第13話「未完の言葉の行き先」
【朝・教室】
朝の教室。
窓から差し込む光は柔らかく、
静けさはいつもと変わらない。
しかし、
優斗・澪・健・葉山――
彼らの胸には“落ち着かないざわつき”がある。
理由は、アプリのひとつのログ。
《“あ” と “り” の同期レベル:上昇中
→新たな“音の出所”の可能性》
優斗はノートの端に
昨日の波形を写しながら考える。
優斗(心の声)
「“あ”と“り”。
どちらも“言いかけの声”。
そして健の“ごめん”。
全部が、
同じ方向へ引っ張られてる気がする。
まるで――
世界のどこかで
“ひとつの言葉”になろうとしているみたいに。」
澪が席でスケッチブックを開く。
そこには、
歩道橋の“吹き出しの輪郭”、
駅の“あ”、
タケルの“ごめ”の粒子。
それらが、
薄い線でひとりでに結ばれようとしていた。
澪(心の声)
『これ、
偶然じゃない。
きっと、
全部“同じ場所”から来てる。
誰かが言おうとして
叶わなかった言葉――
その“続きの先”。』
葉山は、
3人の机に歩み寄り、
静かにメモを置く。
葉山
『塔から正式な指示が出た。
“あ”と“り”の同期点を追跡できる。
位置情報:旧市街地、海沿い。
……放課後、行くぞ。』
健は、
すごく小さく息を飲む。
その胸の奥には、
昨日吸い込んだ“ごめん”の粒が
まだ静かに揺れている。
健(心の声)
『俺が持ってる“ごめん”。
あれもきっと、
同じ言葉の一部だ。
……行かないといけねぇ。
この続き、
確かめたい。』
黒板の前では、
担任が無音の口パクで授業を開始する。
(黒板のチョークの音がない世界)
しかし、
LISTENERSの4人は
授業内容など頭に入っていなかった。
【放課後・旧市街地へ】
海から少し離れた旧市街。
古い商店街、閉じた店、
波のない港の匂いがするエリア。
LISTENERSはアプリを開きながら歩く。
《同期点:近い》
優斗が立ち止まる。
優斗
『ここ……!?』
澪がスケッチブックを見開く。
そこには、
突然浮かび上がるように
“吹き出しの光”が
いくつも重なって見えている。
それらは、
全部“あ”と“り”の字形に近い。
健が胸を押さえる。
――ズキッ。
健(心の声)
『まただ……
“ごめん”の粒が疼いてる。
ここが……繋がる場所。』
葉山が周囲を見渡しながら書く。
葉山
『この店……
“ミヤシタレコード”旧支店。
本店とは別の、
昔は倉庫だった場所らしい。
音が消える前に閉店している。』
4人は、
古いレコード店跡の前に立つ。
看板はもう剥がれて文字も読めない。
店内は暗く、
ガラス越しに見える棚には
何も残っていない。
しかし――
アプリは激しく反応する。
《POINT:VOICE CORE “A-RI”
カテゴリ:HUMAN→MUSIC
状態:融合》
優斗
(ノート)
『“HUMAN→MUSIC”?
人の声が……
音楽に繋がってる?』
澪は震える指で手話。
澪(手話)
『“あ”と“り”。
それから“ごめん”。
全部、
ここに吸い寄せられてる……
でも、なんで音楽?
どう繋がるの?』
タケルが、
店内の奥にある“何か” を感じ取る。
その“何か”は――
・誰かが作りかけたメロディ
・まだ歌詞がついていない曲
・誰かを想って
でも伝えきれずに終わった言葉
・“ありがとう”にも、“ごめん”にも
似ている残響
健は呟く。
健(心の声)
『これ……
“歌”だ。
誰かの声が、
音楽になりかけて
途中で止まってる。
“言いかけの言葉”が
メロディの断片として
残ってる……?』
優斗
「……歌?」
澪
(手話)
『誰の……?』
葉山は息をのみ、
一つの仮説を書き込む。
葉山
『もしかして――
世界が静かになる“前日”に
未完のまま終わった
“曲”があった?
