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第16話「歌いかけた夜」

【夜・優斗の部屋】

優斗は、机に広げられたノートに

“あ・り・が・と・う・さ・よ・あい・てる”

という文字列を

静かに並べている。

その並びを見ているだけで、

胸の奥が妙に熱くなる。

窓の外は静かすぎる夜。

風の音も、街の雑音もない。

ただ――

優斗の喉奥だけが、

“聞こえない声”でざわざわと揺れる。

    優斗(心の声)

「この言葉……

 全部ひとつの歌から生まれた。

 もしそうなら――

 その歌の主は

 どんな気持ちで歌ってたんだ……?」

ノートの端に、

自分でも書いた覚えのない線が浮かぶ。

 《……きいて……》

優斗は背筋が凍る。

手が震えている。

でも、なぜか目が離せない。

そのとき――

スマホが無音で振動する。

 《LISTENERS:至急集合》

 《場所:旧レコード店跡》

優斗は、

ノートを強く握りしめて立ち上がった。


【夜・旧レコード店跡】

4人が集合する。

健は息を切らし、

澪は顔色が悪い。

葉山も珍しく焦っている。

店内は暗いはずなのに、

奥のスタジオ跡だけ

淡い光が漏れている。

    葉山メモ

 『なぎという名前を塔から得た。

  世界で音が消えた“前夜”に

  最後の歌を録音していたシンガー。

  そして――

  世界中に散った“言葉の主”。』

3人は息をのむ。

健が前に出る。

 健

(口パク)

『昨日、海で見た影……

 あれ、凪の……?』

澪は震える手で手話を送る。

    澪(手話)

『今、スタジオの中で

 “誰かが歌ってる形”が見える。

 音はないけど……

 曲の流れがある。

 明らかに……

 生きてる。』

優斗は、

喉奥に広がる“圧”を感じる。

凪の歌の“残響体”が

優斗を呼んでいるようだ。

そのとき――

スタジオの扉が、

ゆっくりと独りでに開く。

中には、

誰もいない。

でも、

マイクの前に“影のシンガー”が座っているような

淡い輪郭。

その周囲に

“あ・り・が・と・う・さよなら・ごめん・愛してる”

の粒子が

ゆっくり渦を巻いている。

優斗の胸に、

激しい圧がかかる。

    優斗(心の声)

「これが……

 凪の最後の歌……?」

すると突然、

影が“こちらを向いた”。

優斗の心臓が跳ねる。

目は見えないのに――

“見られている”。

    澪(手話・震えて)

『優斗……

 呼ばれてる……

 あなたを……

 歌が見てる……!』

優斗は足が動かなくなる。

健が支える。

だがその瞬間、

スタジオの奥に

“誰かの姿”が浮かんだ。

黒いコート――

静寂派の人物。

だが今回は、

外套のフードを降ろしている。

“若い女性の姿”。

表情は暗い。

だが、涙の跡がある。

    静寂派の女性(字幕)

『……凪の最後の歌に触れるな。

 お願いだから……

 もう、あの人を苦しめないで。』

優斗は震える声で書く。

    優斗ノート

 『あなたは……凪を知ってる?』

静寂派の女性は震えて答える。

    静寂派の女性

『……知ってる。

 誰よりも。

 私は――

 凪の妹。

 “静流しずる”。』

一同、凍りついた。

静流は涙を流しながら続ける。

    静流(字幕)

『凪は……

 本当は“静寂”なんて望んでなかった。

 最後に届けたかったのは

 ただ一人への歌。

 でも……

 届かなかった。

 その人に……

 届く前に……

 世界が音を奪った。

 凪の……想いの重さに耐えられず。』

澪の手が震える。

健の胸の“ごめん”が激しく波打つ。

優斗の喉が締めつけられる。

静流は泣きながら叫ぶ。

    静流

『だから……

 お願い……

 凪の最後の言葉を

 誰にも触れさせないで……!

 思い出したら――

 凪が、もう一度苦しむ!』

優斗は、静かに首を振る。

    優斗ノート

 『違う。

  苦しませたいんじゃない。

  最後に伝えられなかった言葉を

  届けるために。

  凪が、最後に望んだことを

  叶えたいだけだ。』

静流は歯を食いしばる。

    静流(字幕)

『届かないから、世界は救われたのに……!

 “愛してる”なんて言葉を

 あの人が言ったら……

 また世界は――!』

その瞬間、

スタジオの影が強く揺れた。

凪の“残響体”が、

優斗へ手を伸ばす。

優斗は覚悟を決める。


【凪の記憶の中へ】

光が爆ぜ、

優斗の意識が

スタジオの影に引き込まれる。

見えるのは――

世界がまだ音に満ちていた頃。

凪が夜のスタジオで、

涙をこぼしながら

最後の曲を書いている。

・ピアノの影

・涙の落ちる音の影

・凪の口元が震える

・そして――

 名前を呼ぶ動き

それは

優斗が知る誰かの名前

にも似ている。

健、優斗、澪の胸が

一斉に縮みあがる。

凪は歌う。

音は無い。

だが

“愛してる”の形だけが伝わる。

その瞬間、

世界の音が――

凪の歌に共鳴して消える“直前”の影が現れる。

優斗は手を伸ばす。

だが、影は届かない。

    優斗(心の声)

「もう少しだったのに……

 あと一言……

 その一言があれば……

 凪は……!」

影が再び手を伸ばし、

優斗の手に触れそうになった瞬間――

世界が光に包まれる。


優斗はスタジオの床に倒れ込む。

健、澪、葉山が駆け寄る。

静流は

悲しそうに優斗を見る。

    静流(字幕)

『あなたは……

 何を見たの……?』

優斗は、

震える手でノートに書く。

 『凪の最後の歌は――

  “愛してる”で終わっていた。

  でも、

  その一言は……

  まだ誰にも届いていない。』

静流は

膝から崩れ落ちる。

澪が泣きそうな手話を送る。

    澪(手話)

『凪を……助けよう。

 最後の言葉を……

 ちゃんと届けよう。』

健は胸に手を当て、

強く頷く。

葉山はログを見せる。

 《海:最終音場 予兆》

 《凪の声:海へ集積中》

凪の歌が、

海へ帰ろうとしている。

静流は涙の中で呟く。

    静流

『……もし……もし本当に……

 凪の最後の言葉を救えるなら……

 どうか……

 あの人を……

 あの夜を……

 救ってあげて……』

海が大きく揺れる。

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