第14話「静寂派の影」
【翌朝・学校屋上】
前日の“レコード店跡”での遭遇――
黒いコートの人物。
彼が残した言葉が、
優斗たちの胸に重く沈んでいる。
屋上。
風だけが動いている。
音はない。
四人は丸く座っているが、
誰も口を開こうとはしない。
沈黙の中、
最初に動いたのは優斗。
ノートにペンを走らせる。
『昨日の人物。
LISTENERSの敵なのか、
ただの“警告者”なのか。
どっちだと思う?』
健が、
ジャケットのポケットを握りながら答える(口パク)。
『敵って感じじゃなかったけど……
なんか、
“ヤバいとこ触ってるぞ”って
言われた気がする。
あの感じ、嫌だった。』
澪はスケッチブックに文字を書く。
『あの人……
“静寂”を守ろうとしてた。
音が戻ることを
本気で止めようとしてる。
でもその静寂は――
“優しさ”じゃなかった。
誰かを閉じ込める静けさ。』
葉山は深呼吸しながら
資料を一枚見せる。
そこには「静寂派」という文字。
葉山
『塔は“静寂派”を把握している。
塔の技術を継承した別組織で、
“世界は静かなままのほうがいい”
という立場。
LISTENERS FIELDとは
真逆の理念だ。』
四人は息をのむ。
優斗(心の声)
「俺たちが“音の残り香”を拾うほど、
静寂派は世界中の音場を
“固定”しようとする……?
じゃあ、
あの『やめろ』は本気だったんだ。」
健は胸の奥の“ごめん”を押さえる。
健(心の声)
『俺が拾った“ごめん”。
あれも、
誰かの未完の言葉。
それすら“戻すな”って言うのか?
そんな静寂……
守る価値あんのか?』
澪は、
風に揺れる髪を押さえながら手話。
澪(手話)
『わたしたちは、
音を戻すんじゃなくて、
“言葉の行き先”を探してるだけ。
消えた声の、残りの気持ちを。
それすら否定されたら……
辛い。』
葉山は
「これはもう避けられない」と言うように
静かにページを閉じる。
葉山
『静寂派が動くなら、
次は必ず“接触”がある。
LISTENERSは
見つかってしまった。』
緊張が走る中――
アプリが突然震える(無音の振動)。
《“ありがとう”断片:変動》
《“あ・り・ごめん”が同期》
《新しい文字:発生》
優斗の目が大きく開く。
優斗
『……“と”だ。
今、“と”が出た。
“あ・り・と・ごめん”?』
澪はすぐにスケッチ。
画面には、
“あ・り・と”が淡い線で連結し始めている。
健の胸の奥の“ごめん”が
小さく震える。
健(心の声)
『これ……
言葉が進んでる……?
でも、
“ありがとう”の途中と
“ごめん”は
繋がらなくないか?
なんで同じ場所に戻ってくるんだよ……?』
葉山が答える。
葉山
『どちらも同じ作曲者の声だったとしたら?
“ありがとう”も“ごめん”も、
同じ人への言葉。
未完のまま世界に散った。
だから今、
“ひとつの線”に戻ろうとしている。』
3人は凍りつく。
誰かが、
誰かに伝えられなかった言葉。
「あ」「り」「と」「ごめん」
それらが全部“同じ口”から出ようとしていた?
誰に向けて?
なぜ?
どうして未完のまま散った?
胸を締めつける謎が深まっていく。
【学校図書室・資料探し】
四人は図書室の調査スペースに集まる。
葉山は塔から届いた追加資料を開く。
《音消失前後の未完音楽データ》
《世界規模で同時に消えた“歌”》
《個人レベルの歌声の断片が世界に散った例》
澪は息を呑む。
澪(手話)
『世界のあちこちで、
音が消えた瞬間
“歌いかけの声”が断片化して
散った……?
それが“点音”“線音”“声の残り香”……?』
葉山が頷く。
葉山
『塔の研究者の仮説では、
“音が消える直前に歌っていた人”
あるいは
“言葉を伝えようとした人”の声が
世界の静寂に吸われて
散り、
各地の音場に残滓となった……。』
優斗は震える手でノートに書く。
『じゃあ――
“あ・り・と・ごめん”の声も
その一つ?
