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謎の男(×4)があらわれた、どうする? →たたかう

 悲鳴にもならない驚きの声。

 痛みを感じたのはきっと、自分に何が起きたのか理解した後のことだろう。


 顎の骨を砕く感触を拳に感じながら光秀は顔を顰めた。


 失敗した。


 予定ではちょっと気絶させるだけで、ここまでのダメージを与えるつもりはなかった。

 自分の身体能力が下がっていることが『スキャン・ボディ』の魔法で分かっていたので、普段よりもちょっと強く力を込めてみたのだが。


 想定外だったのは相手の脆さ。

 あと少し力加減を間違えれば殴り殺しているところだった。その事実にぞっとする。


 ともあれ、光秀は殴り倒した男の手から刀を奪い取る。

 四人の中でも一番若い男だった。

 彼を選んだのはもっとも未熟そうだったこともあるが、何より手にしているのが刀だったからだ。


 これなら素手で戦うよりも手加減ができる。


 欲を言えば幅広剣(ブロードソード)の方が使い慣れているが、ここにない物を求めても意味がない。


「なっ!?」


 男達が驚愕の声を上げる。

 電光石火の一撃で仲間の一人の意識を刈り取った光秀に、即座に反応できた者はリーダー格らしき年かさの男だけ。

 後の二人は武器を楓と徳爺に向けたままポカンとした顔をしている。


 だから光秀は一番手強そうな、そのリーダー格を真っ先に潰すことにした。

 奪った刀を手に距離を詰める。


「……チッ」


 舌打ち。

 光秀の思惑は外れた。リーダー格の男は滑るように寄ってきた彼から、後ろに跳躍することで距離を取る。

 どころか、まだ驚愕から立ち直っていない仲間の背後へと回り込む。

 完全に盾にする動きだ。


 今のやり取りで真正面からは光秀に勝てないと判断したのだろう。


「ぎゃ」


 白銀が闇の中で閃いた。

 リーダーに盾にされた男が太ももを抱えて倒れる。

 ざっくりと切れた袴からは血がドクドクと流れ出す。


 人は痛みというものに弱い生物だ。

 戦闘中などで脳内麻薬が回っていれば痛みを無視することもできるが、斬られた男は完全に虚を突かれたところへの攻撃だった。

 回復魔法で適切な治療を受けなければ障害が残る。その程度には深手だ。


 それでも痛みに気付かない内なら反撃の可能性もある。

 光秀は斬った男の間合いに入らないよう、円周上を移動して背後へと回り込む。


「きえええええええええ」


 その時、視界の左隅で槍を持った男が奇声を上げた。

 ようやく動き出した状況に意識が追いついた最後の一人。


 手にした槍を光秀に向かって一直線に突き出す。

 だがそれは苦し紛れの攻撃。とりあえず敵に倒せなくてはと咄嗟に出した一突き。

 とてもではないが光秀を倒すには気合が足りない。


 左足を一歩後ろに下げる。

 半身となった体の傍を槍は無様に通り過ぎた。


「ふんっ」


 光秀が刀を振るう。

 伸び切った槍の()を反った刃が両断する。


「ひぎっ」


 槍を持った男がくぐもった悲鳴を上げる。

 その肩には切り落とされた自身の槍の穂先が突き刺さっていた。


 光秀が切り落とした槍の先端を左手で掴み、男に向かって投げつけたのだ。

 痛みと衝撃に男は背中から床に倒れ込む。


 これで残りは一人となる。


 殺気。

 高速で近づくそれに、光秀は反射的に身を逸らす。

 まるで上半身だけのブリッジ。


 そのさっきまで光秀の胸があった空間を、白い何かが走り抜けた。


 それは符。

 紙でできた呪符が、まるで金属のような鋭さを持って投擲された。


 光秀に躱された符は、そのまま背後の壁へと突き刺さる。

 まさに刃。尋常の技ではない。


「何かの魔法か、そりゃ」


 それを投げたリーダー格の男に向かって、光秀は余裕あり気な表情を作って問いかける。

 内心は冷や汗ものだ。やはり長年の王としての安穏な生活で勘が鈍っている。

 昔の全盛期の自分なら、あの程度は全て叩き落しているところだ。


