第八話
特別クラスの教室は、学園の一番奥にあった。
薄暗い廊下。
窓のない石壁。
――正直、隔離施設感がすごい。
「うわ、絶対ヤバい場所だろここ」
そう言ったのは、教室に入るなり後ろを振り返った少年だった。
赤茶色の髪に、やたら明るい声。
「なあなあ、新入り?」
いきなり距離が近い。
「はい?」
「君も“変なの判定”されたクチ?」
「……多分」
「だよな!
俺ルーカス! よろしく!」
よろしく、で済ませていい場所なのか。
⸻
教室には、僕を含めて六人。
全員、服装は制服なのに、
雰囲気が微妙にバラバラだ。
「席、適当でいいぞー」
そう言って、黒髪の少女が窓際(窓はない)に座る。
「このクラス、席順とか気にする教師いないから」
「……そうなんだ」
「気にした結果、天井落ちた人いるし」
怖いことを軽く言うな。
⸻
「おーい、揃ってるか」
教師が入ってきた。
年配だが、目つきは鋭い。
「私はヴァルター。
このクラスを担当する」
一瞬で空気が締まる。
……が。
「堅いなぁ」
ルーカスが小声で言う。
「初日だぞ?」
誰も注意しない。
⸻
「このクラスはな」
ヴァルターは淡々と続ける。
「優秀な者の集まりではない」
「問題児の集まりだ」
「だが――」
視線が、こちらに向く。
「世界を壊しかねない連中でもある」
……重い。
⸻
「まずは一人、前に出ろ」
指されたのは、僕だった。
「え、いきなり?」
「お、主役じゃん」
「がんばれー」
なんで応援ムードなんだ。
⸻
教室の中央に立つ。
「魔力を出そうとするな」
「ただ、立て」
……それだけ?
深呼吸した瞬間。
視界が、一瞬だけ揺れた。
石壁が、
別の材質に見える。
「……っ」
床に、淡い光が滲む。
「おおー」
「今日も出た」
「綺麗じゃん」
リアクションが軽い。
⸻
ヴァルターが呟く。
「……完全封鎖型」
「出ていない。
だが、確実に“在る”」
教室が一瞬静まる。
が。
「なあそれ、
要するに“ヤバい”って意味?」
ルーカスが聞いた。
「簡単に言うな」
「無理」
⸻
「説明しよう」
ヴァルターは溜息をついた。
「魔力と同一化している状態だ」
「君は魔法を“使う側”ではない」
「魔法の内側にいる」
「へぇー」
「すげー」
「つまり?」
「爆発しやすい?」
やめて。
⸻
そのとき。
廊下の奥に、
一瞬だけ気配を感じた。
銀色の髪。
――姉さん?
振り向いたときには、もういない。
胸の奥が、きゅっとなる。
⸻
「今日はここまで」
ヴァルターが言う。
「次回から訓練に入る」
「言っておくが」
彼は、僕を見る。
「君は、この国の前提を壊しかねない」
「自覚しろ」
重い言葉だった。
⸻
教室を出た後。
ルーカスが肩を組んできた。
「なあ」
「大変そうだけどさ」
「まあ、死ななきゃ大丈夫だろ」
軽すぎる。
「基準、それなんだ……」
「このクラス、
だいたいそうだから」
皆、笑っている。
不思議と、
少しだけ救われた。
⸻
その夜。
塔の上で、姉は呟いた。
「……思ったより、居場所はできそうね」
それが、
安心なのか、
不安なのか。
彼女自身にも、まだ分からなかった。




