料理人 北へ
今日もゲーム世界では通常営業の料理人です。先日のとある事件も落ち着きを見せ、プレイヤーは順調に増えている昨今ですが、つい先日運営が大型アップデートを行いました。今回のアップデートで何が追加されたかと言うと・・・なんと、増えすぎたプレイヤー対策として、【始まりの街】を物理的に増やしたそうです。
何を言っているのか判らない方もいるでしょうから、簡単に説明いたしますと、初めてこのゲームを始めるプレイヤーは、【始まりの街】を三箇所から選べるようになりました。【始まりの街】も名称を多少変更し、私たちの拠点のある街を【始まりの街・春】・この街より大分南方にある街を【始まりの街・夏】・最後がこの街より大分北方で雪に囲まれた【始まりの街・冬】となっている。
勿論、既存のプレイヤー達も所定の手続きを行えば拠点を移すことが可能となっていて、其処に扱いの差を生み出さないようになっている。また、各【始まりの街】周辺のモンスターは、あくまでも初心者対応仕様になっているので、余り困った事にはならない安心設計みたいだ。そして、お互いの街を陸路で行き来することも出来るが、なんと!!かなりのお値段はそれなりに掛かるが、現国王様の勅命で飛行船の定期運行を各【始まりの街】と【王都ジパング】間で行うことになったのだ。
いいのか?こんなに急激に便利にしてしまって・・・
「例のアレでその筋では著名な方々からかなりの評価をいただいて、運営さん方が変にヤル気を出してしまってな。ソレを止めるはずのトップが、ノリノリでアップデートにOKを出したんだからしょうがない。」
と、私の目の前で鍋焼き饂飩をつついている元国王様が、私の疑問に答える。なぜ鍋焼きかって?だって私達は今、【始まりの街・冬】の食堂に居ますから。元国王様からの【農協】へ依頼で、この【始まりの街・冬】と【始まりの街・夏】の食堂に、現【フードコート】・・・元【始まりの街】の食堂の様な看板メニューを考えて欲しいとの事で、私が【始まりの街・冬】でナナセさんが【始まりの街・夏】へ向かった訳だ。
私はクロベェの牽く牛車で、シロとハクも従えての陸路で雪中行軍十二時間かけてこの街へ到着したわけだが。ナナセさんは・・・元国王様が同伴で、教会の転移装置を使用して依頼先へと向かった・・・一瞬だったそうだ。で、何故元国王様がこの街にいるかって?そりゃぁ、教会の転移装置を使って来ているからでしょう。あぁ、ナナセさんの方は、メニューが決まったので食堂の従業員に対し技術指導を行っている様だ。因みに【始まりの街・夏】の食堂の看板メニューは冷やし中華に決定したそうな。
この寒い中、元国王様が持ってきた冷やし中華を食べて見たが、なかなか上手く出来ていた。流水で確りと引き締まった縮れのある中華麺と、胡麻油と葱油で香り付けした、鶏のスープと醤油のタレを、酸味の効いた酢で伸ばした出汁が程良く絡まりあい、喉越し良く胃に収まっていく。具の方も胡瓜の千切りと錦糸卵・ほぐした蒸し鶏とシンプルだが色良く纏まって、見た目にも美しいな。具や出汁にアレンジをすれば飽きにくくなるのも、高得点だ。
でも、こんな寒いところで食べるもんじゃないのだけは確かだ(笑)。
で、私の方だが、此方も麺類で対抗する訳ではないが、この寒い中歩いて来るお客様に温かいものという事で、鍋焼き饂飩にしてみた。この世界に固形燃料はないが、赤くなるまで焼いた石を鍋の下に敷けばそれなりに熱を持続するので、保温の面で問題はない。個人用の小さな土鍋に、饂飩・春菊・葱・椎茸・鶏団子・蒲鉾をいれ、味噌が効いた少し甘めの出汁を注ぎ込む。コレを火にかけ煮上がったら、生卵を落とし、蓋をして提供するって手筈だ。
現実世界のように、何時でも新鮮な海産物が手に入る訳ではないので、海老天や掻揚げは出せないが、【海のある街・アル】で加工した蒲鉾や乾物は何故か手に入るので、それに旨みが染み出す鶏団子を加えて完成だ。殆どの材料が事前に準備できるので、提供するまでの時間を短縮できるのが良い。
更に加えて3~6名のグループには、大きめの土鍋で、提供することも可能だ。そして御飯も忘れちゃいけない、なので追加注文でご飯と漬物のセットも合わせて販売だ。其の儘鍋焼き饂飩をおかずにしても良し、締めの雑炊にしても良しで、炭水化物と炭水化物の夢のコラボレーションだ。これに日本酒が加われば、よくぞ日本人に生まれてきたと実感出来る、寒い冬の素敵で無敵で最強なご馳走になるってもんだ。
元国王様のOKが出たので、晴れて【始まりの街・冬】食堂の看板メニューとなった鍋焼き饂飩。この作成方法を、調理場の皆様に指導し終えたら、多少遊んでから【農協】へ帰るとしよう。
かなり短いですが、突然ムラムラしたので書いてみました。
先ず、冷やし中華と鍋焼き饂飩がコラボするってシチュエーションがありえませんが、まぁ、ゲームの話ってことで大目に見てください。




