料理人 ぶっ飛ばす(速度的に)
しっかし、先日の来店以降何かと【フードコート】に顔を出す王様ではあるが、あんた仕事はいいんかい?と聴いてみたとこ。
「仕事は息子や、大臣達に任せてきたわい。今の私は国王だっただけの、一般市民だわい!!」
なんか偉そうに言ってはいるが、この糞親父・・・仕事を辞めて来やがった。そんな無責任で良いんかい!!ってそう言えば、初めて来店した時は、沢山の護衛と飛行船で来たというのに、現在は一人でのご来店している状況だ。
例え国王を辞めたとしても、それでも王家の人間なのだからそれなりの権力は有るだろう?それもかなぐり捨てて、この【始まりの街】に居を構えたという事だろうか・・・
「いや、王城からこの街の【神殿】までを直接行き来出来る、転移魔法陣を無理矢理設置したからなんだけどね。いやぁ~権力最高!!まぁ、確かに全てを任せるには、些か早いと思ってはおるので、助言ぐらいはするがね。」
こんの糞親父がぁっ!!私の心配した心を返せっ!!しかも権力フル活用して無理矢理だとか、アンタ何様だ!!
「元国王様だけどなにか?」
ガッデムゥゥゥ!!
如何、このオッサンと居ると自分のキャラが崩壊する。此処は気分転換に、何処かに出かけよう。丁度、元国王も食事が終わってクダを巻いているとこだし、ランチのピークも終わったから良いだろう。親方と女将さんに2~3日程休みをもらうと断りを入れて、厩舎の方に赴く。
取り敢えず、鮮魚や乾物を仕入れるために【海のある街・アル】にでも行こう。クロベェの牛車に乗って、全速で、嫌なことを忘れるくらいぶっ飛ばそう。
『さぁ、クロベェ、出かけるぞ。今回も【海のある街・アル】まで全力疾走だ。』
厩舎に到着し、クロベェの頭をガシガシと撫でながら語りかけると、クロベェガ嬉しそうな声で鳴く。久しぶりに全力で走れるのが嬉しいようだ。そんなクロベェに牛車を装着し、準備を整えて厩舎を出たところで声をかけられた。
「こんにちは、グンジさん何方まで行かれるんですか?」
クランメンバーのサカキさんだ。どうやら作業が一段落して、これから【フードコート】に向かうみたいだ。
『あぁ、こんにちはサカキさん。ちょっと気分転換に【海のある街・アル】の市までクロベェに乗って行ってこようかなと思っています。』
あぁ、サカキさんの目がキランと光った様に見える。アレは獲物を狙う飢えた狼の目だ。
「それなら、自分も同行して良いですか?」
良いですか・・・ではなく、連れて行けと顔に書いてありますよ。まぁ、良いですけどね。サカキさんを牛車に乗せ、いざ出発と思った矢先、もう一名同乗者が増えました。
「ハッハッハァ、いやぁ【海のある街・アル】か、初めて行く街だ。新鮮な魚介類が手に入るというし、実に楽しみだ。」
ハイ、(元)国王様です。農場から出る間際に捕まりました。行く先を聞いた途端、目の色を変えて無理矢理同乗して来ました。いい加減城に帰れよぉ・・・まぁ牛車も一応四人までは乗れるように設計してあるから大丈夫かと思われますが、全速力で走るクロベェのスピードに腰を抜かさなきゃいいケド・・・
「ィィヤッホゥゥゥ!!飛ばせ飛ばせぇぇぇぇ!!」
ノリノリですよこのオッサン・・・どんだけストレスを溜め込んでいたのか分からんくらい、後部座席で一人でハッチャケてますよ。同じプレイヤーのサカキさんは、現実世界で車やバイクを乗っているみたいで、この位のスピードは問題ない様で涼しい顔をしているんだが、兎に角後ろが一人で喧しい。
そんなこんなで、到着しました【海のある街・アル】ですが、時間も昼を過ぎで大分日も傾いてきた時間の為、市には客は居らず店じまいをしている従業員さんばかりです。そんな中で、あの時に仲良くなった市の店主の元に訪れた。
「おぅ、らっしゃい。今日はもう店じまいだよ。・・・おう料理人さんかい、今日はどうした?」
威勢の良い挨拶で迎えてくれる店主に挨拶をし、あるものを調達してもらえるようお願いする。景気の良い返事をし、店の奥に引っ込んだ店主が再度店頭に出てきた時に持ってきたのは、釣竿3本とバケツ。仕掛けは既に竿に取り付けられているようなので、餌になるような小魚や小海老のミンチをついでに購入して港に向かう。
