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(2)

 ゴールデンウィーク四日目。休日は明日も残っているが、天気予報はまさかの雷雨。大野先生の言うとおり、今日は最後のチャンスだ。

 明日からの天気の悪さを感じさせない快晴。雲ひとつない空を見上げながら静樹が山道で待っていると、約束の時間から十分ほど遅れて息を切らした大野先生が現れた。

「ハァ……ヒィ……ふぅ。すまない、深山君待たせたね」

「あ、全然大丈夫ですよ。それで、地図は?」

「うん。なんとか特定できたよ。えっと……あった、これが今のタイムカプセルが埋まっている場所だ」

 大野先生がバックから最新の地図を取り出し、静樹に渡す。地図には赤いマーカーで長方形の枠が描かれていた。場所は静樹が掘っていた場所よりもかなり下。これじゃあ、見つからないはずだ。

「けっこう広そうですね」

 地図に視線を落とした静樹が呟く。マーカーで描かれた赤い長方形は、縦25メートル、幅は20メートルほどもあった。25メートルプール二つ分がすっぽり入る大きさだ。

「すまない。限界まで絞ったんだけどね」

「あ、いえ。別に大野先生を責めてるわけじゃないですよ」

 申し訳なさそうな表情を浮かべる大野先生に、静樹は慌てて顔の前で手を振った。

「場所を特定してもらっただけで十分です。あとは……」

 静樹が用意していたスコップを担いで、溌剌とした表情を浮かべ、力強く頷く。

「気合いと根性で何とかします」

「そうかい。じゃあ、その気合と根性に、僕もちょっとあやかろうかな」

「え、大野先生?」

 静樹がキョトンとした表情を浮かべる。大野先生の巨体の影に隠れて分からなかったが、その背中にはツルハシやショベル、さらには針金をL字に折り曲げたダウジングいった、穴掘りに必要な道具一式が背負われていた。

「たまには運動して脂肪燃焼しないとね」

「あ、ありがとうございます。今度、何か奢りますね」

「いいよいいよ、気にしなくて。さぁ、僕たちの力で、山の地形を変えちゃおうか」

「はいっ!」

 むんっ、と腕まくりをする大野先生と共に、静樹の発掘四日目は始まった。

 ――ザックザク、ガッツガッツ――と、山の地面を削る音が木々の間に反響する。

「深山くーん。あったかーい?」

「ないでーす。そっちはどうですかー?」

「ざんねーん。ゴミばっかだよ」

「あ、ゴミ袋持ってきてるんで、入れといてくださーい」

 ゴミがあればゴミ袋に捨て、次々と地面に穴を開けて行く静樹と大野先生。しかし、やはりプール二つ分の範囲は伊達じゃない。2時間ほど掘り続けても、全体の五分の一ほどしか調べられなかった。顔から滝のような汗を流した大野先生が、「ふあぁっー」っと野太い息を吐き、木の幹に背中を預けて座りこむ。

「み、深山君。き、君は、疲れないのかい」

「もちろん疲れてますよ」

 ショベルを突き立て、首に巻いた手ぬぐいで静樹が零れる汗を拭う。発掘作業も四日目。身体の疲労感や、筋肉痛は半端じゃない。気を抜いたら、「俺、なんでこんなことしてんだろう」と現実逃避が顔を出す。

