ながされて 公園
昨日は、ログアウトする前に入った旅籠で風呂に入り、何故か卓球・スマートボール・射的を楽しんだあと、おっさん四人で宴会を開かせていただいた。一応、市で知り合ったご主人の紹介だけあって、かなり美味い料理を振舞って戴いた事は云う迄もない。
それなりに長い時間伴に過ごして来た我々だが、恐らく初めてであろう、四人揃って晩酌(という名の宴会)をするのは。何ていったって、主に私が厨房に入っているのが原因だが・・・それでも、気の合う仲間との語らいや、同じ釜の飯を喰うのは素晴らしい事だ。
仕事で美味い料理を創る事に全力を掲げ、休みの日は独りで美味いと評判の店を周り味を覚える・・・時間さえあれば、その料理の再現に又全力を捧げる。生活の殆どを美味い料理を創る事だけに特化させた人生をウン十年過ごしてきた私だから言えるのかもしれないが・・・
さて、時間を合わせて全員でログインをし、世話になった旅籠を出た途端、押し寄せる黒山の人だかり。
「おぉ・・・出てきたぞっ!!旅の料理人様だ!!」
ガヤガヤと集まって来た、この街の住人と思われる人達。アカツキさんだけならまだしも、ササキさんやオオツキさんまで吃驚仰天。勿論、私も多少のパニックでその場から動けない状態だ。
そんな押し寄せる人の波を掻き分けて、一人のオッサンが私の前に現れた。・・・昨日の市の店主だ。息を切らして現れた店主が云うには・・・この前のアレが大変好評で、参加者の口伝てで広がりに広がってこうなってしまったそうな。
口では申し訳ないと言っているが、その両手に抱えた保冷容器を見るに辺り、全く申し訳ないと思っていない態度が逆に清々しい。私にしてみれば、新鮮な食材を力の限り調理できる機会をくれるなら万々歳なのだが・・・現在4人パーティーで行動している手前、私一人が勝手に行動するのは気が引ける。
更に今更かもしれないが、シロ・クロベェ・ハクも街の外で待機している状態だから、何とも云いがたい状況だ。だって、アイツ等、其処らの・・・最前線のプレイヤーも問題なく返り討ちにできる位の強さであるらしい。
って事で、今回は丁重にお断りしようとしたんだが・・・
「よしっ!!グンジくん頑張ってきたまえ。」(アカツキさん)
『は?』
「凄ぇな、私達には真似できねぇな。」(ササキさん)
『ひ?』
「外の3匹は私達で大丈夫ですよ、お気になさらず。」(オオガキさん)
『ふ?』
「お土産を楽しみにしてるからな。」(アカツキさん)
『へ?』
「「「先に帰ってるから、頑張ってなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」」」
『ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?』
見捨てられた?人身御供?パーティーってこんなに簡単に解散できたっけ?
ドップラー効果を残し、砂煙を上げアッと言う間に小さくなる三人の背中を眺めながら、唖然呆然紀元前の料理人は佇むことしか出来なかった。
失意のうちに連れてこられた公園で、気が付けば周りには新鮮な食材がごまんと並べられており、鍋・俎板等の調理器具も自分で用意していたものの倍は揃っていた。
ここまでお膳立てをしてもらったのなら、一丁腹を括って料理しちゃいましょうかね。
一応、市の主人達が用意した魚介類だが、基本的に前回調理した鰹の様に、ある程度の加工食品には向くが、他の調理の仕方がイマイチ微妙、又は調理の仕方が判らない様な食材が多かった。例を上げるなら・・・
鮪 =鰹と同じで、節にする。新鮮な刺身は今ひとつ。
鯖 =っていうより、青い背中の魚は、悪くなりやすいので今ひとつ。
穴子=蛇っぽいのと血に毒があるので、食べ方が判らない。
渡り蟹=何処が食べられるの?
等など。なんか食材を馬鹿にされた気がしない事も無いんだが、この方々の美味いものが食べたいと云う気持ちは伝わって来たので、落ち着こう。更に、助手として、ここいら辺の人気店の店主を連れてくる徹底ぶり。調味料も酒・味醂・醤油・味噌・塩・酢・砂糖とちゃんと揃っているし頑張っちゃいますよ。




