第四話
朝の鐘の音で目が覚めた。
重く、澄んだ音。
窓の外から、街全体に広がっていく。
「……学校のチャイムみたいだな」
そう思った自分に、少し苦笑する。
異世界に来てまで、
結局“学校”に通うことになるなんて。
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魔法学園。
白い石で造られた校舎は、街の中でもひときわ目立っていた。
複数の塔が連なり、上空には淡い光の結界が張られている。
「ここが……」
「ええ。
この国の魔法使いは、ほぼ全員ここを卒業します」
ミーシャさんの声は、いつもより少しだけ固い。
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正門をくぐると、視線が集まった。
制服を着た生徒たち。
ローブ姿の教師らしき人影。
その中で、
何人かが、はっきりと僕を見ている。
ひそひそと、声。
「……あれが?」
「外から来たって……」
「本当に、魔力が……」
聞こえないふりをするしかなかった。
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入学手続きは、形式的だった。
名前。
出身。
年齢。
そして、最後に聞かれた。
「魔力の扱いについて」
「……分かりません」
正直に答えると、受付の女性は一瞬だけ目を伏せた。
「では、特別クラスに」
「特別、ですか?」
「ええ」
それ以上、説明はなかった。
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案内された教室は、校舎の奥。
窓が少なく、静かな場所だった。
中に入ると、すでに数人の生徒が座っている。
誰も、話しかけてこない。
ただ、
一人の少女が、ちらりと僕を見て、すぐに目を逸らした。
――知っている目。
理由は分からない。
でも、そう感じた。
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最初の授業は、座学だった。
「魔法とは、意思と記憶の重なりである」
教師の声は淡々としている。
「術式とは、失われた記憶を再現するための道具だ」
黒板に描かれる、複雑な円と線。
それを見た瞬間、
頭の奥が、微かに疼いた。
「……」
分かる。
意味じゃない。
“形”が。
理由は不明なのに、
懐かしさだけが、はっきりと残る。
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休み時間。
廊下に出ると、ミーシャさんが待っていた。
「問題は?」
「……ない、ですけど」
「そう」
彼女は少し迷ってから、言った。
「今日は、学園内を自由に歩いて構いません」
「え?」
「……迷わないでくださいね」
それだけ言って、去っていった。
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中庭に出る。
噴水と、花壇。
風に揺れる木々。
その中心で、誰かが立っていた。
背の高い女性。
銀色に近い髪。
ローブの背中越しでも、分かる存在感。
心臓が、跳ねた。
――知っている。
名前も、顔も、
思い出せないのに。
女性は振り返らない。
ただ、静かに言った。
「……まだ、早いわ」
誰に向けた言葉か分からない。
でも、確実に――
僕の胸に、突き刺さった。
次の瞬間、彼女は歩き去った。
追いかける前に、
人波に紛れて見えなくなる。
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その日の夜。
寮のベッドで、天井を見つめながら思った。
この学園には、
僕に関係する“何か”がある。
そしてそれは、
優しいものばかりじゃない。
鐘の音が、遠くで鳴る。
魔法学園での生活は、
こうして、静かに始まった