あの時以来しょっちゅうここに顔を出しているので、勝手知ったるなんとやらで、行く先々で声をかけられるので、此方も軽く挨拶を交わし、チョットした情報収集だ。港に着いたら、他の方の邪魔にならないように釣り場を探す。
情報を元にいいポイントをみつけたら、同伴者2名に竿を渡し、早速レッツフィッシング。柄杓で餌をすくい取り、海に豪快に投げ入れる。本日のターゲットが寄って来たのを見計らい、餌を付けた釣り針を投入する。
この釣りで使う仕掛けは、サビキといい、糸の先端部から20~30cm位まで、枝のように釣り針が付いている。その為、一度の当たりで竿を上げずに、何度か当たりが来てから竿を上げると、鈴なりのように魚が引っ付いてくるって訳だ。
本日釣り初体験の二人にレクチャーをして、早速釣り始める。1分としない内に私の竿に当たりが来たが、少し我慢。当たりがいい加減大きくなったところで、一気に竿を上げると、良い形の鯵が5匹程かかっていたので、二人に(特に元国王に)ドヤ顔で自慢する。二人もいい感じでヒートアップしたのか、必死で竿に神経を集中させる。小一時間も頑張って釣っていると、結構な量の鰺を釣り上げられたので、私は一足先に竿をしまい、簡易調理セットを取り出す。
水魔法で出した水で米を研ぎ、水を十分に吸わせたら、土鍋で炊き上げる。
鯵も一度水で洗ってから鱗・ゼイゴを取り大名おろしで三枚に卸す。皮を剥いた鰺を細かく叩いて、其処に刻んだ大葉・胡麻・おろした生姜そして自家製の味噌を加え、粘りが出るまでしっかり叩く。これがあまりにもの旨さで皿まで舐めてしまう鯵の“なめろう“の完成だ。
次に同じく三枚におろして皮を剥いた鯵に皮の方に飾り包丁を入れ、半身を二切れ位に削ぎ切りにする。二切れだと淋しいので、合計二匹分、八切れの鯵の刺身とする。これはおろし生姜と浅葱ネギ、醤油で食べてもらおう。
三匹の鰺を取り出し、エラと内臓を取り串を頭から尾の方に打ち、塩を振ったら七輪で焼き上げる。今回は普通に炭を使って焼く訳だが、最初は遠火で中までじっくり火を通し、最後は強火で皮目にパリッとした焦げ目を付ける。これに大根おろしと醤油の組み合わせは、間違いない。
最後は、ウロコ・ゼイゴ・胸鰭を取った鰺を背中から下ろすのだが、腹の方は皮を繋げたまま骨を取り除く。言わずも知れた鰺フライのおろし方だ。小麦粉・卵白・パン粉の順に衣を付けたら、油でカラッと揚げてしまおう。たっぷりの千切りキャベツと一緒に皿に盛り付ければ、コレで本日の晩御飯の完成です。
バケツに山盛りの鰺をこれみよがしに見せに来る二人に対し、此方もドヤ顔で夕食の準備が出来た処を見せ付けてあげよう。
鰺のような背が青い魚は、悪くなるのが早い。イコールで鮮度が良い内は、間違いなく旨いので、釣り上がった矢先をこのように料理してしまうのが、一番旨い食べ方なのだ。っていうことで、手を洗って早々に飯を貪る二人だが、今回は、私も負けずに食べるぞ。
釣ってきた鯵は、道具袋にしまい、釣り道具一式もすぐ撤収出来る様に、寄せておく。
ん~~~、鮮度の良い鰺は最高だねぇ。
今回は奮発して、秘蔵の日本酒も出しちゃおう。なめろうと日本酒のコラボはたまりませんわぁ。流石の元国王様も黙ってご飯を食べていますが、今度はサカキさんが叫びを上げた。
特別にキングオブTKGのサカキさんのなめろうにだけ卵の黄身を落としてあげたのだが、コレを温かいご飯に乗せて掻き込んだところで、目がクワっと開き・・・
「ぅぅううう!
まぁぁぁぁ!!
いぃぃぃぃ!!!
ぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
流石に富○山より体が大きくなったり、目や口から怪しい光線なんかは出さなかったが、あの味○様もかくやというほどのリアクションぶり。まぁ、美味いと言ってくれるのは嬉しいが、些か喧しくもある。そう言えば、サカキさんって美味いものを食った時のリアクションが喧しい人だったのを忘れてた。
なんとなく腹が減ったのでやりました。
反省はしていますが、後悔はしておりません。
この時期になると鯵が美味しいですね。




