堆肥作る、土地おこす
畑を囲う柵が出来たので、次は畑の土を作ることのなる。しかし、アカツキさんが云うには、畑とは土を耕せばそれで御終いといった理由ではないとの事だ。耕すのは大事だがそれ以上に、バランスの良い栄養分・水捌けが良く植物が根を伸ばしやすい土壌・最後に畑に対する愛情が必要だと…最後の愛情のくだりをドヤ顔で言わなければ云い漢なんだが。
この街には堆肥が売っていないので、自作するしかないとの事で、アカツキさんより命じられたのが。出汁を取って残った巨嘴鶏の鶏ガラと、唐揚げや天婦羅を上げた油のカスを取って置く事だった。鶏ガラは細かく砕いておき、油カスや木材を加工した時に出た枝葉等や草原の雑草等と合わせて柵内の一箇所に造った堆肥置き場に集めておく。
此処で俺の出番がもう一丁来るのだ、この前習得した〈闇魔法〉の魔法の一つである〈腐敗〉を使い、集められた雑草等の山を発酵させていく。小一時間位で醗酵して熱を持った雑草等の山をスコップで、上と下を引っ繰り返すように隣に新しい山を作る。この作業を切り返しといい、この作業を2回程繰り返すと堆肥となるのだ。
因みに、この〈腐敗〉の魔法は肉を素早く熟成させたり、味噌や納豆・ヨーグルト等の醗酵食品を作れるか試すために、密かに練習していたのだ。余談だが、醗酵と腐敗の違いだが、基本的に違いはない。ただ定義として、人に有益なものを“醗酵”と言い、それ以外を“腐敗”と区別しているみたいだ。よく外国人が納豆を見て…
「コノ大豆腐ってマース、トテモ食べラレタモノジャアリマセーン。日本人オカシイデース。HAHAHAHAHAHA。」
とか言ってるが、アイツ等は、牛乳が腐ったヨーグルトや、醗酵したうえ更にカビの生えたチーズを喜んで喰ってるんだから、日本人から見たらお前らの方がおかしいだろうと思うんだがな。いや、ヨーグルトもチーズも普通に美味しくいただくぞ。昔、近所に住んでたアメリカから来た学生に教えてやったら、ショックを受けて三日間寝込んでたぞ。
俺が堆肥づくりを一生懸命頑張っているあいだに、残りの三人が何をしているかと云うと。ササキさんとオオガキさんは、この土地に散らばる石ころを回収する作業を黙々とこなしている。この石も砕いて畑に撒くんだとさ。
でだ、こっからが見せ場のアカツキさんは…
「甘いっ!!甘すぎるぞぉぉぉぉぉぉ!!、こんなもんじゃぁぁワシの行く手を阻むことなど出来んわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
何かにつけて喧しいぞ、あのおっさんは。何処かの漫画の登場人物の如く、土煙を上げながら、物凄い勢いで土地を耕していく。知っているか?熟年の農夫が鋤一本で土地を耕すスピードは、耕運機と比べられない位早いんだぜ。
なんせ、この畑を作る作業中にアカツキさんの〈農作業〉スキルはアッと言う間にレベルが50を越えたみたいで、農作業用の特定の農具を使うと、作業が通常の倍以上のスピードでこなせる様になったらしい。なもんだから、調子に乗って上記のようなセリフを言っているみたいだ。正直言おう、すっごくウザイ。
畑にする土地を一通り耕し終わったら、先ほど作り上げた堆肥と石を砕いて粉状にしたものを満遍なく畑に撒いていく。植物が撚り良く成長成長する為に、土壌を改良しているわけだ。アカツキさんが、“ぺーはー”やら“酸性・中性・アルカリ性”だの言っているが全く以てチンプンカンプンな為、取り敢えず言っている事に従う事にする。
再度、アカツキさんが鋤を手に耕運機無双をかましたら、〈水魔法〉を持つアカツキさんとオオガキさんが畑一面に水を撒く。今回は、畑にある程度の水を含ませるために、力の限り〈水魔法〉の初期魔法〈水球〉を其処畏に打ち込んでいく。野菜何かを植えるのは明日になってからとの事で、まだ太陽は高い位置にあるが、本日の作業は終了し3人は食堂にむかう。
しかし、3人はコレで仕事が終わりだろうが、俺にはヤらねばならぬ事がまだ有るのだ。そう、巨嘴鶏の確保だ。って事で早速森へ出発だ。
独りでも寂しくなんか無いんだから。ケッ。
食材を確保し、食堂に戻った俺の目に入ったのが…既に酔っ払ったおっさん三人ではなく。いい年した大人が約十人、一触即発の雰囲気で料理を乗せたテーブルを囲んでいた。その中に何故か混ざっていたおっさん三人のうち、アカツキさんを呼び付け何をやっているのか問いただしてみる。
『アカツキさん、この空気は一体どうした?料理に箸も付けないで。折角の料理が冷めちまうだろう。』
「おぉ、帰ってきたか。イヤな、其処の若造共が、唐揚げには檸檬をかけるのが一番じゃと吐かしおってな。大人気無いなと思いながらも、少し唐揚げの素晴らしさを説いておったんじゃ。」
ササキさん・オオガキさん・他アカツキさんの隣に座る青年が首を縦に降る。ハッキリ言おう、本気で下らない事だ。喰べる人の好みなんだから良いだろう?唐揚げの油が苦手だから、酸味の強い檸檬で中和して美味しく食べようと工夫しているだけだもん。
「嫌々、唐揚げにはヤッパリレモン絞らないと美味くないって。」
「そうだそうだ!!」
「そうだレモン最高!!」
「レモンのない唐揚げなんて、くs…」(ガシッ)
なんかスカシた感じの青年が、余計にアカツキさん達を煽るような発言をし、周りの同世代と思われる連中が騒ぎ立てる。ただ、最後の発言をしようとした青年は言っちゃいけない事を言おうとした為、その喉元をガッチリ掴み其処から先は言わせない。
『…オゥ、アンチャンよぅ。今何を言おうとした?』
喉元を掴みこんだ青年の顔を、そのまま俺の鼻先まで持ってきて問いかける。勿論こんな状態では返答なんて出来るだなんて考えていない。
『なぁ、オマエさんが言おうとした事はな、この料理を作った人に対しても、この料理を美味しいと食べてくれている他のお客さん達に対しても料理を、料理の為に殺された食材に対しても、物凄く失礼な事だ。そこら辺を判って言おうとしたんかい、あぁん?』
多少凄んで睨みつけるが、この青年は俺を見ていない。既に顔は土気色、白目を剥き、必死に俺の腕をタップしている。こんな状況なので、テーブルを囲んでいる人達だけでなく、周囲のお客さん達もドン引きしているのでコレ位にしておこう。
喉元から手を離された青年は崩れるように跪いて、必死に肺に空気を取り込み始める。取り敢えず、呆然としているスカシた感じの青年の後ろに回り込み、隣に座る青年共々、ガッチリと腕で首元を押さえ込む。さて、どうしてこんな下らない諍いが始まったのか話を聞こうか。
昨日は途中で力尽きましたが…何とか一話分を書き上げました。