農場 騒乱
ここ最近、ずっと農場の拡張工事やら突発スウィーツパラダイスやらで【冒険者ギルド】や【神殿】に顔を出しておらなんだ。一応、ゲームをしているのだから、料理だけではなく、冒険もしてみたいと思うわけで――いや、このゲームは私的には料理をするためにやっている節も有るが――正直言いますと、事が一段落付いたから、暇をしている訳です。
4人でパーっとやるなら、【海のある街・アル】の旅籠にでも行けば良いのだろうが、最近ログインする時間が噛み合わないのだ。それぞれが現実世界での付き合いってもんが有る訳だし、ゲームを優先するほど常識知らずでも無いだろうからな。
って事で、【冒険者ギルド】で他所の街に行く仕事が無いか来てみたのだが、掲示板には私ができるような仕事が張り出されてはおらず意気消沈としていたのだが・・・。
「そこのアナタ、たしかクラン【農協】の料理人さん・・・じゃ無かった、グンジさんですよね?」
ギルドの受付にいる女性に呼び止められてしまった。なんでしょう?私の料理のファンの方でしょうか?
「いえ、本日お届けにお邪魔しようと思っていたのですが、あなた宛にお手紙が届いております。」
といって、一通の手紙を頂いた。何やら厳重に蝋で封をしてあるようで、ちょっと高級感漂う感じがする様だが。差出人は・・・吃驚仰天、【王都ジパング】に居ります国王様からでじゃぁありませんか。
いくらゲームの中でとはいえ、やんごとなきお方からの手紙とは些か緊張しますねぇ。で、内容ですが・・・要は、王都まで来て、王様の為に食事を作れって事です。面倒臭いんでお断りしましょう。
しかし、面倒臭いから嫌だと書いてしまうと何かと角が立ってしまうので。
国王様に私の料理をお出しする事など、恐れ多くてできない事。【王都ジパング】まで行けるほど、冒険者としての実力が無い事を書いて返信しましょう。一応、もし【フードコート】まで来た際には、他のお客様同様に誠心誠意を持って料理を作らせていただく事も書き加えておくとしよう。コレで、王都に行く気がないのではなく、行けないと理解してもらえるはずだ。
って事で、速攻で書き上げた返信を受付さんに、作りおきのパウンドケーキと伴にお渡しし、【冒険者ギルド】をあとにする。
まぁ、クロベェに乗って行けばどうって事無いと思うんだが、【海のある街・アル】に行くのとは訳が違うので、難しいのだ。主に、街道の人口密度でだ。
恐らくクロベェが全速力で疾走したら、間違いなくモンスター以外に人も轢いてしまうこと受け合い、しかも一人・二人ではなく大量に・・・。そして、お尋ね者になんかになってしまったら、今後この世界で料理をする事が出来無くなってしまうではないか。
おぉ怖い怖い。
ってここまでが、今回の導入部になっていたりする訳でして、こっからが本番になります。何故なら、現実世界で二日後、ゲーム時間で昼頃にいつもの様にログインして【フードコート】に向かったら、道路を挟んで農場とは反対側の荒地に大きな飛行船が停泊しているではないですか。勿論バルーンの部分に何やら豪奢な紋章が描いてあるわけで・・・こりゃぁいつものかと思い来た道を引き返そうとしたら、後ろから肩を掴まれた。
「やぁ兄さん、何処に行こうとしてるんだい?先程からお客様がお待ちですよ?」
弟でした。
でだ、初めて見る王様ですが、一応変装はしていただいているのだが、このなんだろう滲み出てくるようなオーラ?みたいなもので台無しだ。しかも王家所有の飛行船を無断駐車(停泊?)しているのだから無駄な努力だろう。そして、ご家族の方々も変装はしているが、お付きの従者やら近衛兵やらで物々しい雰囲気を醸し出す御一行様だから目立つ目立つ。
一応、ほかのお客に考慮して【フードコート】を占拠せず、外の青空食堂の位置で待っていてくれたのは評価しよう。しかも、わざわざ手紙の通りに王都から農場まで来ていただいたのだから、シッカリとお相手をさせていただきましょう。
『いらっしゃいませお客様、本日は遠い処から【フードコート】までお越し頂きまして有り難うございます。私がクラン【農協】の責任者兼料理人のグンジと申します。お見知りおきを。』
敢えて、相手の出自を言葉にせず、一般のお客様として対応していますよとアピールしておきましょう。王様もわざわざ変装してまで此処に来ているんだから、ソレを望んでいるのでしょう。
「心遣い感謝する。本日は王都でも噂に名高い料理人の腕を見に・・・いや、その料理を食べに来た。」
