いをたててみたところ…
「よしっ、ウチの看板料理になるようなメニューを作ってみな。今度は調理場の道具一式を使っていいから。但し、材料は持ち込みでな。」
かなりご無体な注文をですが、ナニか期待を込めた眼で見られてしまった。隣にいる料理人(この店のご主人だった)も云々と頷いている。いや、期待を込められても、まだ何を作るかなんて考えてもいないし、これから食材を調達しなきゃいけないでしょうが。かなりの無茶な注文だが、俺の作った料理がこの店の看板メニューになるんだったら…
そんな事を考えながら、料理人はログアウトをしましたとさ。
現在の〈スキル〉レベル状況
〈短剣:Lv2〉 〈回避:Lv1〉 〈食材知識:Lv5〉 〈植物知識:Lv5〉 〈料理:Lv15〉