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家に帰った静樹は、机に向かうなり頭を悩ませていた。帰りがけに参考書や問題集を買おうと思い本屋に寄ったのだが、どこへ行っても待ちかまえていたのはスッカラカンの棚。店の人に聞いても、在庫はゼロ。静樹の手元にあるのは、高校の教科書と、前の学校で使っていた数冊の参考書だけだ。
もちろん、静樹が参考書を買えなかったのにはあるカラクリがあった。
始業式で半日だった学校の授業が終わるなり、静樹のクラスメート(ファンクラブメンバー)が学校案内と評して、時間稼ぎを行ったのだ。結果、静樹は最も不利な状況でテストの予習に臨むこととなった。
「でも、やるしかないよな」
とはいえ、参考書がないからと言って諦める静樹でもない。
静樹は手持ちの全教科の教科書を机に並べると、京介から一教科500円で買わされたテスト範囲の確認に取りかかった。
試験科目は5教科7種。現国・古典・数学A・数学Ⅰ・理科総合・社会総合・英語。八斗高校は二年から文系理系が分かれるので、内容は浅いが範囲が広い。なにせ高校一年生の学習分すべてがテスト範囲だ。
静樹は文系だった。読書が好きなので、特に現国・古典、あと暗記モノの社会は得意科目に入る。それに、数学が苦手というわけでもない。ピンポイントで理解が薄いところを潰せば、なんとかなるだろう。
問題なのは、英語を理科総合だ。英語は中学の時からからっきし。実は、前の学校では学年最低点すら記録したことのある静樹の鬼門中の鬼門だった。理科総合に至っては、あの元素周期表と元素記号がどれだけ頑張っても覚えられないのだ。
改めて範囲を確認し、静樹が勉強方法を確認する。やはり重点を置くのは英語と理科総合。次に一日勉強しないとあっという間に劣化する数学二教科は、毎日最低30分は時間を取る。次は社会総合。静樹は年代を覚えるのが苦手なので、主にそちらをカバーしつつ、暗記物の強化。現国は漢字を強化すればセフーティーラインは硬い。古典も古典単語と文法を詰めれば、十分に高得点を狙えるだろう。
静樹はけっして天才と呼ばれるような頭はもっていない。また、勉強効率を容量を上げるのもヘタだ。しかし、静樹はそれらをいつも勉強量でカバーしてきた。
ちなみに、テスト範囲の情報のおまけで京介が教えてくれたことには、今の静樹の学力は学年でいいところ六〇番。普通に考えれば、トップ10など絶望的。夢のまた夢だ。
だか、それは逆に静樹の負けん気の強さに火を付けた。
「やってやる!」
書きだした予定表に休みなどない。あとは体力と精神力の勝負だ。
「おっしゃ! まずは明日までに全教科、浅くでもいいから総見直しするぞっ!」
静樹の戦いが始まった。