【農協】 総力戦その2
ユウタロウ少年のログイン出来る時間は少ない、何故なら小学校に通っている為だ。故にゲーム時間内で一日おき、しかも親より一日2時間の制限を受けていることから、帰宅時間が午後四時位である事を考慮し、最終的にゲーム時間で二日に一回、ゲーム時間換算で午前十時から午後二時くらいになってしまう。その為、行動範囲に制限があり、【始まりの街】から離れることが難しいのだ。
畑に在る食材なら、時間を見つけて刈り取ったりする事が出来るだろう。しかしナマモノに関しては別だ、街で買ってくるか、街の外で狩ってくるしかないのだ。更に、今回は自分で揃える=自分で狩ってくると好意的(?)に解釈してしまった大人達がプロデュースすることになってしまったのだから。
『しかし、其処は其れ。この前覚えた〈召喚魔法〉でズババババーンと解決だ!!』
今回の計画は、あくまでも主役はユウタロウ少年で、ゲストが幼馴染の少女となっているため、大人の豪華なディナーは必要では無い。あくまでも少年が少女をおもてなしする事を前提として動かなくては行けないので、メニューも少年が調理できそうな簡単で美味しいものをチョイスしなければならない。
という事で、少年に少女が好きな食物を聞いたところ、答えられたのが・・・ハンバーグ・唐揚げ・フライドポテト等とお子様味覚満載の答えが返って来た。因みにアレルギーは無いみたいで、ケーキはなんでもいけるとの事だ。ふむ、其れ位なら上手くいけそうだ。
そして、ユウタロウ少年に残された期限=幼馴染の少女の誕生日は十日後に迫っているとの事で、材料を揃えるのに一週間・調理に二日位で何とかなりそうだ。当日は、丁度日曜日になるとのことで少し長めにログイン出来る様に母親にお願いしてみるそうだ。後でコウタロウくんに連絡をして、親御さん説得の援護射撃をしてもらおう。
で、翌日からユウタロウ少年の試練が幕を明けた。
「さぁユウタロウ、鎌を持て。」
「はいっ、こうですか。」
「そうじゃ、こうやって握った麦の束の根元付近を鎌で刈り取るんじゃ。」
「はいっ、こうですね。」
「そうじゃ、いいぞ。その調子じゃ。」
「はいっ」
早速アカツキさん指導の下、ケーキの材料となる小麦を刈り取るところから始めた様だ。大の大人でも結構音を上げる仕事を弱音を吐くこと無く一生懸命頑張っている。ついでに馬鈴薯も畑から収穫してもらおう、これで初日は終了だ。
翌日は今回のケーキ作成のキモである生クリームの獲得だが、これはクロベェの乳を絞ってもらおう。勿論指導者は、残念飼育員のオオガキさんだ・・・大丈夫かなぁ。
因みに、牛のクロベェも鶏のシロも揃って卵を産むようになっている。受精や産卵のメカニズムは全く判らない、ってか大人の事情ですと運営から言われているので、それ以降考えないようにしている。・・・別にクロベェの乳が出るなら良いじゃん。
そして、卵は孵化はさせていない・・・だって、何が産まれるか判らないし、オオガキさんの死に戻る回数が増えるだけだと思うし。って事で、卵は見つけたら即袋に閉まっている状況だ。もう少し【農協】が落ち着いたら考えよう。
話が大幅に逸れた。
クロベェの乳首に手を添え、軽く下に引きながら人差から小指に掛けて順番に握りこんでゆく。勢いよく下に置いたバケツにクロベェの乳を貯めておく。この搾った乳を加熱殺菌し冷やした時に出る上澄みのクリーム層がホイップクリームとなるって訳だ。これも素人には根気と体力が必要な作業になるのだが、弱音を吐かず一生懸命に乳を絞るユウタロウ少年だった。
途中パン粉を作るのに、収穫した小麦粉でパンを焼き、軽く乾燥させた後に砕いてパン粉にしたり。ササキさん・サカキさん・ミソカツさん・マスラヲさん監修の下、プレゼント用の小物を作成しりたりと、何をやらせても一生懸命な姿を見せながらも必ず成果を上げていくユウタロウ少年を最後の試練が待ち受ける。
『最後が私の所か・・・少年、大丈夫か?』
「はい、大丈夫です。」
現在地は整備した道路を挟んで【フードコート】の反対側・・・簡単に言えば街の外に居る。これは、最後の食材である肉を手に入れるための工程だ。何をするかって?召喚するんですが何か?
って事で、私の前で重鎧を身に纏い、大剣を構えているユウタロウ少年の元気の良い答えを聞いた私は、早速〈召喚呪文〉を使用する。
最初に召喚したのは、【フードコート】ではお馴染みの巨嘴鶏だ。襲いかかる巨大な鶏を、ユウタロウ少年は手に持つ大剣で一刀の下に切り捨てた。
心配で見に来たクランの面子達が、少年の剣の冴えに歓声を上げる。本来、冒険者が魔物等を倒すと落とし物となり魔物の一部分だけが拾えることになるのだが。今回は〈調理〉スキルに補正がかかっている私が召喚した為、食材となる巨嘴鶏はそのまま残ったって感じだ。
しかし、それでも今回取り揃えるお肉は三種類。つまり、あと最低二回は戦わなくてはならない。べ・・・別に、少年を死に戻りさせようとしている訳ではないんだからね。
『さぁ、休憩をしたら次に行こうか。』
「はいっ、お願いします。」
シッカリと休憩させて元気を取り戻したユウタロウ少年に向けて、次に召喚した動物は、二つ先の街に生息する雑魚モンスターである、猪豚だ。実はこの日の為に、現実世界で本屋に赴き無限世界の歩き方なる物を買ってきてしまったのだ。良い年したオッサンが子供に混じってゲームの本を買うのは正直・・・いや、かなり恥ずかしかった。
まぁ、私の話はおいておこう。この猪豚は雑魚モンスターらしく、二つの先の街の近郊では比較的弱い|魔物モンスターだ。なので、今回もユウタロウ少年の圧勝に終るだろうと予想はしていたが、やはりアッという間に終わってしまった。
因みに私は、巨嘴鶏の血抜きをしていたのは言うまでもないだろう。最後の牛がちょっと厄介な為、シッカリと休憩を挟んで召喚をしようじゃ無いか。その間に、サッサと猪豚の血抜きも済ませてしまおう。
『さぁ、最後の挑戦だ。大丈夫か少年。』
「はいっ大丈夫です。」
いい返事だ、これなら行けるかもしれないかな。さて、最後の牛の召喚なのだが、困ったことに、ファンブックには一種類の牛しか載っていなかったのだ。そう暴突丑だったんだ。
ウチのクロベェほど大きくはないが、それでも2メートルを越す体高と、その体をシッカリと支え、かつ吃驚するスピードで走ることが可能な強靭な四肢。しかも、突然呼び出してしまった所為か、目が真っ赤・・・めっちゃ興奮していますわ。こりゃヤバイ。
ユウタロウ少年大ピンチ!!




