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(3)

 全生徒が体育館に集められ始業式を受けている間、静樹は転校生用の控室に待たされていた。本当なら保護者もいるのかもしれないが、残念ながら両親ともに海の向こう。源じぃや綾ばぁが「一緒に行く」と言ってくれたのは嬉しかったが、残念ながら二人とも今日に限って予定が入ってしまった。

 始業式、長そうだな~

 そこそこ質のいいソファーに座りながら、静樹がふうっと息を吐く。まぁ、昨日からの走りっぱなしを考えればちょうどいい息抜きだ。この時間を満喫させてもらおう。

 その時、ふと京介の言葉が頭を過った。


「今の話しでだいたいの見当はついた」


 見当がついた、ってことはやっぱり「のっち」はあの三人の中の誰かって事になる。そうすると、京介はたったあれだけの内容で三人のうち二人の嘘を見破ったということか。

しかし逆に考えれば、静樹もすでに「のっち」が誰であるかという有力な情報を知っているということになる。

 静樹はもう一度今までのことをよく考え、数秒と経たずに髪を掻き乱した。

「あ~、わかんねぇ。京介ってすげーな」

 分析力の凄い幼馴染のことを静樹が改めて称賛する。とは言え「悪癖」は言い過ぎだ。いままで女性と付き合いらしい付き合いをしたことのない自分が、そんなに女遊びをするわけないだろう。女子からいつも「深山君て、重いよね」と言われてきたこの深山静樹が。

 静樹が灰色の学校生活を思い出していると、不意に控室のドアがノックされた。

 おかしい? スケジュールだと、まだまだ始業式は続くはずじゃ……

「はい?」

 静樹が腰を浮かせて返事をすると、控えめに開かれたドアから、どうにもオドオドとした女性教師が顔を覗かせた。

「あのぉ……深山君。校長先生が呼んでるので、ちょっと校長室に来てくれませんか?」

「あれ? でも校長先生は、今は始業式に出ているはずじゃ?」

「わかりませんよー。『校長先生からのお話』が終わると、すぐに校長室に帰っちゃって。恐い顔して『深山を呼んできなさい』って怒ったんです。ぐすん……私は何もしてないのにィ~」

「わ、ちょっと。わかりました、すぐに行きますから泣かないでください」

 鼻声になりながら目元を拭う女性教師に、静樹は慌ててドアの方に駆け寄った。どうにも、この学校は静樹に安息の時間を与えたくないらしい。

 しかし、なんで校長室に? この学校では、転校生はこういう扱いなのか?

 女性教師に案内され校長室に辿り着いた静樹は、緊張した面持ちでドアをノックすると「失礼します」と丁寧に一言断ってドアを開けた。

「なっ!?」

 校長室へ踏み込んだ静樹の思考と身体が完全に停止した。なんだ、この部屋は。写真、写真、写真。厳かな部屋の壁面全てが写真で覆い尽くされている。

 写真の被写体は主に三人に集中していた。ノコ、ツカサ、そしてみのりだ。

 こんな部屋に他の学校の校長なんて呼べば一発で通報されるだろう。

 静樹が二の句を続けられず立ち止まっていると、奥の壁に飾られたノコ、ツカサ、みのりの特大ブロマイドを眺めていた人物が、ゆっくりと振り返った。

 振り返った人物、八斗高校の校長と向かい合った静樹の表情が引きつる。見間違いかと思い、目を擦ってもう一度確認。やっぱり、見間違いじゃない。

 堂々とした風貌にチャーミングなちょび髭を生やした校長の額には、まんまるの真っ赤な痣が出来ていた。

 そう、ちょうど昨日静樹を遅い、最後には自分の杖で混沌したタイツじじぃと同じその場所に。

 いや、待て。冷静になるんだ静樹。見かけの先入観で判断してはいけない。校長も、たまたま出がけに近所の悪ガキからスーパーボールの襲撃を受けたのかもしれない。はたまた、鉄パイプが頭上から落下してきた少女を助けるための名誉の負傷かもしれない。

 確証もなく決めつけるには、まだはや……

「お初にお目に掛かる、深山静樹転校生。ワシがこの八斗高校校長、大道寺熊之助だいどうじ・くまのすけである」

 コイツだぁあああぁああああーっ!

 0コンマ1秒で臨戦態勢を整える静樹に、大道寺校長は「まぁ、そう身構えるな」と余裕を持った仕草でちょび髭を撫ぜた。

「時に、深山転校生。なぜここに呼ばれたか、わかるかな?」

「さ、っぱり、です」

「ふふ、では教えてしんぜよう。深山転校生。貴殿は我が八斗高校の校則に違反したのである」

 校則違反? 昨日の夜襲を迎撃したことか?

「いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ。昨日のあれは、正当防衛……」

「昨日のこととは何であるか? 私と貴殿は、今この場が初対面であるぞ」

 よくもまぁ、ぬけぬけと。

 でも、昨日のことじゃないとなると、校則違反とはいったい? 今朝の壁登りも、校則じゃ禁止されていなかったはず

「身に覚えがまったくありません」

「シラを切る気であるか」

「だから、身に覚えがないんですって。校則違反て、いったい俺は何に違反したんですか?」

「ええい、分からないか。深山転校生。貴殿が違反した校則、それは……不純異性交遊であるっ!」

「不純異性交遊うぅ? 俺が? いつ? 誰と?」

 目をぱちくりさせて反論する静樹に、大道寺校長は血涙を流しながら机を叩いた。

「とぼけるでない。雷道乃子、野々市ツカサ、野永みのりの三人である。いったいぜんたい何なのであるか。いきなり転校してきて、我が校の帽子っ子アイドル三人を手中に収めるなどとっ。言わせないである。ハットトリックなんて、絶対に言わせないのであるっ!」

 *ハットトリック……サッカーで一人の選手が一試合で三点以上得点すること(Wikipediaより)

「うむ? 今、我ながら凄く上手いこと言ったであるな。まだまだ若者には負けないである」

「いや、知りませんから。そんなことより。不純異性交遊って『不健全性的行為』、つまり社会的責任能力のない学生が適切な場合において性的行為に及ぶことでしょ。俺はそんなことしてませんから。断じて」

「黙るのである。ワシ的ルールでは、あの三人に好意を持たれる時点で不純異性交遊である」

「んな、ムチャクチャナ」

「ワシがこの学校の校長であり、校則である。文句あるのであるか?」

 頬に紅い筋を作りながら凄んでくる大道寺校長に、深山は「んぐ」と押し黙る。校則と言われてしまえばしょうがない。ルールに屈してしまうのは、曲がった道を歩かないという男を目指す静樹の悲しい性だった。

 だからと言って、このままでは納得いかない。校則では、不純異性交遊は一発退学だ。

「待ってください。チャンスを、チャンスを下さい」

 食い下がる静樹に、校長が「ふむぅ」と指先で髭をなぞる。本当ならば今この場で我が心のアイドル三人のもとから引き離したいところだが、さすがにこれだけの理由では教育委員会が黙ってはいない。

 こんな変態校長であるが、やはり校長である。しかも、その手腕は他校の校長からも一目置かれるほどなのだ。

 大道寺校長はすぐに考えた。静樹が納得ししない退学は、教育委員会の波紋を呼ぶ。この学校全体に迷惑が及ぶとも限らない。そうなれば、ことの問題は学校の教員や生徒全体まで及ぶ可能性がある。

 何かいい手はないか?

 大道寺校長が頭を捻っていると、不意に静樹の情報を売りこんできた、ある生徒の言葉が頭に浮かんだ。


「静樹は根が単純で真面目な性格ですから、真っ向勝負と見せかけて不意打ちするのが一番ですよ」


 ちょび髭の下の口が三日月を描く。コレだっ!

「では、深山転校生。転校試験というのはどうであるか?」

「転校試験?」

 大道寺校長は、頭を下げる静樹に提案した。

「そうである。今からお主に三つの課題を出す。それをすべてクリアできたなら、お主の在籍を認めよう」

「本当ですかっ!」

「うむ。男に二言は無いのである。ただし……」

「はい。達成できなかったときは、潔く身を引きます」

 静樹は大道寺校長の提案を受けた。

 よく考えていれば理不尽極まりない話しなのだが……。すでに静樹の男気スイッチが入ってしまっていた

「よし、よく言ったのである。では、第一の課題を与えよう。心の準備はいいな」

「あ、はい」

「よろしい。第一の課題。それはズバリ学力である。1週間後の新学期おめでとうテストで、学年トップ10にはいること。よいな」

「と、トップ10?」

 大道寺校長の口にした課題に、静樹は思わず絶句した。八斗高校の二年生の総人数は約120人。半分以上や、30番以上ならともかく、トップ10というのはいくらなんでも厳しすぎる。

 けれど、静樹はすでに「受ける」と言ってしまった。大道寺校長ではないが、男に二言は無い。

 なんとかするっきゃないな。

「分かりました、今から死ぬ気で勉強します」

「ふむ、頑張るのである。次の課題は、第一の課題を突破した時に教えるのである」

「はい、わかりました」

 こうして、静樹の転校を左右する運命の三番勝負の火ぶたが切って落とされたのだった。


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