どこの誰かの、
最後の言葉……?』
健は、
胸に宿る“ごめん”の震えを感じ取る。
その震えには、
怒りでも悲しみでもない。
もっと複雑な、
でも確かに“優しいもの”が混じっている。
健(心の声)
『この“ごめん”、
なんでこんなに……
“誰かを想ってる”感じなんだよ。
謝罪ってより――
“ありがとう”の途中みたいな……。』
澪はスケッチに書き加える。
『“ありがとう”と“ごめん”。
一見反対だけど、
“誰かを大切に思う気持ち”
っていう意味では
同じ。
……同じ声の可能性、ある。』
胸が締めつけられる。
その瞬間――
アプリが強烈に反応する。
《POINT:海(波のない海)
新規音場発生》
《“ありがとう”の断片:海側へ流動》
優斗
「海に……戻ってる?」
健
(口パク)
『“歌の続き”が
海に引っ張られてんのか……?』
葉山
(メモ)
『今すぐ行くぞ。
これは偶然じゃない。
誰かの“最後の歌”が
海で……揺れ始めてる。』
四人は
急いで図書室を飛び出す。
だが、その背後で――
カウンターの陰に、
黒いコートがひっそりと立っていた。
不明人物
(字幕)
『あの子たちは、
“まだ知らない”。
音を戻せば――
静寂は死ぬ。
そして“あの人の夢”も。』
黒い影は静かに消えた。
【夕方・再び“波のない海”へ】
夕暮れの海岸。
前回と違い――
水面に明らかな“揺れ”がある。
音はない。
でも、明確な“揺れの強さ”がある。
《海音場:活動上昇》
優斗は砂浜を歩きながら
喉奥にざわりとした感覚を覚える。
優斗(心の声)
「これは……
波のリズムだ。
音はないのに、
“波が近づいてくる”感じがする。
まるで、
誰かの声に呼ばれてるみたいに。」
澪はスケッチブックを開く。
波の輪郭線が、
前回よりもずっと濃い。
しかもその線には――
小さな文字の粒が混じっている。
『あ』『り』『と』『ご』
健は胸を押さえる。
“ごめん”の粒が、
海へ引っ張られている。
健(心の声)
『引かれてる……
この“声”、
海が呼んでる。
歌の続きを……
海が覚えてるってのか?』
葉山はアプリを見せる。
《海底付近:声の残滓》
《歌唱モチーフ:解析不能》
《感情波:高》
葉山
『海の底に“声そのもの”が残った可能性。
歌の主が
この海にいた……?
あるいは
ここで何かを歌おうとした……?』
四人は息をのむ。
海風が吹き――
水面の“揺れの帯”が
4人の足元にまで広がる。
ミオの目に、
波打ち際で揺れる“吹き出し”が浮かぶ。
その吹き出しの中に、
とうとうはっきりした一文字が現れる。
『う』
健の胸の中で
“ごめん”が少しだけ変化する。
→『ごめん、◯◯う』
優斗は膝をつく。
優斗(心の声)
「“ありがとう”の最後の“う”……
ついに……
つながる……?」
澪がスケッチに書く。
『あ・り・が・と・う
全部そろった……
声が戻ろうとしてる。
でも――
まだ“歌”の気配がある。
これはただの“言葉”じゃない。
サビの始まり……?』
海の向こうで、
一筋の光が立ち上がる。
まるで、
海そのものが歌いだそうとしているような……
そんな“静寂の歌声”。
しかし、
その瞬間。
海岸の防波堤に――
黒いコートの人物が現れる。
夕日を背にした影が
四人を見下ろす。
不明人物(字幕)
『――言うな。
その言葉を完成させるな。
“あの人”は
静寂を望んだんだ。
音が戻れば、
その願いは消えてしまう。
お願いだ。
止めてくれ――LISTENERS。』
澪が震える。
優斗が立ち上がる。
健の胸が激しく脈打つ。
葉山が前に出る。
海風が吹く。
波はまだ音を持たない。
でも――
確かに“歌の気配”があった。
四人は、
黒い人物と対峙する。
夕日が沈む。
波の影が強く揺れる。
海が何かを“言おうとしている”。
静寂派の人物が叫ぶ(字幕のみ)。
不明人物
『その“ありがとう”は、
“さよなら”なんだ!
その歌は、
世界を沈める!
あの人は、
最期に――
静寂を願ったんだ!!』
優斗の心臓が締めつけられる。
優斗(心の声)
「“ありがとうは さよなら”……?
この歌の最後に
何があった?
誰が歌った?
なぜ海に散った……?」
健は胸の奥の“ごめん”を抱きしめる。
その“ごめん”が、
誰かの涙のように震える。
澪は海を見つめる。
海の向こうから、
また新しい文字の影が立ち上がる。
『さ……』
葉山が息を呑む。
葉山
『“ありがとう”の続き……
それって……まさか……』
優斗、澪、健――
三人の瞳に同時に
強烈な予感が走る。
あの歌は、
ただの“ありがとう”じゃない。
海に散った声は、
誰かの最期の――
別れの歌。
その瞬間、
画面は強い光で包まれる。




