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(4)

「なぁ、京介。困難は人を強くするって言うけど、強くなる前に困難が増えていったら、結局人って負けるんじゃないか?」

「……どうしたんだ? 何か腐ったものでも食べのか? 静樹」

 京介はズレた眼鏡を直しながら、信じられない者を見るような眼で訊ねた。

「君がそんな哲学的なことを考えるなんて……」

「どういう意味だッ……ぃつっ!」

 声を荒げて椅子から立ち上がった静樹の顔に苦悶の表情が走る。足首に走る鈍い痛み。大したこと無いと思っていたねんざは、翌日になって強烈な自己主張をし始めた。

 ただでさえ、部活組は静樹の入部を拒絶しているのだ。ねんざが分かればその弱点を突いて、ますます入部させるわけがない。

「本当に、バカというかなんというか。不良なんてほっとけばいいのに」

「……相変わらず情報が早いな」

「『情報と金の亡者』を舐めないでくれたまえ」

 得意げに鼻を鳴らす京介。『情報と金の亡者』なんて名誉なあだ名とは思えないが、本人は気に入っているようだ。

「しっかし、本当にどうするか」

 はぁ~っと、重い溜息を吐き、静樹が背中を丸めて顎を机に乗せる。ともかく、運動系は昨日までの戦歴とねんざを加味すれば絶望的。となれば、今日回る部活は、自然と文科系の部活に絞られる。しかも、期日は今日合わせて二日。それが出来なければ退学だ。

 しかも、問題はそれだけじゃない。静樹の脳裏に、昨日の保健室での一件が思い出される。

 信じられないが、静樹はツカサとも子供の頃に出逢った記憶があった。いや、出逢っただけならまだいい。問題は、ツカサも帽子を被った女の子だったということだ。

 ノコとツカサ。果たして静樹が約束した子は誰なのか? 謎は深まる一方だ。

「俺って、なかなか不幸な星の下に生まれたんだな」

「今頃気づいたかい? ……まぁ、半分は君自身の悪癖が招いてるんだけどね」

 最後の方は、ぼそっと小声で呟く京介の言葉が聞き取れず、静樹が疲れた表情を浮かべて聞き返す。

「ん? なんか言ったか?」

「べつに」

「?」

 曖昧な笑みを浮かべる京介に静樹は首を傾げたが、そうしている間にも時間は過ぎていく。

 そう。なんとか入部する部活を見つけないと、静樹に明後日からの学園ライフは訪れないのだ。幸い、足は痛むが歩けないほどじゃない。

 静樹は大きく息を吸い込むと、気だるい体の隅々まで気力をねじ込んで、気合いを込めて立ち上がった。

「おっしゃっ! いっちょ行くか。まぁ、なんとかなるだろう」

「そっ。哲学とか小難しいことを考えないで、バカみたいに真っ直ぐ進むのが一番だよ。君みたいなバカはね」

「誰がバカだよ」

「褒め言葉さ。まぁ、頑張りな。それと……チャンスっていうものは、意外と身近にあったりするんだよ」

 教室を見渡し、京介が意味深な言葉を漏らす。

 静樹はその言葉の真意を探ろうとしたが……すっぱりと諦めた。京介の言うとおり、自分はまず動く! これが一番の近道に違いない。

「んじゃ、行ってくる」

「ああ、頑張りな」

 ひらひらと手を振る京介に軽く手を上げ、静樹は追い込まれた危機など一切感じさせない溌剌とした表情で教室を後にした。


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