【農協】 総力戦その5
さて、幼馴染の少女が来店する当日となりました。ユウタロウ少年の方の準備はというと・・・
プレゼント準備・・・良
【フードコート】のテーブルセッティング・・・良
料理の下準備・・・良
もう準備万端だな。
後は少女の来る時間を見計らって、残った調理をするだけって事になる。
因みに温かい料理を提供するための段取りとお誕生日の演出として、少女が来店する直前に、【フードコート】のお姉さま達が一度少女を【フードコート】の2階・従業員休憩所に拉致ってしまいます。そこで着せ替え人形のごとく、事前に用意した少女用のドレスをコーディネートしていただき、その時間で料理を完成させてしまうって寸法だ。
まぁ、ハンバーグだけは焼きたてを提供したいので、コレばっかりは私の方でやる事にしたが。それ以外の、唐揚げやポテトフライ等はユウタロウ少年が行う事になっている・・・というより、本人より自分でやりたいとお願いされてしまった。
という事で、現在は(私が作る様の大量の)ポテトフライ用の馬鈴薯の皮を剥きつつ、少女が来るのを待っている状況だ。しかし、昨日のお料理番組風のセットは無くなったものの、注意深く【フードコート】内を見回すと所々に撮影機材が設置されている。まさに、運営の本気が垣間見える状況となっている訳だ。
さて、その運営さん達は・・・現在、来ていた鎧などを脱ぎ、一般の客として【フードコート】で食事を楽しんでいる。全く、その中心にいる元国王様が小憎たらしいったらありゃしない。皆で旨そうに親子丼を掻き込みやがって、羨ま・・・また後で締めてやろうじゃないか。〆るじゃなくて、締めてやる。
暫くして、建屋の外から可愛らしい悲鳴とともに、お姉様方に担がれた少女が【フードコート】の2階に上がっていく。ソレを合図に調理を開始する。
先ずは鶏の唐揚げから始めようか。たっぷりの片栗粉をバットに広げ、味付けした鶏肉を入れてよく片栗粉をまぶす。軽く粉を叩いて、順次熱くなった油の中に投入していく。何でもそうだが、大量に物を上げる際は、一片に揚がるワケではないので、端から順番に投入していく事が大事だ。
そうすれば順番を覚える必要がないので、作業がスムーズに進むのだ。程良く揚がった唐揚げから順番に油切り用の網に上げていき、総ての唐揚げの油が切れたら、レタスを敷いた大皿に盛り付ける。
次にポテトフライの番だ。事前に半月に切って水に晒していた馬鈴薯を笊にあけ、確りと水分を拭き取ったら早速油に突っ込む。水滴が残っていよう物なら、高温の油が盛大に跳ね上がるので、確りと水分を拭き取って揚げよう。
最初は150度位の低温で中心に火が通る位じっくりと揚げてから、一度油から上げる。次に180度位の高温の油で表面がきつね色になる位に揚げる。こうすると中まで確りと火が通っており、かつ表面はカリッとしたきつね色のポテトフライが出来上がる。
ここまで出来たら、少年も一度調理場から退出し、アカツキさん達が待つ休憩所に向かわせる。そこで一旦汗を流し、この日の為に【農協】のメンバーが用意しておいた一張羅に着替えて来る。だって、揚げ油の匂いがする少年にお祝いさせるのも何だしねぇ。
着替え終わったユウタロウ少年が【フードコート】に到着すると同時に、テーブルに料理を並べ始める。少年の作った唐揚げ・ポテトフライの他に、私からチョットしたお料理のプレゼント。あくまでもユウタロウ少年の料理がメインになるので、邪魔にならない程度のオードブルとして、お洒落に切りつけた野菜スティックやクラッカー・豚しゃぶの野菜巻き等などの彩重視の簡単な物ばかりだ。
実際の食事が始まったら、給仕は従業員さんにやっていただく事になっているのだが、【農協】の面子であるナナセさんにはパンツスーツの給仕服に着替えていただいている。ハンバーグを少年たちの前で焼く係りとなっていただいている為だ。
そして・・・そこの妙に張り切ったオッサン二匹は、何故か燕尾服にシルクハット・スティックを持ち、モノクルを掛けたくらいにしている。当の本人達にしてみれば、品の良い老紳士を演出しているんだろうとは思うのだが、如何せんこれまでに培ってきた滲み出るオヤジ臭さと、日本人としての体型が原因で全くと言っていいほど似合っていない。
言葉には恐ろしくて出さないが、間違いなく身の丈に合っていない服装だと思っている。うん、大事なので2回言うが、間違いなく身の丈に合っていない服装だと思っている。ホント、同じ黒でもダブルのスーツなら間違いなく威厳が有るはずなのに、ナゼ燕尾服をチョイスしたのかが全く判らん。
恐らく、事前に少女のお出迎えを買って出た時からこの計画を考えていたのだろう。着替え終わった少女が【フードコート】の入口に到着したのを見計らい。
「「お嬢様、お持ちしておりました。フードコートへようこそ(じゃ)!! 」」
入口の両側で待ち構えていたオッサン二人が、少女に対して大きく手を広げ歓迎の言葉を同時に言い放ち恭しくお辞儀をする。少女はいきなりの事態に目を白黒させているが、オッサン二人はナニカをやりきったような表情で小さくガッツポーズをしている。アカツキさんが少女の手を取りエスコートし、ササキさんがその後ろを固めて入店してきた。
「さぁ、お嬢様のご来店じゃ、皆の者しっかりとサーブして差し上げるのじゃぞ。」
少女がテーブルに着くまで、しっかりとエスコートしたオッサン二人は、少女に対し再度お辞儀をし、テーブルより離れるのであった。
さて少女の服装だが、確かにお嬢様と言っても良い位に可愛く纏まっている。髪は後ろでひとつに縛り大きめのリボンで結わえてあり、服はブラウンをメインにしたシックなエプロンドレスになっている。靴下・靴に至るまでしっかりと調和が取れている中々の仕上がりと相成っていた。コーディネートはこうでねぇとって感じだ・・・だいぶ寒かったか。
お姉様方に何故エプロンドレスをチョイスしたか聞いてみたところ、食べこぼして服を汚す心配なんかせずに、精一杯食事を楽しんで欲しいと思ったから・・・だそうだ。その素晴らしい配慮に報酬としてデザートを一品追加して差し上げよう。
まぁ。そうしてユウタロウ少年も少女と同じテーブルにつき、ささやかなお誕生会が始まったのであった。




