入部とふたりの目標
今回は一番書きたかった作品を遂に書き始める事にしました。
俺、木田奏太は家の近くの高校に入学した。
その名は川西北摂高校。
そして入学初日、俺はとある教室に向かっていた。
「ここか」
ガラガラとドアを開ける。
「失礼します」
俺はドア上に第1音楽室と掲げられた教室に入る。
室内はアナが無数に空いた防音の部屋で先輩方がこちらを向いて合奏隊形なっていて、ドア側の壁に並べられている椅子の一つに俺は座る。
スッ!
同時に顧問の先生が手を振り上げて演奏が始まった。演奏されているのは最近のポップス曲が中心となっている。
パチパチパチ
最後の1音が終わった後、俺達は一斉に拍手した。
「それでは、今から楽器の体験を行います。金管楽器はここ第1音楽室、木管は出て直ぐの1年4組の教室です」
顧問の先生は説明すると音楽室を出ていく。
先輩達は金管楽器の人達はそのまま音楽室で準備を始め、木管楽器の人達は音楽室を出ていく。
~数分後~
準備が終わった音楽室は窓側がホルンとクラリネット、教室の廊下側はトロンボーンとユーフォニアム、チューバ、コントラバスの体験をしていた。
「あのーすみません」
俺がまず向かったのはホルンだ。
なぜホルンに向かったかと言うとホルンは昔、母がやっていた楽器であり、俺が中学で出来なかった……憧れの楽器なのだ。
「はい、体験かな?」
「そうです]
返事をすると女の先輩達が準備を始める。
「君、中学の時の部活は?」
「吹部です。ただホルンは出来なくて……ユーフォニアムだったんですけど」
俺は苦笑する。
「へぇ。そうなんだ!まぁ、とりあえず座って」
俺が座ると先輩がホルンを渡してくれる。
「まずは持ってきたタオルを……って分かるよね」
先輩はクスッと笑う。
「は、はい」
俺はリュックからタオルを取り出すと膝に引く。
ちなみに理由としては吹くときに入るツバが出てくるからだ。
「ホルンについて説明するからまずは膝に乗せて…で乗せたら左手の小指は指掛けに置いて、親指は第4レバーに置いて、右手は手の平を自分側に向けて軽く曲げてベルに差し込んで……」
先輩はおぼつかない俺の手を取ると正しい位置に持っていく。
「はい、できた」
足に感じる重みや楽器の冷たさが自分は今楽器を触っているんだと実感させてくれる。
「取り敢えずマッピに息を入れて吹いてみて。あ、マッピって言うのはマウスピースの事ね。あと別に音が出なくても大丈夫だから」
「は、はい!」
俺は軽く深呼吸をすると指2本分くらいのサイズのホルンのマッピに息を吹き込む。ちなみにマウスピースはマッピと呼ぶ。
「はぁ、ふう〜」
俺は深呼吸をするとマッピに息を吹き込む。
ブ…ブォーン
「鳴った!」
最初が少し途切れたがキッチリ音が鳴っていた。
「おぉ!上手い!ホルンは初心者なんだよね?」
「はい」
中学の時は少し触れただけで本格的に吹いたのはこれが初めてだ。
「流石はユーフォやってただけあるねぇ。マッピは完全にマスターしてるし」
先輩が嬉しそうにこちらを見ていた。
それから数分吹いた後、ホルンを終えて、トロンボーンやトランペットを試して最後の楽器に向かっていた。
「お、ユーフォやる?」
そう。ユーフォニアムだ。
「は、はい。お願いします」
ユーフォニアムはチューバを小さくしたと言う例えが一番分かりやすいだろう。音は中低音な感じで、低めの音から高めの音まで様々なパートを担当する。
「じゃあ、取り敢えず座って」
「中学の時は吹部だったの?」
俺が席に座ると先輩は興味津々そうに聞いてくる。
「はい。ユーフォやってました」
「おぉ!経験者なんだ!」
先輩は声を弾ませる。
「でもやっぱり低音パートは余り人気無いんですね……」
「アハハ……そうなんだよね」
先輩は周りを見渡す。
さっきまでのホルンやトランペットは4つくらい椅子があったが、やはり低音パートは人気があまり無いからかユーフォやチューバ、コンバスや一対一でやっているようだ。
