第18話「静寂派の本拠地」
【夜・海沿いの古い研究施設跡】
静流に案内され、
LISTENERSの4人は
海沿いの崖に建つ古い研究棟へとたどり着く。
風は強いのに音はない。
波が高いのに静かだ。
澪は身を抱きながらつぶやく(手話)。
澪(手話)
『ここ……
音が消える前に
“音響研究所”だった場所……?』
静流は頷く。
静流(字幕)
『ここが、静寂派の本拠地。
私たちの“基地”。
静寂を守るために、
凪の残響体を……
ここに保管している。』
優斗、健、葉山は
息をのむ。
健(心の声)
『この建物……
絶対、中に“凪の言葉”がある。
……呼んでる。』
古い自動扉を静流が解錠すると、
中は青い非常灯だけが灯る薄暗い空間。
だが澪の視界には、
ありえないほど多くの吹き出しの光が漂う。
・言えなかった言葉
・書きかけの歌詞
・凪のハミング
・“さよなら”の影
・“愛してる”の揺れ
全部が、この建物に吸い込まれていた。
葉山がアプリの警告を見せる。
《警告:LISTENER波形が吸収される可能性》
《内部音場:極度不安定》
優斗の表情が強張る。
優斗
(ノート)
『ここで、
“世界が静かになった瞬間の核心”に
触れることになるのか……』
静流は
奥の通路を指差した。
静流(字幕)
『凪の残響体は、
地下の“静寂室”にある。
すべての音を吸収する特別な部屋。
世界が静かになる前も存在していた……
凪は、そこで歌った。』
四人は動揺する。
健(口パク)
『ここで……歌ったのか。
最後の“愛してる”を……
言う直前まで……!』
静流の目が揺れる。
静流
(字幕)
『あの日……
凪は“誰か”を待っていた。
その人にだけ、
最後の歌を届けたかった。
でも――
間に合わなかった。』
澪の手が震える。
澪(手話)
『だから……
“声が散った”……?』
静流は小さく頷いた。
【静寂派のホール】
研究棟の中心ホールへ。
そこには
静寂派のメンバーたちが
淡い光を放つ装置を操作している。
だが、
彼らは誰ひとり聲を発しない。
世界が音を失う前から
“無言での意思伝達”をしていた組織らしい。
静流が前に出ると、
メンバーたちは一斉に停止する。
静流は静かに告げる(字幕)。
静流
『この人たちは敵じゃない。
ただ、凪を守りたいだけ。
あなたたちと同じ。
でも方法が違う。』
健がくぐもった表情で書く。
健
『守りたいなら、
なんで凪の言葉を封じるんだ?
届けたかった“愛してる”を……
なんで止めるんだ?』
静流は苦しげに顔を伏せる。
静流
『……届いてしまったら、
凪が壊れるから。
届かないことに
“希望”を見ていたから。
だって……
その相手は――』
言葉が途切れる。
優斗の心臓が跳ねる。
そのとき、
ホール全体が激しく揺れた。
《警告:凪の残響体が活性化》
《海側音場:暴走兆候》
澪の表情が恐怖で染まる。
澪(手話)
『凪が……怒ってる……?
悲しんでる……?
違う……
呼んでる……!!』
健(心の声)
『やばい……
“最後の言葉”が
海に向かって流れ出してる……
このままじゃ……
世界単位で揺れる!』
葉山がタブレットを見せる。
《海:最終音場 開始まで残り僅か》
静流は震えた声で言う。
静流(字幕)
『急がなきゃ……
凪の残響体が完全に暴走する前に
あなたたちが
“本当の最後”を受け取って……!!』
【地下へ移動・静寂室前】
四人と静流は、
急ぎ地下へ向かう。
途中の通路では
壁一面に
凪の“未発声の歌詞”が浮かんでは消える。
・「愛してる」の“して”だけ残る影
・「あなたへ」の“あな”だけ
・「ごめんね」の“めん”だけ
・サビ前の“深呼吸の影”
・凪の涙の形をした文字
ミオは両手で口を押さえる。
ミオ(手話)
『こんなに……
言い残した言葉が……
この建物に……
集められて……』
タケルの胸が痛む。
葉山はただ静かに頷く。
階段を下りると、
そこには分厚い防音扉がある。
中央には
“凪”の名前が刻まれたプレート。
静流が扉に手を当てる。
静流(字幕)
『ここが“静寂室”。
凪が最後に
“愛してる”を歌おうとした場所。
ここで世界が静かになった。
私が……
凪を止められなかった場所。』
優斗が静流の方を見る。
その視線の震えを見て、
静流はかすかな微笑みを浮かべた。
静流(字幕)
『行って。
あなたたちしか
凪の“最後の言葉”に触れない。
LISTENERSは……
あの人のために存在した人たちだから。』
優斗、澪、健、葉山は
それぞれ決意を込めて頷く。
扉がゆっくりと開く。
中は真っ白な部屋。
音が完全に吸収される空間。
その中央に――
凪の残響体 が静かに佇んでいた。
【静寂室・凪との対面】
白い部屋の中央に
淡い青い光が集まり、
凪のシルエットが形を成す。
優斗が震える。
澪は目から涙が伝う。
健は驚愕してる。
凪は、
音のない世界の中で
ただ静かに優斗に手を伸ばした。
“ありがとう”
“ごめんね”
“さよなら”
“愛してる”
すべての文字粒が
凪の胸元に集まっている。
優斗は、
涙で滲む目の中で
凪の口元を読む。
凪は確かに、
こう言っていた。
《あなたへ……
最後の言葉を……》
光が強くなる。
静寂が深くなる。
そしてついに――
凪の“最後の言葉”の輪郭が
優斗の前で形を取り始める。
画面が白く染まる。