「守護霊外装」


 だが男は答えず、指で複雑な印を切る。

 やはり魔法。それも高等な部類のもの。

 高等魔法を習得した魔法使いは、詠唱だけではなく印や踊りといった補助を使って魔法の発動までの時間を短縮する。


 気になるのは男が詠唱を用いず、印だけを組んだところだが今は気にしている暇はない。

 魔法が完全に発動する前に決着をつけようと、光秀は一気に男へと切りかかった。


「!?」


 だが刃が届く寸前、男の背後に何やら獣のような影が現れたと思うと、滑り込むように男の体内へと潜り込んだ。


 金属同士のぶつかる耳障りな音がした。


「何だ!?」


 光秀は目を剥く。

 男の肩口に確かに当たるはずだった刀。その刀身が半ばから折れ曲がっていた。


 男が素手の右腕で弾き落としたのだ。

 だがその動きは素早く鋭く、そして凶悪だった。

 相手を殺さないよう手加減していた光秀は虚を突かれた。


 先程までの緩慢さが嘘のように、それこそ獣のような動きで男は光秀に向かって飛び掛る。

 喉の奥から唸りを上げ、殴りかかってくる男。

 その拳を光秀は曲がった刀を投げ捨てて前腕で受け止める。


「ぐっ」


 思わず苦痛の声が漏れた。

 まるでオーガやトロールのような重さ。

 完全に男の実力を見誤っていた光秀は予想外に重い攻撃に思わず身を引いた。


 そこに男が逃がさじと距離を詰める。

 拳が、蹴りが、光秀に迫る。


 それは獣のように暴力的でありながら、修練を積んだ人間の拳法の動き。


「あんた、武道家か」


 やはり男は答えない。畳み掛けるような動きで攻撃を重ねてくる。

 光秀は剣が専門で格闘技は齧った程度だ。それでも何とか男の打撃を捌いていく。


 だがじりじりと後退し、ついには壁際まで追い詰められてしまう。


「もらった!」


 男がここに来て初めて言葉を発した。

 もう逃げ場はない。勝利の確信と共に鋭く伸ばした指先を突き込んでくる。


「オーラ・ショット!」


 だが光の打撃。

 追い詰められたかに見えた光秀の手の平から、眩いばかりの魔力の奔流が打ち出された。

 それは突進する男の全身を叩き、その体を反対側の壁にまで吹き飛ばした。


 衝撃に部屋が揺れる。


「ぐ、この程度で!」


 だがそれは男に致命傷とはならなかった。

 壁に背中を打ちつけながらも、すぐさま体勢を立て直し構えを取ろうとする。


「いや、終わりだよ」


 その目の前に光秀がいた。

 男は反応すらできない。放たれた光秀の左拳が人体の急所の一つであるこめかみを抉る。


 さらには止めとばかり、追撃の右アッパーが男の顎を撥ね上げた。


「がふっ」


 その連撃は男の意識を確実に打ち砕いた。

 ぐったりと力をなくした男の体が、ずるずると壁際に沈む。


「……やっぱり、こういう魔法なら使えるみたいだな」


 敵を倒し、しかし油断なく構えながら光秀は呟く。

『スキャン・ボディ』を使えた時に疑問を感じたのだ。

 確かに精霊の力を借りる精霊魔法は使えなかった。だが魔法自体が使えなくなったわけではない。

 もしそうだったなら、そもそも『スキャン・ボディ』自体が発動しないはず。


 精霊魔法と『スキャン・ボディ』の違い。

 それは後者が自分の魔力だけを使って発動させる魔法だということだ。


 光秀が男に対して使った『オーラ・ショット』もその類の魔法だった。

 初級も初級。魔法使いが一番最初に覚える入門編。

 自分の中の魔力を直接外に対して叩きつけるという単純な魔法。


 本来なら小枝を揺らす程度の威力しかない代物だが、光秀の豊富に溢れる勇者としての魔力量によって大の男を吹き飛ばすほどの威力を発揮した。


「ともあれ、何が使えて何が駄目なのか。後で試さないといけないな」


 ぼやいて、光秀は構えを解いて向き直る。


「……貴方は、一体」


 そこに自分を警戒の目で見る楓という名の少女の姿があった。

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