「とりあえず鳴らしてみてよ」
先輩は椅子の横にベルを下にして置かれていたユーフォを持ち上げる。
「これがユーフォニアム……ってまぁ分かるよね」
それは銀色のユーフォニアム。
銀色のユーフォニアムと言えば俺が吹部に興味を持つキッカケになったアニメで主人公の先輩が吹いていた私物のユーフォと同じだ。
俺はタオルを膝に引くとユーフォを受け取る。
「一応説明すると、まずこっちから第一ピストン、第二ピストン、第三ピストン、第四ピストンで、下の動く…ここから溜まったツバが出てくるから。ここの下にタオルを引くって感じかな」
先輩は指を差しながら丁寧に説明してくれる。
「じゃ、吹いてみて」
「分かりました」
くぽん…くぽん…くぽん…くぽん
4つのピストンを押し込んで確認する。
ふっ……
深呼吸をして俺は息を吹き込む
ドレミファソラシド
丁寧に1音1音を区切りながら吹く。
良く響いて温かいユーフォの音色が自分の息に合わせて鳴る。
「おぉ上手い!流石は中学でやってただけあるよ」
「ありがとうございます」
こうして体験入部は終わった。
~週末~
やっと高校にも慣れてきた初めての週末に体験入部を終えて新入部員の初めての練習が始まる。
週末の練習なので部員は全員ジャージ姿で体験入部のあの日とは全く雰囲気が違う。
俺が音楽室に着いてしばらくすると部長と副部長が前に出てきて俺は思わず目を見張った。それもそのはずで部長がポニーテールをしてはいるがあのユーフォの先輩だった。
「おはようございます」
「「おはようございます」」
部員全員で挨拶をする。
「今日は初めての1年生も居るので自己紹介をします。私は部長兼低音パートリーダーの加茂友香です。ユーフォを担当してます。それでこっちに居るのが……」
「副部長の井上真緒です。クラを担当してます。よろしくお願いします」
「同じ副部長の木下健です。サックスを担当してます。よ、よろしく」
部長の言葉から繋ぐように左右に立っていた二人の副部長が自己紹介をしていた。
「何か質問とかある時は部長の私か副部長二人の合わせて3人の幹部か、そっちに立っている顧問の北澤先生に聞いてください」
部長はサクサクと説明していく。
「それでは今年の目標を決めます。昨年まではコンクールに出る人と演奏会などに出る人で別々にしていましたが、今年からは部全体で一つの目標にする事になりました」
「何か目標がこれが良いと言う方はいますか?」
するとストレートな黒髪と丸縁の眼鏡が特徴な女の子が手を挙げる。
「はい」
「去年の目標は何だったんですか?」
「えーと、去年はコンクール組は全国大会金賞、演奏会組は丁寧な演奏が目標でした」
「だったら昨年の2つの目標で多数決をしたらどうでしょうか?」
部長は少し考える素振りをする。
「分かりました。では丁寧な演奏が良い人」
「…」
誰からも手は上がらない。
「全国大会金賞が良い人」
サッサッサッ
全国が手を挙げた。
それもそのはずで、ここ川北も俺がいた中学も去年ダメ金だったからだ。
さらにここの高校の生徒の殆どは俺が居た中学からの生徒だ。
ちなみにダメ金は代表校…つまり全国大会等に出場出来ない金賞の事だ。
その悔しさは中学でも高校でも変わらない。
「はい。今年の目標は全国大会金賞で行きます」
「「はい」」
「それでは2・3年生は練習を始めてください。1年生は北澤先生の指示を聞いてください」
そう言うと部長と副部長を含めた先輩達は準備を始めた。
「えー私が顧問の北澤由紀恵だ。これからよろしく頼む。まずは各担当楽器を発表する。オーボエ、安田美衣奈……」
俺は緊張していた。
今度こそ憧れていたホルンを出来るのだろうか。その答えは直ぐに分かった。
「ユーフォニアム、木田奏、宮崎陽菜」
「「はい」」
俺と隣に座るお嬢様結びの髪で背は俺と同じくらい女の子が同時に返事をする。
