元国王様 ハメます
正直に言おう、彼らの持つ料理番組や執筆した料理本を見た結果・・・逆にかわいそうになってきた。昨今のレトルト食品万能説や健康志向の錠剤が流行り出したことによる一種の弊害に近いモノがあると言えなくもない状況だった訳で、料理の基礎が出来ていない人間が料理をするとトンでもない事になると言える様なモンだった。その内容は此処では語らないが、その料理を作る人間と、その料理を有り難がって食べる人間を、私はヒトとして見れる自信がない事だけを書いておこう。
さて、そんなこんなで元国王様を中心に、かの輩に対しての報復計画は順調に進んでおり、本日作戦の決行となった。その内容は、実際の番組を見ていただきましょう。
某月某日、とあるニュース番組の中でのワンシーン。因みに番組の一部の出演者は全員渋い顔をしている。
「はい、本日の特集は、特別企画としてかの有名な《無限世界の住人》というヴァーチャル空間行うゲームを開発した八嶋医療機器開発さんに、スタジオの皆さんとお邪魔することになりました。」
「この会社はですねぇ、元々医療機器全般のメーカーだったんですが、2年前より義手・義足等の開発をメインに行い、その技術をゲームとシェアする事により、義手・義足を唯の体の見た目だけのパーツや機能重視の道具ではなく。しっかりと本人の意思で動かす事ができる、第二の手足とする事に成功し、世界でもトップの売上を誇る義手・義足のトップメーカーに成長したんですよ。」
と云う様なアナウンサーの会社紹介の後、出演者一行は会社に入り、VRMMO開発局の職員より会社のコンセプトや商品の紹介等を受け、最後に実際にVRMMOを体験して戴こうとの流れになり、開発局の一角にある、体験用のヘッドギアを装着しゲームの世界へダイブしていく。
「はい、ここが《無限世界の住人》のゲーム世界の中ですね、なんと言いましょうか、中世のヨーロッパを思い浮かべさせる町並みとなっております。しかし、すごいですねぇ、全員先程のヘッドギアをかぶる前の格好そのままでこの世界に来ております。」
其処に元国王様が登場し、このゲームの最大の特徴を説明していく。
「このゲームの最大の売りは、なんといってもプレイヤーに無限の可能性を体験してもえるってのがありまして、その為に人の五感を総て体験できることが大前提なんですよ。なので、ソレを支えるために、ほぼ現実世界の物理法則が通用するように日夜研究や大幅なバージョンアップを行っています。因みに、現在の時間の進行は現実世界の倍のスピードになっていますので、多少時間をオーバーしても何ら問題ないので気になさらずに楽しんでいってくださいね。」
出演者の一人より魔法が実在するようだが、そこら辺はどうなっているのかと、要は[現実世界に近づけているのに、現実世界にない現象を取り入れるのはおかしくないか?]の質問に対して、〈魔法〉や〈スキル〉、モンスター等は、ゲームとして楽しんでもらうための演出で、ヴァーチャルの世界なんだからと元国王様に一蹴されたりもした。
小一時間位【始まりの街】を散策して、多少出演者に飽きが出てきたようなので、元国王様がお茶でも如何と【フードコート】へ案内する。そこで、待ち構えていたのは・・・
『グンジと』
「コウタロウの」
『「お料理・・・喰えるものならぁ、喰ってみろ!! 特別版!!」』
の収録真っ最中だった。
今回のゲストはユウタロウ少年の兄でありクラン【農協】のメンバーでもあるコウタロウくんだ。唐揚げ大好きコウタロウくんのリクエストでもあったが、(ワザと)チマチマと料理をするコウタロウくんの後ろで山のように大量の唐揚げをこさえていく。
ソレをみて声を上げる出演者御一行。案の定、以前の行ったネット動画紹介の時の様な無粋なコメントを吐き出す。
「あぁ、あの早送り動画の・・・」
「あの見た目も良くない料理を作っている・・・」
等など、文句を言っているが、こいつ等がお茶請けとして出されたケーキは私の作ったものだってのは内緒だ。
「では、貴殿たちはこの料理人以上の美味い料理を作れるというのかね?」
元国王様の安っぽい揚げ足取りに、いやぁ~調理場が~等と言い訳を始める出演者達。
「それなら、調理場を用意しようじゃないか。」
元国王が指をパチンと鳴らすと、ズシンと地震に近いような振動が【フードコート】を襲う。外に出てみると、道路を挟んだ反対の空き地に現実世界の・・・しかも出演者の一人が看板を務める料理番組のスタジオ兼調理場のセットができていた。
「これなら、文句はないだろう?調理道具や調味料・食材に至るまで現実世界のソレと全く同じものを特別に用意させていただいたが、まだご不満かな?」
それでも、調理人の環境が~、相手がなれた調理場じゃ~等と更に言い訳を口にする。
「相分かった、其処までご不満なら、そちらと同じ調理場を用意しよう。ついでにハンデもくれてやろうじゃぁないか。」
もう一度元国王様が指を鳴らすと、再度地震と伴に先程出現した調理場を鏡写ししたような調理場が出現した。
調理場の出現で、大分気を大きくしたのか、これならイけるんじゃ・・・みたいな雰囲気を出してきた。そして、元国王様の出したハンデとは、五十倍量の料理をこさえる事だった。其処まで接待待遇されて勝つ気満々の番組出演者の皆さんですが、見落としてますよねぇ。
この場合、アウェーなのは、料理人の私ではなく貴方がただってことを。イコールで、私のこのゲーム内での本気ってのは、お料理関係の〈スキル〉を容赦なく使えるって事を。この場合、料理スキルがマックスの私の調理速度は最大で百倍速で、例えハンデが百倍量でも全く問題ない。逆に、余裕をもって料理をする事が可能なのである。
そして、メニューの決定権を此方に渡したことだ。元国王様の事だから、無理な注文はしないと思うが、間違いなく抽象的な料理を吹っ掛けてくる事は間違いない。ソレを基礎が出来てない中途半端な素人料理人がどこまで対応できるのだろうか・・・大惨事の予感しかしない。
って事で始まった・・・
『お料理・・・喰えるものならぁ、喰ってみろ!! 特別版、場外乱闘編!!』
一人でタイトルコールをするのは恥ずかしかったが、しょうがない。
今回のメニューは現実世界からのお客様の為に特別に今さっき元国王様が考えたものだ。スケッチブックにマジックで手書きの、即席風満載のお題目がそこに書いてある。
・ドレッシングを使った-唐揚げ
・柑橘を使った-サラダ
・デザート風-パスタ
一見マトモに見えるかもしれないが、大分無茶な決め方をしたみたいだ・・・だって、元国王様の後ろに控える近衛騎士(運営スタッフ)が、その手に持つ円筒形の筒に入った数本の割り棒、それがふた組。ぶっちゃけくじ引きですよねそれ。




