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第5話「沈黙の招待状」

【夜・優斗の部屋】


机の上。

スマホの画面に表示されているメール。


 『差出人不明<no-reply@aef-lab.org>』

 『件名:LISTENER-01へ――再会の準備はできたか?』


本文はまだ開かれていない。

画面の光だけが、暗い部屋の中でユウトの顔を照らしている。


    優斗(心の声)

「“再会”……?

 誰と。

 いつ、どこで会ったことがあるっていうんだ。」


ベッドの上では、

イヤホンと小さなスピーカーが放り出されたまま。

どちらも、沈黙したまま動かない。


優斗、

ためらいながらも、

メールをタップして開く。


画面に本文が現れる。


 『LISTENER-01へ。


  世界はすでに、

  君の“沈黙”に慣れ始めている。


  今なら、

  “音の在り方”を

  作り替えることができる。


  前回のテストでは、

  君は“世界中の音”に耐えきれなかった。

  だから今回は、

  “世界中の沈黙”から始めた。


  そろそろ、

  次の段階に行こう。


  会いたければ、

  丘の上の“旧観測塔”へ来るといい。

  LISTENERSと一緒でも構わない。


  ――耳を澄ませている者たちへ』


送信元の署名欄には

ただ一言だけ。


 『AEF:Acoustic Energy Foundation』


    優斗(心の声)

「音響エネルギー財団……

 あの施設の“母体”……?」


背筋にぞくりとした寒気が走る。

同時に、

どこかで“待っていた答えが来た”ような感覚もある。


そのとき、

スマホが再び振動する。


画面には、

グループチャット「LISTENERS」の通知。


 『健:

  さっき、また“一瞬”だけ音っぽいのした。

  廊下で誰かに名前呼ばれた感じ。

  気のせいかもだけど、一応共有。』


続いて、もう一通。


 『澪:

  窓の外で、

  “チリン”って光が揺れた。

  たぶん風鈴。

  音は……

  “聞こえた気がする”だけ。』


さらに、別の通知。


 『葉山:

  みんなに話したいことがあります。

  明日、放課後に理科準備室集合。

  少し、危ない話になるかもしれない。』


優斗、

メールの画面と、

チャットの画面を交互に見比べる。


    優斗(心の声)

「呼びかけてる“何か”は、

 俺だけにじゃない。

 LISTENERS全員に、

 少しずつ手を伸ばしてきてる。」


彼は、

メールの本文をスクロールし、

最後の一文をもう一度見つめる。


 『LISTENERSと一緒でも構わない。』


    優斗(心の声)

「つまり最初から、

 “俺たちがチームになってる”ことも、

 向こうは知ってる。」


優斗、

送信ボタンに指を置き、

グループチャットにメッセージを書く。


 『変なメールが来た。

  明日、見せる。

  多分――

  “招待状”だ。』


送信。


部屋の電気を消すと、

窓の外の夜空に、

細い飛行機雲の光が一本だけ、

まだ消えずに残っている。


やがてそれも、

ゆっくりと暗闇に溶けていく。



【翌朝・坂道の通学路】


曇り空。

風が少し強い。

木々の枝が揺れ、

落ち葉が舞う。


音はない。

だが、

葉の動きだけが

“風の存在”を伝えてくる。


優斗、

自転車を押して坂を登っている。

イヤホンはポケットの奥。

代わりに、

手には折り畳んだプリント一枚。


――昨夜のメール本文を、

紙に出力したもの。


信号の前で止まると、

いつものように澪が立っている。

今日は少しだけ髪が乱れ、

風に揺られている。


澪は、

空と街を交互に見ていたが、

優斗に気づくと、

微笑みながら手話。


    澪(手話)

『おはよう』


    『おはよう』


優斗も返す。


少し間を置いてから、

澪がノートを取り出して

文字を書く。


 『昨日の夜、

  “風鈴の光”見た。』


横には、

窓の外の景色の簡単なスケッチ。

窓枠、

ぶら下がる風鈴、

周りに小さな光の輪。


    澪(手話)

