第17話「凪のラストステージ」
【夜・旧レコード店跡/スタジオ内】
優斗は膝に手をつき、まだ息が荒い。
澪が背中をさすり、健と葉山が支える。
静流は、凪の影を見て膝を抱え込む。
スタジオ中央に浮かぶ“残響の凪”は、
微かに揺れながら 優斗だけ を見つめている。
優斗
“音が出そうで出ない”感覚で震える。
優斗(心の声)
「また……呼んでる。
凪の歌が、俺を……
拉致するみたいに引っ張ってる。」
澪がスケッチブックに書く。
『優斗、
さっきの“記憶の揺れ”に
もう一度アクセスできる?
凪の“本当の最後”を
見つけないといけない。』
健が同意して頷く。
健(口パク)
『凪の“言いかけの言葉”、
あれを受け取れるのは
ユウトだけかもしれん。
あの引力、
俺たちには感じ取れねぇ。』
静流はしばらく沈黙し、
意を決したように言う(字幕)。
静流
『……優斗君。
お願い。
凪の最後のステージを、
あなたの目で見てあげて。
私は……あの夜のことを
ちゃんと最後まで見ていないから。』
優斗はゆっくり立ち上がる。
胸の奥で、
凪の“愛してる”の形が
まだ薄く残っている。
優斗は一歩前に出て、影の凪に手を伸ばす。
光が広がる。
【凪の記憶:ライブ会場(音のある世界)】
視界がひらけた瞬間――
世界には“音”がある。
・観客のざわめき
・スタッフの足音
・照明チェックの合図
・ピアノの音
全部、鮮やか。
優斗はその“音の洪水”に足がすくむ。
優斗(心の声)
「これが……
音のある世界……
こんなにも、
世界は賑やかだったんだ……」
ステージ袖。
凪が、深呼吸している。
長い黒髪を揺らし、
白い衣装の胸元を軽く押さえて。
健の“ごめん”に似た
優しい揺れが凪から漂っている。
凪は
“ある人物”がいないことに気づいて
切なげに笑う。
凪(影の声・形だけ)
《……来てほしい……
あなたにだけは……
この歌を……》
声は聞こえない。
でも“言葉の形”が読める。
優斗が震える。
優斗(心の声)
「凪は、
誰に向けて歌っていたんだ……?」
ステージに出る合図が来る。
凪は軽く涙を拭き、
笑ってステージへ向かう。
会場が一斉に歓声を上げる。
(※優斗には“歓声の影”として響く)
凪はマイクの前に立つ。
照明が落ちる。
ピアノのイントロの影が流れる。
凪の口が開く。
――《あ》
優斗の胸がつかまれる。
――《り》
澪のスケッチで見た吹き出しの線が浮かぶ。
――《が》
涙がにじむ。
――《と……》
凪は客席の“特定の席”を見た。
誰かを探すように。
――《う……》
曲が“ありがとう”で一区切りつく。
観客の影が笑う。
凪も微笑む。
そして凪は、
サビ前に深く息を吸う。
《……あなた……》
優斗の心臓が跳ねる。
凪の口の動きが
はっきりと“あなた”になっている。
会場のざわめきが静まる。
優斗の世界が揺れる。
そして――
その瞬間。
照明が落ちる。
音が止まる。
凪の歌が途切れる。
【音が消える直前の“真相”】
世界がスローモーションになる。
凪の声はまだ続こうとしている。
《……愛し……》
優斗の心臓が痛いほど鳴る。
凪の目には涙。
その瞳に映っているのは――
ステージ後方に走ってくる“誰かの影”。
その“誰か”に向けて
凪が最後に歌おうとした言葉。
《愛してる》
しかし、
その瞬間。
世界の“音”が
一気に消えていく。
・観客の声が消える
・照明の音が止まる
・凪の声も影だけになる
・スタッフの叫びも無音
凪が驚いてマイクを握りしめる。
凪(形)
《……待って……
まだ……言えてない……》
優斗は涙が止まらない。
凪はマイクに口を寄せる。
《……あなた……
愛して……》
だが最後の二文字が出る直前、
世界の音が完全に消えた。
凪の表情は絶望に変わる。
そして――
世界が白い光に飲まれた。
優斗は凪の声が
胸に強く刺さるのを感じた。
【スタジオ内・戻ってくる優斗】
優斗の意識が戻る。
スタジオの床。
澪、健、葉山、静流が囲んでいる。
優斗は涙が止まらない。
澪が手話で急いで尋ねる。
澪(手話)
『見たの……?
凪の最後を……!』
優斗は震えながらノートに書く。
『凪は……
“ありがとう”のあとに
“あなた”を呼んだ。
そして……
本当に最後に歌おうとしたのは――』
ノートに震える文字が刻まれる。
『愛してる』
静流は崩れ落ち、
声にならない(声は出ない世界だから)。
澪も涙をこぼす。
健は拳を握りしめる。
葉山は
アプリに現れた新しいログを指差す。
《海:最終音場へ向けて集束中》
《凪の“愛してる”の残り香:海へ》
優斗は
凪の残響体を見つめる。
凪の影は
優斗に向かって微笑んだように見えた。
その瞬間、
スタジオの天井が揺れ、
青い光が海の方向へ走った。
いよいよ――
凪の“最後の言葉”の決着が
海で行われる。




