羽化した 育った ヤっちゃった
「クォケェェェェェェェェェ!!」
巨嘴鶏の叫び声が響き渡り、ドスッと鈍い音がした。反射的に全員が其の音がした方に顔を向けと、其処には巨嘴鶏の嘴が眉間に直撃し、死に戻りする直前のオオガキさんが居た・・・って云うか、丁度消えたとこだった。オオガキさん、アンタ何やった?
暫くして、飄々と戻って来たオオガキさんに状況を聞くと、なんてことない事で。オオガキさんの持つ〈獣使い〉のスキルを使わずに、往年のムツゴ○ウさんの如く、無警戒の状態で近づいて手ずから餌をやろうとした処、眉間に嘴が飛んできたとの事だった。
オオガキさん曰く、本気で動物達をモフモフしたかったらしいが、アンタこの鶏は一応でも森の中ボスですよ?そんな奴の攻撃を、無警戒でクルティカルヒットされたら無事じゃないのは当たり前でしょう。
そうそう、アレから一週間が経っている。鶏小屋が出来上がり、卵を孵化させるために小屋に置いておいたら、次の日にはしっかりと孵化していました、三つともです。俺は、一つ位孵化してくれれば良いかと思っていたのだが、三つとも孵化したのは嬉しい誤算でした。しかし、産まれた雛っていうか幼生体は三種類だったのが、招かれざる誤算だった…。
一つは、黄色いながらも此れから立派な巨嘴鶏に成りうるだろう容姿の、鶏の雛。一つは、黒い毛艶で頭の両脇に角が生えた牛。一つは、・・・トカゲっぽいんだが、背中や尻尾が真っ白い毛で覆われている、よく判らん奴が産まれた。
刷り込みかどうかは知らないが、興味本位で一番に鶏小屋を覗いてしまった俺を、親か何かと勘違いし、三匹とも擦り寄ってきた。クソッ情が出てきちまうじゃねぇか、程良く大きくなった時に屠殺なんか出来無くなるじゃないか・・・。
いきなりアノ計画が崩壊の危機に陥ってしまった。此れをオオガキさんに相談したところ、この孵った巨嘴鶏が卵を産むまで育てれば良くね?的な回答が帰ってきたので、このままこの鶏小屋で飼う事に決定してしまった。
まぁ、昨日今日で安定した鶏肉の提供が出来るなんて、端から考えていなかったんだから、良いじゃないか。
いっその事とアカツキさん云われ、こいつ等に名前を付ける事になった。因みに・・・
巨嘴鶏は、“一郎”
子牛は、“二郎”
白いトカゲは、“三郎”
と、名前を付けようとしたら、三人から非難轟々だったので。
巨嘴鶏は、羽が白い処から、“シロ”と
子牛は、色が黒い処と鳴き声がべぇぇぇぇと聴こえる処から、“クロベェ”と
白いトカゲは、毛が白く一本一本がかなり細いので、“ハクs”・・・ササキさんに殴られたので、“ハク”にする事にした。
一匹ずつ名前を呼んでやると、気に入ったのか擦り寄ってくる。これは、アレだな、何かに目覚めそうな気がしてくる。強いて云うなら、初孫を見た爺さんの様な気持ちだな、俺には子供すら居ないが。
って事で、オオガキさんの〈成長促進〉の魔法と、しっかりと餌を与えた事により、シロとクロベェは順調に大きくなっていき、一週間もするとそれぞれが、丁度良いであろう大きさへとなっていった。シロは、成人男性の胸位の大きさに、毛艶なんかは野生の鶏に負けない位に輝いている。クロベェは現実世界の一般的な牛の大きさへと成長を遂げ、顔付きも大人の其れへと変貌していった。
しかし、ハクだけは殆ど大きさが変わる事無く、農場に居る間は俺の頭の上に居座っているのだった。