『音は、

 やっぱりわからない。

 でも――

 “鳴った”ような感じは、

 いつもより強かった。』


優斗は、

プリントを取り出して見せる。


件名と冒頭部分だけを、

澪が読む。


澪の表情が、

すっと固まる。


    澪(手話)

『LISTENER-01へ……

 “再会の準備はできたか?”』


視線が、

優斗の顔、

それから

遠くの丘のほうへと移る。


    澪(手話)

『“旧観測塔”……

 あの、

 展望台の近くの、

 使われてない塔?』


優斗、頷く。


    優斗(心の声)

「知ってる。

 小さい頃、

 あの塔を“怖い”って思った記憶がある。

 何度も見上げて、

 でも近づいたことはなかった。」


澪が、

プリントの最後の一文を指差す。


 『LISTENERSと一緒でも構わない。』


    澪(手話)

『“一緒でも構わない”じゃなくて、

 “最初から一緒だって知ってる”書き方。

 ちょっとムカつく。』


優斗、不覚にも笑いそうになる。

同時に、

そのムカつきに救われている自分に気づく。


    優斗(心の声)

「“招待状”って、

 たいてい罠なんだろうけど――

 それでも、

 行かないって選択肢、

 最初から用意されてない気がする。」


二人は、

視線を交わしてから、

自然と頷く。


そのとき、

後ろから誰かが全力疾走で駆けてきて、

優斗の肩をバシッと叩く。


健。

息切れしながら、

メモを突き出す。


 『おはよー、LISTENERSのみなさん。

  今朝も、

  “静かな世界に似合わない顔ぶれ”だな。』


その下に、

小さい字で一行。


 『俺にも、そのメール見せろ。』


3人。

しばし沈黙――

(世界はいつも静かだが、

 ここでは“ニヤニヤした沈黙”)


空の雲が、

少しだけ薄くなる。


【放課後・理科準備室】


机の上に、

例のメールのプリントが置かれている。

その周りに、

優斗・澪・健・葉山の4人。


ホワイトボードには、

すでに新しいタイトルが書かれている。


 『旧観測塔/接触計画』


その下に、

「行く? 行かない?」の二択を書いた枠。


左側の「行く」の欄に、

タケルが勢いよく丸印をつける。


    健のメモ

 『はい、行きます。

  解散。』


葉山、

額に手を当てて苦笑い(無音)。


    葉山のメモ

 『……議論の余地を

  もう少し残してもらえると助かるんだけど。』


優斗は、

まだプリントを見つめたまま。

澪も、

口を固く結んでいる。


葉山は、

自分の前に置いたノートを開く。


そこには、

あの施設を離れた後、

彼女がずっと手元に残していた

“個人的記録”が走り書きされている。


    葉山のメモ

 『LISTENER計画を進めていたのは、

  AEF(音響エネルギー財団)。

  その中でも、

  “音場構築部門”を率いていたのが――』


ノートに書かれた名前を、

アップで見せる。


 『志藤しどう 慧一』


年齢、当時40代。

施設の中心人物の一人。


    葉山のメモ

 『わたしの、

  元・上司。』


優斗たち3人、

一斉に顔を上げる。


    葉山(心の声字幕)

『志藤さんは、

 “音を平等にする”って言ってた。

 戦争も、差別も、

 耳の違いも、

 全部“音の偏り”から生まれるって。

 だから、

 音をコントロールできれば、

 世界を優しくできるって。』


回想。


・白い実験室。

・視界の端に映る志藤らしき男性の横顔。

 穏やかな笑み。

・ガラス越しに子どもを見つめながら、

 何かを静かに語る口元。


音は、ない。


    葉山(心の声)

