第53話 船の上で
俺は地下室へ行くと爺ちゃんが声をかけて来た。
「俊樹、連絡はあったか?」
「あー坂口さんだよな、電話で話しただけだが連絡はもらったよ。法人を作って置いてくれと言われたから、香織に任そうと思ってる」
「そうか、何故俊樹の名前で作らないんじゃ?」
「俺はニートである事にこだわりがあるからな」
「良く解らんが、それじゃと作家活動も出来んのじゃないか?」
「あ……まぁあれだ作家はテネブルで俊樹じゃ無いからセーフって事で」
「坂口の坊主は竜馬が宿っている時以外は、竜馬に指示された事を実行するだけの存在だから心配はいらぬ。問題は竜馬自身が俊樹に興味を示した時だが、その時は必ず、わしに伝えるんじゃぞ? おそらく今の俊樹では対応できんからな」
「解ったよ爺ちゃん。でもその三人は扉を通る事は出来るんだろ?」
「まぁ出来るかできないかで言えば出来るが、果たして向こうで行動が出来るのかと言う話であれば運次第じゃ」
「それはなんか特別な条件とかあるって事なのかい?」
「そうじゃな、今は俊樹が知る必要もないじゃろう」
「取り敢えずは行って来るな。今回は書きだめが七日分はあるから、恐らく一週間は戻ってこないと思う。香織は週二回は戻るから頼むな」
「そういえば、テネブル用の防具は何か作って置いた方が良いか?」
「そうだな、戦闘時だけ装着する急所をガードできる程度の物があれば頼むぜ」
「解った。作って置こう」
◇◆◇◆
そうして俺は異世界へと渡り、香織に念話して商隊へ合流した。
「って凄いな! この景色」
転移門をくぐり抜けた先は三百六十度が見渡す限り海しかない大海原だった。
既に出航をしていた船の甲板の上へと降り立っていた。
「お帰り俊樹兄ちゃん。何か変わった事はあった?」
「あー隣に売り物件で倉庫があったの解るかな?」
「なんかあったね」
「車の車庫代わりに使おうと思ってさ、買おうとして話しに行ったら持ち主が同級生だったから半分のスペースだけ借りる事になった。車とバイクは既に倉庫に入れて、鍵はリビングのテーブルの上だ」
「解ったよ。でも隣の倉庫って結構広いよね?」
「まぁな元は整備工場だったらしいぞ」
「そうなんだね」
「もう出航してたんだな」
「うんサンチェスさんが心配してたから、顔出しておいた方が良いよ?」
「解った」
リュミエルに案内されて、サンチェスさんとマリア達が居る船室へと向かった。
この船は、馬車のまま乗り入れる事が出来るほどの大型船で、日本で言うフェリーの様な船だった。
全長は百メートル近くある木造船だが、魔石動力による快適な船旅だ。
サンチェスさんに「戻って来たぞ」
って話し掛けたけど、当然「ニャニャニャン」としか聞こえないぜ。
「テネブルお帰り、明後日の朝まではずっと船旅になるから、ゆっくりしててね」
「うん、リュミエルの用意した下着はみんな気に入ってくれたかな?」
「みんな大喜びだったよ。でもなんだか露出してる部分が多いから、ちょっと恥ずかしいよね」
「写真は撮ってくれた?」
「うん結構撮ったけど、リュミエルがチェックして半分くらいは消しちゃったよ?」
「え……そうなんだ。残念……きっと消した写真の方にお宝満載だったはずなのに……」
リュミエルを見ると、ちょっと勝ち誇った様な表情で見ていた。
「目の毒になりそうなのは駄目なんだからね!」
「猫なんだから興奮したりしないぞ?」
「普通に向こうで加工するときは、エロおやじに変貌するでしょ?」
「ひでぇな」
その後は快適な船旅を楽しんでいたがチェダーさん達を甲板で見かけたので、マリアに頼んで話し掛けて貰った。
「チェダーさん、テネブルが装備の事とかを聞きたいらしくて、ちょっとお話良いですか?」
「ああ構わない。どんなことを聞きたいんだ?」
「装備って装着するだけで攻撃力や防御力が上がったりするのって、あるんですか?」
「勿論あるよ。魔装防具、魔装武器って言われるアイテムで。術式を組み込んだ道具に魔石をはめ込むか、自分の持つ魔力を流し込みながら使うんだ」
「普通に手に入るんですか?」
「かなり高いけど、値段は性能次第でピンキリだね。例えば俺が持ってる盾は魔装防具だ。これは防御力+30とシールドバッシュのスキルが付随してて千二百万ゴールドだった。王都のオークションで手に入れたんだ」
「たけぇ」って思ったぜ。
それなら俺のミスリルエッジ何て値段付けたら一体いくらするのか想像もつかないな。
「結構みんな使ってるんですか?」
「そうだなぁ安くは無いから、Bランク以上になれば頑張って手に入れる人が多いって感じだな」
ふむふむ、ついでに作れる方法も聞いておこうかな?
「魔装具の作り方は難しいんですか?」
「錬金術師と付与術師が必要だから簡単ではないが、才能を認められて弟子入りできれば十年程で職人になれるらしいぞ。まぁ殆どの錬金術師は薬師になるみたいだけどな」
「ありがとうございます。チェダーさんとても参考になりました。ってテネブルが言ってます」
「ああ。テネブルにはいつも楽させてもらってるからお安い御用だ」
「ありがとう」って言ったけど当然「ニャァン」としか聞こえないけどな。
◇◆◇◆
「ねぇテネブル、何だか波が高くなってきたね」
「ああそうだな」
夕暮れ時になって来ると、海が今までの穏やかな状態から一変して、海面の色も鮮やかな青色から、暗い色合いに変わっていた。
それと同時に波も高くなり、船の揺れも激しくなる。
リュミエルは揺れに弱かったみたいで、さっきからグロッキー気味で船室でへばっていた。
「香織、海面が落ち着くまで戻っておくか?」
「あ、うーん。そうだねこのままこうして居ても何の役にも立てないし、一回向こうに戻って来るよ。二十四時間後でもまだ船の中だし、向こうでお弁当とか下着とか追加で仕入れておくね」
「うん、車はどっちでも好きな方使って良いぞ。あ、それとな会社の設立って解るか? 適当な事務所を借りてそこを本社所在地にした法人を作って置いて欲しいんだけど?」
「解ったよ。取り敢えず司法書士事務所に電話して聞いとくね。社長って言うか代表は俊樹兄ちゃんでいいの?」
「いや、香織の名前にしててくれ。俺より香織の方が社交的だし、もし何かで人前に出る事が有った時、俺は表に出ない方が良いと思うから」
「ふーん、まぁいいけど。あ……また来たウェップ……」
「早く戻れ、あ、取り敢えず当面の活動資金渡しとくな。一千万でいいか? 一応領収は集めといてくれな。じゃぁまた明日」
そうして香織は日本へと戻った。
香織を見送った後、船の揺れで不安そうなマリアに抱かれて、船室で待機していると、船の中が騒がしくなってきた。
「冒険者の方々力を貸していただきませんかああ?」
声と共に船員が慌ただしく客室の前を走っていた。
窓の外を覗くと雨も降り始めている。
単純に天気が崩れただけなら冒険者に声を掛けたりしないだろう。
「マリア、行くか?」
「うん、出来る事があるなら手伝いたいと思うけど、一応今はサンチェスさんの護衛任務中だから、サンチェスさんに許可を貰ってからだね」
俺は日本製のブラジャーのお陰で更に膨らみが大きく感じるマリアの胸に挟まれるように抱かれたまま、サンチェスさんの船室へと向かった。