その作曲者の
最後の歌声、最後の思いが
“あ・り・ごめん”
として散らばった……?』
四人は凍りつく。
もしそれが本当なら――
“世界が静かになる瞬間に”
誰かが、
最後の曲の“サビ”まで辿り着けなかった。
その残滓だけが
世界中に散って残り続けている。
そして、
LISTENERSはついに
その“回収地点”にたどりついた。
【レコード店跡・潜入】
四人は、
割れたガラスから慎重に店内へ。
中は暗く、
ほこりと湿気の匂い。
しかし、
ミオの視界には
棚の上、壁、奥のスタジオ跡――
あらゆる場所に
“音の残り香”が浮かぶ。
・未完成の歌詞の断片
・録り直しの合図
・深夜まで残っていたコーヒーの湯気
・誰かの息遣い
そして店の奥。
録音スタジオだったであろう部屋の扉が
淡く青い光を放つ。
優斗の耳の奥で、
かすかな音の影が揺れる。
――あ
り
が
と
う
音にはならない。
だが、その“形”がしっかりとある。
健は胸に手を当て、
深く息を吸う。
健(心の声)
『この歌――
“ありがとう”と言おうとして
言えなかった誰かの歌……?
もしかして、
歩道橋の“り”も、
駅の“あ”も、
全部この歌の“欠片”だった?』
葉山が、
扉の前でひとつのメモを残す。
葉山
『開ける前に言っておく。
この“歌のコア”は
普通の音場より危険。
音楽は、
音の中でも特に
“感情”と結びつく。
――揺さぶられる覚悟を。』
四人は頷く。
ゆっくりと、
扉を開く。
中には――
誰もいない小さなスタジオ。
だが壁には、
未完成の歌詞が無数の文字粒として
空中に漂っている。
『あ……
り……
が……
と……
う……』
澪の目に涙が浮かぶ。
澪(手話)
『この歌、
サビの“ありがとう”で
止まったんだ……
言いたかったのに
言えなかった人の歌……。』
優斗が、
そっと手を伸ばす。
その瞬間、
スタジオ全体が淡く揺れ――
天井近くの空間が、
“人の姿のような光”に変わる。
白い光のシルエットは、
まるで歌おうとするように
口を動かす。
でも、音はない。
健だけが、
その“歌の影”の中に
はっきりひとつの気配を感じ取る。
――母
の
声?
健は目を見開く。
胸の“ごめん”が
強く疼く。
健(心の声)
『……まさか。
これ、俺の……?
いや、違う。
でも……
似てる……
俺が昔、聞いたことある気がする……
誰かが俺に向けて
言いかけた“ありがとう”……?』
そのとき。
外から、
淡い光の粒が
スタジオ内に流れ込んできた。
それは、
アプリにもリストにも登録されていない
“新しい形の光”。
優斗
「これは……?」
澪
(手話)
『違う……
LISTENERSじゃない……
誰かが見てる……!』
葉山が振り返る。
スタジオの入口に――
黒いコートの人物が立っていた。
顔は見えない。
だが手には、
LISTENERSのアプリとは違う
不気味なデバイス。
そのデバイスが
歌の粒子を吸い込んでいる。
不明人物
(字幕)
『――“音”は、戻してはいけない。
静寂のままでいい。
それが世界を守る唯一の形だ。』
優斗
「……誰だ!」
人物は、
淡く笑う気配を漂わせながら答える。
不明人物
『LISTENERSに告ぐ。
“音の復元”を続けるなら――
君たちが壊すのは、
世界ではなく
“誰かの大切な静寂”だ。』
光が爆ぜる。
その人物は、
音もなく姿を消した。
残されたのは――
揺れる“ありがとう”の断片と、
不穏な気配だけ。
四人は、
スタジオ中央でただ立ち尽くす。
澪が涙の中で手話。
澪(手話)
『音を戻すことが
本当に“正しい”の……?』
優斗は、
唇を噛む。
健は、
胸の“ごめん”を抱えながら
静かに言う(口パク)。
健(口パク)
『……やるしかねぇ。
だって俺たちは、
“言えなかった言葉”を
拾い集めるLISTENERSだから。』
葉山は、
深く頷きながらメモする。
葉山
『敵が現れた。
“静寂派”の存在。
音を戻したくない勢力。
これが、
LISTENERSの“次の障壁”――』
スタジオの隅で、
“ありがとう”の文字がゆっくりと繋がり始める。
だがまだ、
サビには届かない。
ナレーション
『“未完の言葉”の行き先。
それは音へ続くのか、
静寂へ続くのか。
LISTENERSは今、
初めて“選択”を迫られる。』
カメラがレコード店跡の外へ引き、
夜の海が映る。
波の影が、
またひとつ静かに立ち上がって消える。