『でも、

 LISTENER-01の実験は失敗した。

 少なくとも、

 わたしたちにはそう見えた。

 あの子は沈黙の世界に閉じ込められ、

 研究は中止された。

 志藤さんも、姿を消した。

 ――はずだった。』


葉山は、

メールの署名「AEF」と、

件名にある「LISTENER-01」の文字を指でなぞる。


    葉山のメモ

 『もしこのメールを送ったのが志藤さんなら――

  彼は、“計画を続けている側”。

  世界規模で。

  そして、

  優斗くんはその“中心”。』


静かな視線が、

優斗へと集まる。


優斗は、

短く息を呑むジェスチャーをして、

ノートに書く。


    優斗のノート

 『俺は、

  志藤さんのことを覚えてない。

  でも、

  施設の景色は“知ってる気がする”。

  たぶん、

  俺の過去の答えも、

  世界の音の答えも――

  あの人たちが握ってる。』


ペンを強く握りしめ、

はっきりと書き足す。


 『だから、

  怖いけど、行く。

  一人じゃなくて、

  LISTENERSとして。』


その文字を見て、

澪がすぐにスケッチブックを開く。


空白のページに、

塔のシルエットを描く。

丘の上の、

使われていない旧観測塔。


その上に、

細い光のリングを一つ描き、

その周囲に、

小さな点を4つ散らす。


    澪(手話)

『行く。

 だって、

 向こうも“LISTENERS”を

 ちゃんと名前で呼んでる。

 なら、

 こっちも“本名”で返さないと。』


健は、

その塔の絵を見ながらメモ。


    健のメモ

 『正直、

  超怖い。

  けど――

  “怖いから行かない”って選んだら、

  この先ずっと、

  何か起きるたびに後悔しそうだし。

  だったら、

  今まとめて怖がっとくわ。』


葉山は、

ホワイトボードに戻り、

「行く? 行かない?」の枠を消して、

新しい項目を書く。


 『旧観測塔 接触計画(第1段階)』


 1:日没前に到着

 2:観測塔の外から“音場”を測る

 3:危険なら引き返す

 4:無理に内部侵入はしない


その下に、小さく。


 『5:LISTENERSは“一人で行動しない”』


    葉山のメモ

 『わたしたちが“勝手に”行く前に、

  向こうがもっと強い方法で

  接触してくるかもしれない。

  だから――

  先に、“こちらから”声をかけに行く。

  沈黙のまま、だけど。』


4人、

それぞれの表情で頷く。


窓の外。

夕方の光が校舎の壁を赤く染め始めている。

その向こうに、

かすかに旧観測塔のシルエットが浮かんで見える。


この日の放課後は、

“探り合いの始まり”になる――。


【夕方・丘のふもと】


学校から少し離れた丘。

斜面に草が生え、

途中から舗装された細い道が

ぐねぐねと上へ続いている。


空は、

オレンジから群青へと変わりかけ。

街の灯りが、

少しずつ点り始めている。


優斗・澪・健・葉山の4人が、

坂道の下で立ち止まっている。


道の入口には古びた看板。


 『旧観測塔跡地 関係者以外立入禁止』


錆びた文字。

半分消えかけている。


    健のメモ

 『この“関係者”に、

  LISTENERSも含まれてると

  勝手に解釈していい?』


葉山、

かすかに笑みを浮かべながらメモ。


    葉山のメモ

 『今日だけは、

  先生が“関係者”を名乗る。

  みんなは、

  “随行者”。』


4人は、

互いの顔を見て頷き、

坂道を登り始める。



---


【旧観測塔・外観】


木々の間を抜けた先。

開けた小さな広場の中央に、

高くそびえる塔。


コンクリートと金属でできた

古い観測塔。

上部には錆びたアンテナと、

丸い観測室のような構造物。


フェンスで囲まれているが、

ところどころ壊れている。


塔の上部だけ、

夕焼けを背に

黒いシルエットとして浮かび上がっている。


優斗は、

その光景を見上げた瞬間――

頭の奥に、

じん、とした“既視感”が走る。


フラッシュバック。


・同じ塔を、

 もっと低い目線から見上げている感覚。

・手を引かれて歩いている小さな足。

・隣で「大丈夫だよ」と

 口パクしている誰かの笑顔。

・風に揺れるアンテナの影。


音はない。

でも、

そのときの“風の冷たさ”だけが、

妙にリアルに蘇る。


    優斗(心の声)