そんなに私の料理が噂になっているとは・・・正直有り得ないと思うが。まぁそれとは別に、折角の遠方から来た(手段はこの際どうでもいいが)お客様なので、満足してお帰りいただきましょう。
『有り難うございます。では、早速調理に取り掛からせていただきますが。何か食べられないものや、リクエスト等はございますか?できる限りで尽力させていただきますので。』
申し訳ないが、【フードコート】に入れてしまうと、ほかのお客が混乱してしまいますので、このまま青空食堂で我慢してもらうことになるが、其れは了承していただいた。なので、できる限り、王様達のリクエストに答えられるように頑張りましょう。
「そうさなぁ・・・ここの料理はなんでも美味いと聞いている。では、私が食べた事がない異世界の料理をお願いしよう。」
勘弁してください・・・ってか、この【フードコート】のメニューを持ってきますので、ソレを見てください。恐らく王様の見たことない料理がたくさん載っていますから。
「あぁ、スマン。このメニューに乗っているものは、私が一通り作ったことが有るのだよ。」
なんと、王様直々にですか・・・アンタ何もんだ?因みに王様は趣味が料理で、そのスキルは〈上級料理〉レベル30(〈料理〉換算130)の腕前だそうだ。なので、レシピを見ればほぼ作れるそうだ。そして、時間を作っては王都の食堂で腕を振るっているとの事で、私がゲームを始めるまでは、美味いものが食べたければ王都に行けと掲示板で書いたあったほどだ。
なんだそりゃ。
この分だと、農場拡張工事中に出した賄いも間違いなく作れるだろう。
では、グダグダと待たせるのもしょうがないので、レッツクッキング。
まぁ、食前酒の代わりに冷や酒を徳利で一本付けてあげよう。当ては【海のある街・アル】で購入した魚の内臓を使った塩辛を三種類ほど。烏賊の塩辛じたいはこの世界にもあるのだが、魚の内臓で作った塩辛は存在しないのだ。
この塩辛は、日本酒によく合う。因みに鰹の内蔵で作った塩辛を一般的に酒盗と言い、酒を盗んででも飲みたくなる位に酒に合うというのが語源になっている。
コレをペロッとたいらげた王様に出すのは、白身の焼き魚。タダの焼き魚ではないのは当たり前、味噌に漬け込んで熟成させた逸品だ。白身の淡白な味わいに、味噌の塩気と麹菌とで味に深みが出ている。
中火で中まで火を通したら、最後に表面を強火で炙る。皮目と身に僅かに残った味噌が焦げた良い匂いが鼻腔を擽り、食欲を増進させる。勿論あしらい(付け合わせ)として、はじかみ(茎付きの生姜の酢漬け)を付けるのも忘れない。
一応昼飯なので、後はご飯と汁物・香の物でおかずを一品付けて食事としましょう。
メインのおかずはコチラ・・・牛の腿肉です。本当はローストビーフにする予定だったんだけど、しょうがないお客様の為だ。
腿肉を冊に切り分け、串を刺して軽く塩を振る、コレを藁の火で炙るのだ。皿に敷き詰めた玉葱のスライス、其の上に腿肉の叩きを切ってのせる。付け合せは山葵を擂ってお出しする。ポン酢は食べる直前に料理にかけるか、小皿にとりタタキを付けて食べるかお任せで。
肉を生で食べる事は無いが、刺身自体は存在するので、食べ方が判らないって事は無かったみたいだ。
最後に、食後のデザートって事で蜜豆を熱いお茶と一緒に出して、お昼ご飯は終了です。
『お客様、如何だったでしょうか?』
「うむ、どの品もこの世界にある料理とほぼ同じなのに、使う食材・調味料が違うだけで、今までにこの世界に無かった料理へと変貌を遂げているではないか。しかも味についても私が知っているもの料理以上と来たもんだ。全く参ったもんだ。」
どうやら気に入っていただけた様だ。
「昼でこれなら、夜はもっと楽しませて貰えるんだろうなぁ?ん~?」
・・・はい?何言ってんだこのオッサンは。仕事をしにとっとと帰れ。
「そうですね、最後に出されたこのデザートは大変美味しゅうございました。聞く処によると、数日前に街の住人に振舞ったケーキというお菓子も有るそうですね、私は其方が気になりますわ。」
・・・今まで余り喋らなかったお妃様まで期待度MAXは勘弁してください。
「そうだな、折角の休日だ。この街でデートでもしながら時間を潰し、夜になるのをまとうじゃぁないか。」
仕事をほっぽり出してきたのではなく、休みだったんですね。おたくらのノロケなんかはどうでもいいケド、晩御飯もウチで食べるのは確定なのね。
まぁ、一丁気合を入れましょうかね。




