番外編 料理人 竜討伐?
お待たせしました。
今回は、クラン【農協】の準メンバー視点のお話です。
①サカキ
本日、料理人さんから包丁作成の依頼が来た。話を聞いてみた所、その話のぶっ飛び方に吃驚したものだ。なんて言ったってその包丁は[特大の鯨包丁]だってんだからしょうがない。
「鯨包丁って、料理人さんアンタ何を調理しに行くのさ?」
『ん~、竜?』
「・・・はぁ?」
いや、?を語尾に付けたとしても、アンタの発言は可愛くないからね。いきなり突拍子もないことを言い始めた御仁が、まぁ言い訳を始めたわけだが。事の発端は、よくクラン【農協】に出入りしている料理人さんの弟さんで、その時持ち込まれた肉塊が原因のようだ。
その肉塊の名前は・・・竜の腿肉。最前線の攻略組がレイドを組んでやっと倒せる大型モンスターで、間違っても【始まりの街】に滞在するプレイヤーがソロで敵う相手では無いはずだ。その竜を倒しに行くために、[特大の鯨包丁]を注文してきたって訳だ。
なぜなら、〈料理〉スキルでモンスターを倒さないと食材としてその躰そのものを獲得できず、パーツ又はアイテムをドロップしてしまうという《無限世界の住人》のルールが在るからだそうだ。その中で〈料理〉スキルがカンストしている料理人さんが今のところ最有力で竜を倒せる見込みがあるそうな。
しかし、料理人さんが其処まで竜討伐に執着しているかというと・・・竜の肉が単純に美味かったからだ。弟さんから頂いた竜の腿肉を薄く切り、炙って塩・胡椒を振っただけのモノを食べさせていただいたが、鶏肉に近いが肉汁やソレに付加した旨みが半端じゃ無かった。
料理人さん曰く・・・
『歯応えは鰐の肉に似ているがソレよりも歯応えは有るけど硬いわけじゃない、濃厚な旨味と爬虫類の様なクセのない脂で、人によってはブランド牛のA5クラスより美味いと言うんじゃないの?』
・・・と高評価だった訳で。更に、
『折角だから、現実世界にいない食材を調理するなら、いっその事竜から初めて見たいよね。なんか、漢の夢っぽくて格好良くねぇ。』
との、かなり香ばしいお言葉も頂いた。
俺も、TKGの為だけに最前線に赴いて冒険をしていた事もあるが、それでも今の技量だと王都周辺が関の山だってのに・・・冒険者としての経験が殆んどない、ぶっちゃけ生産職の料理人さんには荷が克ち過ぎているんじゃないかと思うの。だからこそ、仲間の無謀な行いを止めるのは仲間の仕事だと思ったんだが・・・
『もし、ドラゴンの卵が発見できたら真っ先にサカキさんに譲ろうじゃないか。』
「任せてください。」
うん、TKGの誘惑には勝てませんでした。
一週間後には、刃渡り五尺、少し反りがあり厚みも十二分にある[特大の鯨包丁]が完成した。勿論言い出しっぺの料理人さんには、向う槌を振るって貰い、焼入れ後の研ぎは料理人さん自身にやっていただいたのはいう迄もない。装飾や飾り彫り等一切ない、実用のみを追求した本鋼の鯨包丁だが、こんなんでドラゴンに勝てんのかな?
②シザンケツガ
『シザンケツガさん、一寸宜しいかな?』
久しぶりに【フードコート】で食事をしていると、クラン【農協】のボスである料理人さんが俺に話しかけてきた。まぁ、基本ソロプレイの為、食事中は一人静に食べるのが常なのだが、それでも料理人さんから話しかけてくるのは珍しい。まぁ、この人がが俺達に話しかけるってことは、新しいメニューが出来たか、厄介ごとかのどちらかなので、気持ちを落ち着けて話を聞くことにする。
『新メニューの為に竜を倒しに行きたいんだが、手伝ってくれないかい?』
両方かいっ!!
思わず口に含んでいた味噌汁を、料理人さんの顔に向けて盛大に霧吹いてしまったではないか。
「あぁっ!!スミマセン大丈夫ですか?そして、頭大丈夫ですか?」
『・・・問題ないが、其処まで可笑しい事かね?』
手拭いで顔にかかった味噌汁を拭いながら、青筋を立てて料理人さんが聞いてくる。そりゃぁ、最前線の実力派プレイヤーがパーティーじゃなくて、レイドを組んで倒すのが精一杯のボスクラスのモンスターを、殆んど【始まりの街】から出たことない生産職が意気揚々と倒すと宣わりゃ誰だって口の中のモノを吹き出すわい。
しかし、何故そんな無謀な事を考えたのか聴いたところ・・・
『サカキくんにも話したんだが、折角現実世界にいない食材を調理するなら、いっその事竜から初めて見たいよね。なんか、漢の夢っぽくて格好良くねぇって思ったんだよね。おかしいかい?』
間違いなくおかしいです。折角やいっその事で倒せるようなもんじゃないでしょう。
「・・・料理人さん、レイドボスって知ってますか」
『おう、あれだろ?ウチのシロやクロベェみたいなヤツだろ?アイツ等位のモンスターなら一人でイけるんだが、えっ竜ってそれ位の強さなの?』
確かに化石鶏や暴突丑を一人でっても十二分位化物ですが、竜はそれ以上に強いはずですよ。・・・ってかあんた、それ何時ヤった?
『ここ最近、結構頻繁に店先でやっているぞ。因みに今君が食べているビフテキだが、今朝倒して熟成させた暴突丑のサーロインだぞ。』
ハハハ・・・何てこったい。料理人さんの話では、運営から貰ったスキル〈召喚魔法〉でかなりの食材になりうる動植物を呼び出すことができるらしい。
しかし、化石鶏や暴突丑は料理人さんが言うところの現実世界にない食材ではないのかい?と思うのだが。其処は料理人さん、鶏肉・牛肉で一纏めにしてくだすった。なんだよそれ・・・。
更に、何故竜を呼べないのか聞いたのだが、只単純に竜が大きすぎて魔力が
足りないからと答えられました。ってことは、魔力が足りたら呼べるんかい!!
『で、お願いして良いかい?』
と、料理人さんが俺の手が届く少し手前に料理の乗った皿を置く。ソレは旨そうに湯気を立てているビフテキだった。
「・・・お任せください、頑張って竜を倒しましょう。」
うん、ビフテキの誘惑には勝てなかった。
今回の話も少々続く予定です。
料理のシーンは全くありませんでしたが、生暖かく見守っていてくださいますようお願いいたします。