「ここに、来たことがある。

 いつか、

 ずっと前に。」


澪は、

塔の周囲の空気を感じ取ろうと、

目を閉じて立つ。


視覚的には、

塔の周りに

目に見えない“円形の音場”が

幾重にも重なっているようなイメージ。


その輪っかのいくつかは静止しているが、

一部はゆっくり回転し、

また別の一つは微かに震えている。


    澪(心の声)

『ここ、

 “静か”じゃない。

 静けさが、

 重なってる。

 濃いところと、薄いところがある。』


健は、

フェンスの向こうを覗き込みながら、

鳥肌の立った腕をさすっている。


    健(心の声)

『こういう“いかにも何か出そう”な場所で

 ホラー映画とか見たことあるから、

 良くない想像しか出てこねぇ……。

 でも、

 俺もちゃんと“証聴者”なんだろ?

 ビビってるだけじゃ、

 役に立たねー。』


葉山は、

塔を見上げながら、

古い記憶を辿るように目を細める。


    葉山(心の声)

『ここは、

 “音の観測点”。

 地上と施設と、

 空の上を結ぶ、

 ひとつの“耳”。

 今はもう使われていないはず――

 だった。』


フェンスの一部、

金網が外されている箇所。

人ひとりが通れるくらいの隙間。


4人は顔を見合わせ、

静かにうなずき合う。


一人ずつ、

その隙間をくぐって中へ入っていく。



---


【観測塔・足元】


コンクリートの地面。

ひび割れの隙間から、

草が伸びている。


塔の足元には、

小さな扉がいくつか。

メンテナンス用の入口、

ケーブルの取り出し口。


そのうちのひとつ――

“観測室入口”と書かれたプレートのあるドアだけ、

わずかに隙間が空いている。


優斗は、

ドアノブを見つめる。

手を伸ばすかどうか、

迷う。


そのとき――


スマホが震える。


画面には新しいメール通知。


 『同じ場所を、

  思い出せたようだね。

  LISTENER-01。』


差出人は、

やはり「no-reply@aef-lab.org」。


本文を開く前に、

塔の上部の観測室にある窓の一つが、

かすかに光る。


誰かが、

こちらを見下ろしているかのように。


塔の影が、

4人の上に長く伸びる。


世界は、

相変わらず無音のまま。


しかし、

何かが

“返事を待っている”気配だけが、

はっきりと存在している。


【観測塔・入口前/沈黙の対話】


塔の入口前。

4人が、

半円を描くようにドアを囲んで立っている。


優斗のスマホには、

メールの本文が表示される。


 『LISTENER-01へ。


  覚えているかい。

  この塔の上から世界を見下ろしたとき、

  君は何と言った?


  「うるさい」と。


  だから、

  世界から音を減らした。

  君のために。


  でも、

  それでも君は苦しそうだった。

  だから今度は、

  世界から音を“ほとんどすべて”消してみた。


  どうだい。

  少しは楽になったかい?


  答えは、

  ここに来て、

  自分の口で教えてほしい。』


その文字を読み終えた瞬間――

優斗の頭の中に、

短い映像がフラッシュする。


・幼い自分が、

 この塔の上から街を見下ろしている。

・足元には、

 安全柵。

・隣に立つ白衣の大人。

 顔はぼやけているが、眼鏡のフレームだけが見える。

・口がゆっくりと動く。


 『どう? この世界の音は。』


・幼い自分の口が、

 震えながら紡ぐ。


 『……うるさい。

  全部、うるさい。』


音はない。

しかし、

その言葉の重さだけが伝わる。


現実に戻る。

塔の前。


優斗は、

手のひらに汗を滲ませながら、

ノートを取り出す。


震えるペンで書く。


    優斗のノート

 『たしかに、

  うるさいって言ったかもしれない。

  でも――

  “全部いらない”とは、

  言ってない。』


澪が、その文字を読み、

すぐに自分のスケッチブックに

塔の上から見た街のイメージを描き加える。


・下に広がる街の光

・道路の線

・小さな家の光


その上に、

薄い“音の波”を表すように

半透明の線を何本も重ねる。


    澪(手話)

