初めての・・・
さて、勢い込んでフィールドに出たものの、どうしよう。この【始まりの街】の玄関口の門を抜け、舗装されていない道を挟み、右手に森、左手に草原が広がっている。
『まぁ…食材なんかを探すなら森の中か?』
軽い気持ちで草を掻き分け、森の中に脚を踏み入れて三十分後。目の前には、真っ赤なトサカをいきり立たせ俺を威嚇してくる鶏が一羽。
其奴が、嘴を突き立てようと迫ってくる。普通の鶏なら、ハイハイとか言いながら済ませる程度のものなのだが、此奴は鶏にしてはヤケにデカい。簡単に云えば俺の胸位の所に頭があり、鶏冠を含めれば俺と同じぐらいの高さになる。
勿論、横幅だってそれなりに有るし、顔付だって何か凶悪そうだ。こんな鶏の嘴なんて刺さったら、其れこそ土手っ腹に風穴が開くぞ。
しかし、こんなにデカい鶏なら食べ応えもあるだろう。胸肉・腿肉・手羽先・手羽元・モツ・軟骨・鶏冠だって立派な食材。勿論、ガラもモミジも有効利用だ。あぁ、何を作るか今から楽しみだ。
いかん、料理の事を考え始めると止まらなくなってしまう。まずは目の前の食材を仕留めてしまおう。
迫る嘴を、左に半歩動き避ける。そのまま左手で鶏の頭に近い首を掴み、右手の短剣で喉元を切りつける。これが、普通の鶏の簡単な締め方なんだが…
『むっ…』
まいった。切っ先が、鶏の喉の奥まで入って行かない。多少の切り傷を与えただけで、刃がとまってしまった。
簡単にいえば、短剣がなまくら過ぎだ。糞っ、俺としたことが商売道具の手入れを疎かにしてしまった。ってか、これ、初期装備だ!!
『…なんてこった』
あれから、茫然自失していた俺に対し、執拗に嘴を突き立てる鶏により【始まりの街】に送り返されてしまった。確か、弟曰く死に戻りと云うらしい。あぁ、俺の焼き鳥が、唐揚げが、ローストチキンが、キンカン煮が、水炊きが、親子丼が、サムゲタンがぁぁぁぁぁぁ!!
悔しいので、ログアウトして弟に電話をしてみたところ、あの鶏は、巨嘴鶏といい、俺のレベルでは到底倒せない奴らしい。それまでは、草原でチマチマレベルを上げるしか無い。それが初心者の運命だ!!と力説されてしまった。
悔しいが、今回は俺の完全なる敗北だ。糞っ、待ってろよ巨嘴鶏よ。いずれ俺が美味しく調理してやる。