「このペースだと、正直キツイですね」

「そうだね。せめて、もう少し人手があればいいんだけども……」

 大野先生が、まだまだ手つかずの山の斜面に目を向けた、その時。山道の方から、静樹の名を呼ぶ声が響いてきた。

「おーい。静っ樹ぃーっ!」

「ツカサっ!? のこに、みのりも!?」

「手伝いに来ましたよ。静樹」

「と、差し入れだ。食え」

 山道から大きく腕を振って現れたのは、それぞれ野球帽、タヌキの帽子、麦わら帽子を被りジャージ姿に着替えたツカサ達だった。

「ツカサとみのりは、部活があったんじゃ」

「部活の助っ人は昨日までで全部終わらせてきたんだよっ」

「私も、大会は昨日までだったので。今日はお手伝いに来ました」

「そ、そうか。助かるよ。ノコは?」

「くっぷ。全部食べ切ってきた。これは、静樹の分」

 口の端にチョコレートを付けたノコが、手に持っていた小袋を静樹に差し出す。中には、数枚のチョコレートクッキー。どうやら、静樹の為にくすねてきたらしい。

 自分のことを手伝いに来てくれた3人に、静樹が緩む頬を隠すように顔を手で覆う。しかし、覆いきれなかった口元は、どうしようもなく緩んでしまった。

 ――やべ、ちょっと泣きそう

 嬉しさのあまり目元が熱くなる。静樹は「スーン」と大きく鼻で息を吸うと、零れそうになった涙を飲み込み、喜びに満ちた笑顔で言った。

「三人とも、ありがとう。すげー嬉しい。助かるよ」

 素直に感謝を口にする静樹に、ツカサは「エヘヘ」と歯を見せて鼻を擦り、みのりは恥ずかしそうに麦わら帽子のつばを下げて顔を隠し、のこは「ふん」と鼻を鳴らす。

「そんな、水臭いよ静樹。私たちと静樹の仲でっしょ」

「そうです。それに……手伝いに来てたのは、私たちだけじゃないですよ」

「え、それってどういう……?」

 みのりの言葉に、静樹がキョトンとした表情を浮かべる。

 そんな静樹にみのりとツカサは顔を見合わせると、どこか嬉しそうに笑いながら「「あれを御覧下さい」」と山道の方を指差した。

「ええっ!?」

 二人の綺麗な指につられて山道に視線を流した静樹が、驚きの声を張り上げる。

 静樹の視線の先には、ジャージ姿に身を包んださらに数人の人影があった。

「三条に、須藤さん。それと、えっとぉ……。書道部の部長さんと……そのえっと誰でしたっけ」

「物凄く手伝いに来たことを後悔することを言いやがるなてめぇは。クソッ。この前の、グランドで会ったろ。ほら……ブロック崩した」

「ああ、あの時の先輩っ! でも、みんな何で?」

「ふぅ。チッ……別に。借りを返しに来ただけだ」

「わ、私は。お嬢様が山に向かわれると聞いて、身の安全を守るためにだな。な、なんだ。私を見るんじゃない、深山静樹」

「わ、すみません」

 突然顔を真っ赤にしてまくし立てる沢木部長に静樹が慌てて頭を下げる。「フンッ」とイライラした様子で鼻を鳴らす苦笑いを浮かべつつ、静樹は次に後ろの方でオロオロとしていた須藤に声を掛けた。

「須藤も手伝いに来てくれたのか」

「あ、うん。写真部のお礼に。もしかして、迷惑だった」

「いや、全然。すげー、助かるよ。ありがとィイテテテテ。今背中つねったの誰?」

「みのりっ、何やってんのさ?」

「ノコ。ダメですよ」

「ノコは何もしてない。ツカサだ」

「ははははは。モテモテだね、深山君」

 騒がしくなってきた一団に、しばらく休んで復活した大野先生が大きく出たお腹を擦りながら笑い声を上げる。

「まぁ、何にしろ。これだけいれば、何とかなるかな」

「そうですね。じゃあ、みんな頼む。先輩方も、お願いします」

「ちょと待てぇーい。深山、俺にも触れてくれよ」

「えっと、誰だっけ?」

「三条だー。つーか、さっき名前呼んだろ」

「ああ、いたの」

「どぅおーいっ!」

 三条がツッコミながら盛大にずっこける。それはもう、山の地面を抉る見事な転び方だ。

「えっと。じゃあ、一応聞くけどよ。三条、何しに来た?」

「もちろん、帽子っ娘のジャージ姿でムンムンに汗を流す姿をこのカメラに収めるために!」

「「「「お前も手伝えっ!」」」」

 キラリとカメラを構える三条に、全員が声を合わせてつっこむ。

 それはまさしく、その場にいた全員の心が一つになった瞬間だった。


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