『世界の音は、

 たぶん、

 “いらない音”と“ほしい音”が

 混ざってる。

 どっちかだけ、

 選べればいいのに。』


健は、

メモに殴り書きする。


    健のメモ

 『うるさいのが嫌なのは分かる。

  でも、

  完全な静寂もキツい。

  俺は、

  バカみたいに笑い合う声とか、

  サッカー部の掛け声とか、

 そういう“うるさい音”も好きだった。

  それも、

  まとめて消されたのは、

  正直ムカつく。』


葉山は、

少しの間目を閉じてから、

ノートに書く。


    葉山のノート

 『志藤さんは、

  “世界を優しくするため”って言ってた。

  でも、

  あなたたちの顔を見てると、

  今の世界は優しくない。

  少なくとも、

  音を全部消した世界が、

  正解だとは思えない。』


彼女は、

ノートとメールの画面を

並べて机代わりの機材箱の上に置く。


4人は顔を合わせる。


    優斗(心の声)

「ここから先に進むか、

 今日は引き返すか。

 どっちを選んでも、

 もう“前と同じ日常”には戻れない。」


澪が、

そっと手を上げる。


    澪(手話)

『わたし、

 このまま“音のない世界”で

 全部を受け入れるのは、

 いや。

 音を知らないままで終わるのも、いや。

 ……だから、

 答えを聞きに行きたい。

 ちゃんと、

 “選びたい”。』


健も、

握った拳を胸の前に当てる。


    健のメモ

 『ビビってるけど、

  行く。

  “LISTENERSのムードメーカー枠”が

  塔の前で逃げるのはダサすぎる。』


葉山は、

最後に優斗を見る。


    葉山のメモ

 『決めるのは、

  LISTENER-01。

  でも、

  一人で決めなくていい。

  もう、“一人の耳”じゃないんだから。』


優斗は、

メールの画面を

ゆっくりとスクロールし、

最後の行まで見届ける。


「耳を澄ませている者たちへ」という言葉の上に、

自分の指を重ねる。


そして、

スマホのキーボードを開き、

返信を書く。


 『LISTENER-01より。


  俺は、

  世界の音がうるさいと思った。

  でも、

  全部いらないとは思ってない。


  だから、

  全部消した世界も、

  “正解”だとは思わない。


  その話を、

  LISTENERSとして、

  直接聞きに行く。』


送信ボタンを押す。


画面には、

「送信しました」の文字。

その下に、

すぐさま新しい通知。


 『了解したよ、LISTENER-01。


  それでは――

  “上”で待っている。』


同時に、

塔の上部の観測室の窓に、

はっきりと光が灯る。


それは、

まるで“合図”のように。


塔の入口のドアが、

ギィ……と

自動的に少しだけ開く。


音は、ない。


しかし、

その動きだけで

“招待は受理された”ことがわかる。


4人は、

静かに顔を見合わせる。


そして――


優斗が、

ノブに手をかける。


澪が、その手首をそっと握る。

健は、

その肩を軽く叩く。

葉山は、

3人の背中に手を添える。


4つの影が、

ゆっくりと暗い入口の中へと

飲み込まれていく。



夕闇の中で、

旧観測塔だけが

ぼんやりと浮かび上がっている。


空には、

飛行機雲の光はもうない。

代わりに、

遠くで小さな星がひとつ、

かすかに瞬き始めている。


    ナレーション

『――沈黙の世界で、

  彼らはようやく、

  “対話の場所”へ

  たどり着こうとしていた。

  それが、

  救いか、罠かも知らないまま。』




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