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魔力ゼロの魔法使いは、特別クラスの異端者  作者: 三科異邦


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第十一話

その朝、学園はいつもより静かだった。


鐘は鳴っている。

生徒たちは歩いている。

噴水も、空に浮かぶ結界も、きちんと動いている。


それなのに、どこかが欠けているような気がした。


「……なあ」


俺が足を止めると、レオンが不思議そうに振り返った。


「どうした?」


「今日、変じゃないか」


「変? どこが?」


レオンは周囲を見回し、肩をすくめる。


「いつも通りだろ」


その言葉を聞いて、はっきりした。

この違和感は、俺にしか見えていない。


魔力の流れが、薄い。

正確に言えば、俺の周囲だけが“軽い”。


ミレイは何も言わず、少し距離を取って歩いていた。

視線が時折こちらに向く。

心配しているのが分かる。


昼前、補助官に呼び止められた。


声は淡々としていて、理由も告げない。

それだけで十分だった。


地下の資料室は、空気が違った。

魔力の気配が、ほとんどない。

俺が息をしている音が、やけに大きく聞こえる。


机の向こうに座っていたのは、ミーシャ・ハロルドだった。


黒衣。

監査官の顔。


姉ではない。

少なくとも、今は。


「座ってください」


促されるまま、椅子に腰を下ろす。


「あなたに、見せなければならない記録があります」


机の上に置かれた水晶板が、淡く光った。


映ったのは、昨日歩いた街角だった。

パン屋の前。

俺が通り過ぎる瞬間、街灯の光がわずかに遅れて灯る。


「……こんなの、気づかなかった」


「当然です」


彼女は画面から目を離さない。


「あなた以外は、誰も気づいていません」


次の映像では、学園の結界が映し出される。

俺が近づいた瞬間、結界が薄くなり、消える。


破壊でも解除でもない。

まるで、必要がなくなったものを片付けるように。


喉が、ひくりと鳴った。


「俺は、何もしてない」


「分かっています」


その返事が、妙に優しかった。


「あなたは、意図せず世界に干渉しています」


彼女は説明を続ける。


この国は魔法を前提に成り立っていること。

街も、防衛も、生活も、すべてが魔法に支えられていること。


「あなたが触れると、その前提が揺らぐ」


胸の奥が、冷たくなる。


「それって……」


「はい」


言葉を切らずに、彼女は続けた。


「あなたは、世界の“正しさ”を壊せます」


しばらく、何も考えられなかった。


誰も傷つけていない。

壊すつもりもない。


それでも、映像は嘘をついていない。


「……俺がここにいるだけで、誰かの日常が壊れてる?」


沈黙が、答えだった。


「今は、小さな揺らぎです」


「でも、成長すれば?」


「街一つ、国一つの前提が消える可能性があります」


言葉が、重い。


彼女は初めて俺を見た。

一瞬だけ。

監査官ではなく、姉の目だった。


「過去編纂局では、あなたのような存在を

魔法体系外存在と呼びます」


聞き慣れない言葉なのに、妙にしっくりきた。


「監視されてるのも、特別クラスなのも……」


「すべて、そのためです」


俺は、椅子の背に深くもたれた。


レオンの笑顔。

ミレイの真剣な横顔。

街で見た、何でもない日常。


全部が、俺の存在で揺らいでいる。


「……俺、ここにいていいのか」


初めて、口に出した。


逃げたかったわけじゃない。

ただ、知ってしまった以上、聞かずにはいられなかった。


「あなたが悪いわけではありません」


彼女は、そう言った。


「でも、無自覚でいることは、危険です」


その言葉に、俺はうなずくしかなかった。


「だから、知る必要があった」


「俺は……」


言葉を探す。


「自分が壊せるものを知った上で、

ここにいる」


それが、今出せる精一杯の答えだった。


彼女は、わずかに目を伏せた。


「それで十分です」


それは、監査官の言葉であり、

姉の願いでもあった。


資料室を出ると、

地上の光がやけに眩しかった。


学園は、相変わらず平和だ。

誰も、俺の内側で起きた変化に気づいていない。


魔力ゼロの魔法使いは、この日初めて知った。


自分が弱いのではなく、

世界の前提に触れてしまう存在だということを。


そして、

選ばなければならない時が、すでに始まっていることを。

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