その一方中学から変わらずユーフォになった事に安堵する反面、ホルンをやってみたかったと言う思いもある。
すると呼ばれた名前に俺は驚いた。
「チューバ、加藤ひかる、コンバス、川近さら」
「はい!」「はい」
それは中学からの同級生だったからなのだ。
(2人もここだったのか)
同じ学校だった事に驚きつつ前を向く。
「以上が担当楽器だ。各パートの練習教室に移動しろ」
「「はい」」
俺達1年生はぞろぞろと移動を始めた。
「えーさっき全体の自己紹介でも言いましたが、部長兼ここ低音パートのパートリーダーの加茂友香です。」
メンバー全員で拍手する。
「じゃあみんなも自己紹介しようか…じゃあユーフォから」
(俺達からかよ)
「えー俺は木田奏太です。ユーフォは中学からやってます。よろしくお願いします」
俺が座ると隣に座って居た女の子が立ち上がる。
「わ、私は宮崎陽菜…です。中学からユーフォやってます……よ、よろしくお願いします…うぅ」
パチパチ
宮崎さんは人見知りなのかかなり小さい声で顔を赤くしながら自己紹介をしていた。
「次、チューバいける?」
「はい。私は三島遥香、えーとチューバは高校から始めました。よろしくお願いします」
「加藤ひかるです。チューバは中学からやってます。よろしくお願いします」
「えーと、俺は松浦誠也、えーチューバは中学からやってます。よろしくお願いします」
低音パートは俺と松浦先輩しか男が居ない……。まぁ吹部自体男は少ないのだが。
「最後にコンバス良い?」
「はい…!私、川近さらって言います。えーとコンバスは中学からやってます。よろしくお願いします」
川近さんは中学の時もそうだったが背が低いので、コンバスに持たれているように見える。ただ制服のブレザーはズボンタイプなので短い髪とも相まって男の子にも見えなくは無い……かも?
「自己紹介した所で、とりあえず練習用の譜面を配るね」
加茂先輩は俺達1年生に譜面を配る。
譜面にはコラールAと書かれている。
「基本練習はこの譜面を使うからキッチリ入れといてね」
先輩はそれだけ言うと時計を見る。
「じゃ、とりあえずまずは楽器を出そうか」
俺達は持ってきていた楽器ケースを開けた。
~数時間後~
「疲れた〜」
俺は音楽室を出て直ぐの下駄箱で靴を取り出す。
「おお!奏太君じゃん」
そう声を掛けてくれたのは幼馴染の山本 乃々花ちゃんだった。
「一緒に帰ろっか」
「う、うん」
俺と山本さんは一緒に学校を出た。
ガタンゴトン
『本日も能勢電車をご利用頂きましてありがとうございます、この電車は普通日生中央行きです。次は……』
俺と山本さんは隣同士で電車に揺られていた。
「奏太君は何処の部活に入ったの?」
「吹部だよ」
「私は合唱部だよ」
山本さんは少し驚いたように言う。
「まさか同じ音楽系の部活だなんて奇遇だね」
「確かに。」
俺は内心でドキドキしながら答える。
そう、俺は山本さんの事が好きなのだ。
「こっちは全国大会金賞が目標になって凄い大変だよ。まぁやりがいはありそうだけど」
俺は気を紛らわすように告げる。
「私の方も全国大会金賞が目標だから大変だよ、もっと声をだせーって」
そして山本さんが告げたのは思いもよらぬ提案だった。
「だったらさ、二人で一緒に全国大会で金賞を取ろうよ」
「それって……吹部と合唱部で、って事?」
「うん!」
そう話す彼女の目は夕陽に照らされてキラキラしていた。
最後までお読み頂きありがとうございます
今作は筆者である自分の地元、兵庫県の川西市を舞台にしています。(仲川さんちも同じ)そして今作は吹奏楽部を描くと言う点では響け!ユーフォニアムを参考にしていますが、今まで程パロディなどは無い予定です。そしてストーリーやキャラは実話を元にしている部分が多いです。これからはガールズバンド同好会、静かな花は君と咲く、オタカノと共によろしくお願いします。




